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傷を抱えた名もなき英雄と、失われた姉を持つ少女は共に戦う ―人型兵器VS巨大怪獣―  作者: すなぎも


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第7話 将来と不謹慎

「つまらない思いをさせたな。すまない」


 ゲームセンターを出ると、伊月はすぐに頭を下げた。


「べ、別にいいですよ。気にしないでください」

「そうそう。乱入して何も言わずに出ちまうってのはマナー違反だけど、あそこまで言われる筋合いはねえって。相手が癇癪持ちだっただけだ、運が悪かったな」


 2人にそう言われ、伊月はお詫びとしてクレープをご馳走し、そのまま近くの公園へ移動した。


「いやーいいねー、やっぱり女の子が一緒って」

「わ、わたしなんて別に。いてもいなくても変わりませんよ!」

「そんなことねえって。なあ、伊月」

「男2人よりは華がある。おかげでクレープもおまけしてもらえた」


 3人はベンチに座り、夕暮れの公園で会話を交わす。夕日は焼けるようなオレンジ色で、公園中央の噴水を照らしていた。辺りに人影が少ないのは、先週の事件で治安がやや悪くなっているせいかもしれない。


「ここ、有名なデートスポットだったんだけどな」

「確か変な名前が付いていたな」

「恋人公園だよ、恋人公園!」

「ふむ……。知らんな」

「なんで少し偉そうなんですか……。確か一日に一回、噴水の勢いが増すんですよね。それを見たカップルは幸せな家庭を築けるとかなんとか」

「おっ、詳しいねえ八雲ちゃん。まさか彼氏と来たことあった?」

「な、ないですよ! いたこともありません! 友達から聞いたことがあっただけです!」


 からかう諏訪部に、八雲は顔を赤くして否定する。少し前までは賑やかだった公園も、いまや騒いでいるのは付き合っていない3人だけ。


 寂しげな光景が広がっていた。


「幸せな家庭か……。そういや2人は将来のこと、何か決めてる?」

「わたしは自衛隊に入隊することになっています。そこでジェネシスの整備士に。行き先ももう決まっていますから」

「や、八雲ちゃんがジェネシスの整備士に!」


 驚く諏訪部に、八雲は自分の祖父と祖母がジェネシスの整備士だということを説明し、高校卒業と同時にジェネシスが配備されている基地に就職することを告げた。


「コネなんですけどね……。お恥ずかしい」

「は、恥ずかしくなんかねえって! そ、それにしても。まさか八雲ちゃんが整備士ねえ」


 興味深げに八雲を眺める諏訪部。


「へ、変じゃないですか?」

「変なんてことないって。意外ではあったけど、へえ~、立派だなー。てか単純に凄げえ」

「そうだな。ジェネシスをいじれる整備士は限られた者だけだ。自慢の友人だ」


 二人は手放しに褒めた。

 実際、ジェネシスを扱える整備士は多くない。情報漏洩を厳しく取り締まり、どの部品を扱っているかすら他人に話すことは許されない。確かな腕を持った者しか触ることが許されず、八雲の祖父母は例外的に、幼い八雲にも触らせていたようだが。


「その歳で立派だ。担当するジェネシスも喜ぶだろう」

「機械が喜ぶわけねえだろ」

「例えの話だ。真面目に受け止めるな」


 ギャーギャー騒ぐ二人を、八雲は呆れた顔で見つめ。


「あ、ありがとうございます!」

「ん? 別にお礼を言われることじゃないと思うけど」

「このことを話しても褒めてもらったことがなくて。両親は危険だって反対するし、友達は野蛮だって変な目で見てくるし……」


 親なら、特に娘なら反対するのは当然か。

 友人の“野蛮”という評価もあながち間違いではないかもしれない。ジェネシスの整備士たちはどこか頭が可笑しい連中ばかり。いわゆる機械オタクの集まりだ。


「なに言ってんの! ジェネシスの整備士とか超凄いし! 普通に尊敬するわ!」

「ああ。それに、祖父と祖母なら喜んでくれるだろう。孫が整備士になるんだ。誇りに思うに違いない」


 その言葉に、八雲は嬉しそうに頷いた。


「で、伊月は? なにか決まってるのか?」

「俺は……。なにも決めていない。どうすればいいのかも分からないな」


 沈む夕日を、どこか遠い目で見つめる伊月。


「なんだよ、伊月もかよ! じゃあオレと一緒になにかやろうぜ!」

「なにを?」

「なんでもいいんだよ! 一緒にバンドでもやろうぜ!」

「このご時世でそれは無理だ。それに、俺は楽器が苦手でな」

「真面目に返すなよ!」


 何の変哲もない、2年間変わらぬ遣り取り。このベンチ周りだけを見れば、エネミーがいない時代と変わらぬ光景かもしれない。

 1人の少年が仏頂面で首を傾げ、1人の少年がその頭を叩き、1人の少女がそれを見て楽しそうに笑う。平和な日常。


「オレはさ、伊月。お前が全然変わらない奴だから一緒にいるんだ」

「変わらない奴?」

「ああ。みんな、エネミーが街に近付く度に変わっちまった。ヤバイヤバイ言って会話にならない奴がいたり、急に正義感強くして武勇伝を聞かせる奴がいたり」

「しょうがないことだ」


 どうにもならない恐怖。エネミーは襲来し続け、高校入学から二年でその脅威は増すばかり。ついには隣街が壊滅した。まともな者なら、内陸へ逃げているだろう。


「しょうがない、か。でもさ、伊月は変わってないぜ?」

「どういう意味だ?」

「そのまんまの意味だよ。入学して初めて喋ったあの日から、伊月は何も変わってない。同い年のくせに妙に落ち着いてて、強面の仏頂面で、何を考えてるか分からない。なにがあっても、お前だけは変わらなかった。だから、オレはお前といたいんだ。お前なら、いつまでも変わらずにいてくれる気がするからさ」


 その言葉に、伊月はやはり仏頂面で首を傾げた。


「すまん。よく分からん」

「そういうところが好きだって言ってんだよ!」


 背中をバシバシ叩く諏訪部。伊月は友人のその行動に、口元を微かに緩ませた。


「おいおい、学生さんはお気楽でいいねえ」


 そこへ、柄の悪そうな3人組が声をかけてきた。

 服は埃にまみれ、頬や腕に擦り傷を負っている。聞かずとも分かる、先週のエネミー襲撃で被災した人々だ。


「俺たちがあんな悲劇に見舞われたのに、こんな公園で楽しそうに談笑なんてよ」

「それがどうした」


 3人の手にはバットや鉄パイプが握られている。

 だが、伊月の態度は堂々としていた。


「伊月! 逃げるぞ!」

「おっと、いかせませんよ~だ」


 八雲の手を取り走り出そうとした諏訪部が、先回りされ表情を歪める。


「あ~あ。自衛隊の皆さんが街を復旧させてるってのに、お前らは気楽でいいよなー。不謹慎極まりねえなー。俺たちがこんなにも不幸なのに楽しんでるなんて」

「ふ、不謹慎って言ったって、放課後に学生が遊ぶのは当たり前だろ!」

「なにとち狂ったこと言ってんだ、てめえ。今回の襲撃でパイロットが十二人も死んだっていうのに。そんな人の気持ちを考えずに遊んでる連中なんざ不謹慎だろ? お仕置きが必要だよなあ」

「ああ、もうパイロットの無念を俺たちが代わりに晴らしてやるしかねえよ。パイロットさん、俺たちがこいつらをお仕置きするんで、許してやってくだせえ」


 嫌らしい笑みを浮かべ、バットを握った男が前に出た。


 ――その男が、吹き飛ぶ。


 声も上げられぬほどの威力で殴られた男は、数メートル転がり地面に横たわった。


「お前らみたいな奴が、ジェネシスのパイロットを語るな」


 伊月の顔に、確かな怒りが灯る。


「彼らは勇敢だ。市民を守るため、生活を守るために、自分の命を削って戦っている。そんな想いを踏みにじる奴らを、俺は許さない」


 背後から振り下ろされた鉄パイプを弾き、男の頭を鷲掴みにする。

 ギリギリと締め上げる指に、男は悲鳴を上げる。

 次第に抵抗を止め、地面に放り投げられる。


「お前らみたいな……。お前らみたいな奴らを守るために、アイツは――」


 最後の一人に向けて、伊月は足を踏み出した。


「グッ……」


 突如、伊月は血を吐いた。膝をつき、止まらぬ吐血を手で押さえる。口からだけでなく、鼻からも血が流れている。


「だ、大丈夫ですか! 伊月さん!」

「だいじょ……ガハッ……」


 吐血は止まらない。

 それを見た男が、バットを振り上げる。伊月も八雲もそれに気づかない。

 諏訪部は恐怖に顔を真っ青にし、ただそれを見つめるしかなかった。


「死ね!」


 バットが振り落とされる――。


 その瞬間、地面が揺れた。地震ではない。百年前から続く、地獄の始まりを告げる揺れだった。


『緊急警報。緊急警報。東京湾沖にクラスAエネミー出現。市民は速やかにシェルターへ避難してください。繰り返します。緊急警報。緊急警報』

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