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傷を抱えた名もなき英雄と、失われた姉を持つ少女は共に戦う ―人型兵器VS巨大怪獣―  作者: すなぎも


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第6話 衝突

 しばらくして諏訪部が球体から出てきた。ラスボスであるクラスSには敗れたものの、ハイスコアを叩き出したらしく、周囲の見物客から「おぉー」と歓声が上がる。


「それじゃ、次は伊月の番だぜ」


 促され、伊月は球体へと足を踏み入れた。


「頑張れよ!」

「頑張ってください!」


 声を背に受け、操作方法を簡単に教わると扉を閉めてコインを投入する。

 レバーを引き、ボタンを押し、フットペダルの感触を確かめる。


「……なるほど。こういうものか」


 つぶやきながら説明画面を飛ばしていく。ジェネシス選択画面が現れると、最も人気があるのは日本の第四世代ジェネシスである迅雷零式。次点で第二世代の英雄と称された風見鶏。こちらも日本のジェネシスだ。


 だが伊月は、それらに目もくれずスクロールを進める。


「こいつを動かしてみたかった」


 選んだのは、アメリカが誇る第四世代――レジェンディア・アース。

 他の機体より一回り大きく、見た目には鈍重そうだが、誤差修正機能(ブリングシステム)とパイロットの適性が噛み合えば第二世代すら凌ぐ俊敏さを発揮する。

 肩に載せられたカノン砲、両腕に装備されたガトリング。全身に重火器を備えつつ、胴部には熱光線砲を搭載。遠距離戦に長けているように見えて、その巨体から繰り出される拳は重く、接近戦でも無類の強さを誇る、まさに万能型のジェネシスだった。


「悪くないな。こういうのも」


 ゲームがスタートする。まずは操作確認のために適当に動かすと、シートが揺れた。どうやら諏訪部の言っていた「本物そっくりらしいぜ」という意味はこれらしい。


「なるほど」


 仏頂面の口元が微かに吊り上がる。

 画面に映るレジェンディア・アースは、初めてとは思えぬ軽快な動きを見せていた。


 それを見ていた諏訪部と八雲も感嘆の声を漏らす。鮮やかに機体を操り、エネミーを駆逐していく。プレイヤーの楽しむ姿が画面から伝わるかのようだ。攻撃を大袈裟に避け、決め技は敵の種類に応じて変えている。


「これ、レジェンディアの動きをそのまま真似てます……」


 八雲が小さく呟いた。


 その通り、その動きは実在するレジェンディアの戦法そのものだった。

 正確な射撃で敵の動きを制御し、移動コースを絞る。接近してきたエネミーの攻撃をかわし、豪快に拳を腹に叩き込む。その隙に熱光線を叩き込み、呻く敵の尻尾を掴んで地面に叩きつけ、零距離カノン砲で頭部を粉砕する。


「アラスカ湾に現れたクラスB、トーネイドを倒した時と全く同じ動きです」


 八雲の言葉は的確だった。

 伊月は、ゲームとはいえ楽しみながら自分の記憶を辿り、レジェンディアの動きを完全に再現している。シートの振動、揺れる視界――すべてが彼の気分を高揚させた。


 このまま行けば、クラスSSでさえ無傷で倒せるのではないかと――。


『UNKNOWN UNKNOWN』


 突如、画面が暗転し、そう表示された。

 何事かと脇に置かれた説明書を確認すると、どうやら乱入されたらしい。プレイヤー同士で対戦できるモードのようだ。


「もう少しだったのに」


 嘆息しつつ画面を見ると、敵の機体は迅雷零式だった。


「そういうことか」


 ベルトを外し、扉を開ける。

 「出るな」とアナウンスが流れていたが、伊月は気にもせず球体を出る。


「な、なにやってんだ伊月! 対戦だろ!」

「ジェネシスを相手にしたくない。あれは俺たちを守ってくれている機体だ」

「で、でも……」


 周囲の視線が集まる。どんな奴がプレイしているのかという好奇心と、なぜ対戦をしないのかという不満の視線だ。だが、伊月は気にした素振りもなく歩き出した。


「待てよ」


 声をかけてきたのは乱入してきた男性だった。二十代前半ほどで、茶色に染めた髪、柄の悪い目つきでこちらを睨みつける。服装は若者らしくお洒落だが、ゲームを楽しむようには見えない。


「なんで対戦拒否しやがる」

「対戦があるなんて知りませんでしたので、すみませんが」


 行こうとする伊月の肩を、男がつかむ。


「いいじゃねえか。オレと対戦しろよ。てめえ、なかなかいい動きしてたぜ」

「ありがとう、ございます。ですが、俺はジェネシスと戦うつもりはありません。敵はエネミーだけで充分です」

「あぁん? てめえはなんだ? ジェネシスのパイロットか?」

「一般市民ですが」

「んだよ。じゃあただの痛々しい気取りかよ! バカバカしい野郎だぜ! なにが敵はエネミーで充分だ。糞だっせえ野郎がよ! ゲームが上手くても実際にエネミーが攻めて来た時はシェルターで尻丸めて震えてんだろ? こんなところでしかイキレない可哀想なクソ野郎が!」


 怒鳴り散らす男に、伊月は無表情で応じる。


「そうですね。よかった。おめでとう。お疲れ様でした」


 いつもの無愛想な顔で拍手する。その顔には一切の感情がなく、「俺はお前なんかに興味はない」と言っているかのようだった。


 その態度に、男の表情が一変する。


「て、てめぇ! シェルターで震えてるだけの一般市民の分際でこのオレ様に!」


 胸ぐらを掴もうとした青年は――床に叩き付けられた。

 瞬間、眼前に靴の裏が迫り、鼻先で止まる。


「シェルターで震える人をバカにするな。俺たちがどんな気持ちで、どんな思いでシェルターで震えているか分かっているのか? お前は」


 静かだが、確かな重みのある言葉だった。


「パイロット気取りなのは悪かった。気に障ったなら謝る。俺は痛々しい奴だ。だが、シェルターで恐怖に震えることをバカにしないでくれ。俺たちには、それぐらいしかできないんだ」


 伊月は足をどけ、歩き出す。

 八雲と諏訪部は、すぐにその後を追った。


「……聞いていた通り、変な人ね」


 それを影から見ていた者に気付かずに。


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