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傷を抱えた名もなき英雄と、失われた姉を持つ少女は共に戦う ―人型兵器VS巨大怪獣―  作者: すなぎも


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第5話 彼女の理由

 街はいつもと変わらず賑やかだった。

 ゲームセンターの前には学生たちが集まり、店内も笑い声や機械音で溢れている。


 ――隣街が壊滅したばかりだというのに。


 そう思うかも知れない。だが、これはエネミーに襲われ続けた国が、長い年月の中で作り上げた「強さ」とも言えた。


 どこかの街が破壊される度に立ち止まっていては、日本の経済はとっくに崩壊していたはずだ。エネミーとの戦いはすでに百年を超えている。


 決して故郷を失った悲しみに、人の死に慣れたわけではない。

 それでも、人は生き続けなければならない。


 だからこそ被害が出ようと生きている街は動き続ける。

 それは国家の決断であり、市民一人ひとりの覚悟でもあった。


「やっぱり伊月には敵わねえな」

「強いです……」


 3人はゲームセンターのエアホッケー台を囲んでいた。

 勝負は伊月の圧勝。諏訪部は1点も取れず、八雲がラッキーショットで辛うじて1点を奪っただけだった。それでも勝ったはずの伊月が首を捻っている。


「軌道の目測を誤ったか……」

「な、納得いってないみたいですよ?」

「あいつ、変なとこで真剣になるんだよな……」


 苦笑しながら伊月に近づく2人。


「お前のその無駄な強さはなんなんだよ!」


 諏訪部の拳が伊月の腹に軽く突き刺さる。

 だが伊月は眉一つ動かさなかった。


「急に殴るな」

「い、伊月はなんでそんなに筋肉つけてんの? 自衛隊にスカウトされたりしねえのか?」

「なんだ急に」

「だってさ、その無駄に丈夫な体とか、無駄にいい運動神経とか……。なにもしてねえ方が不思議だよ。なあ、八雲」

「それは……。そうですね」


 八雲は小さく頷いた。

 この時代、体格のいい者はたいてい自衛隊に入隊する。

 少しでも誰かの役に立ちたい。そう考える人が多いのだ。

 もちろん、恵まれた体格がなくても入隊する者はいる。身内をエネミーに殺された者、日本を守りたいと願う者、あるいはジェネシスに乗って最前線で戦いたいという者。理由はそれぞれだ。

 

 だからこそ、筋肉質な体つきを持ちながらも、部活にも入らず普通に学生をやっている伊月のような存在は珍しかった。


「無駄無駄と言うが、無駄ってわけじゃない。避難の時には役に立つだろ」

「じゃあ……自衛隊には?」

「入ってるわけないだろ。もしそうならこうしてゲーセンに来てない」


 つい一週間前、隣町はエネミーに破壊されたばかりだ。自衛隊ならいまも救助や復旧の最中に違いない。


「実はジェネシスのパイロットとか?」

「お前らと一緒に地下シェルターに逃げてる。パイロットだったらジェネシスに乗って戦ってるだろ?」


 そりゃそうか、と諏訪部はあっけらかんと笑った。

 先週、エネミーに襲われたときも三人で肩を寄せ合い、シェルターの中で震えていたのだ。そもそもパイロットなら、学校に通っているはずがない。


「おっ! あれやろうぜ!」


 諏訪部が指さした先には、巨大な球体が八つ並んだ筐体ゲームがあった。球体にはハッチがついており、覗き込むと――そこには教科書やテレビで見たことのある、第二世代ジェネシスのコックピットが再現されていた。


「こんなものがあるのか」

「知らなかったのか? 本物そっくりらしいぜ」

「人気なのか?」

「まあな。これが面白くて“パイロットになりたい”って思うやつもいるくらいだ」


 なるほど、と伊月は頷く。

 日本政府がわざわざゲームとして普及させているのも、パイロット志願者を一人でも増やすためなのだろう。第四世代は適性が必要で選ばれた者しか操縦できないが、第二世代なら実力次第で誰でも乗れる。


 もしかしたらスコアがいい者は声がかかる仕組みになっているのかも知れない。


「面白そうではある」

「だろ? まずオレがやるから見ててくれよ!」


 諏訪部が球体に飛び込むように入り、ハッチを閉めた。

 外からは内部が一切見えなくなる。


「な、なにをしてるんですか、伊月さん」

「いや。プレイ中に外から開くか試しただけだ」


 扉には〈プレイ中〉の文字が浮かび、びくともしない。伊月は軽く頷き、大画面の前に八雲と並ぶ。


 諏訪部が選んだのは、フランスのエースが2年前に乗っていた第二世代スィエル。空戦を意識した細身の水色の機体で、ブレイドによる接近戦を得意とする。派手な武装はないが、機動力と正確な急所攻撃で名を馳せたジェネシスだ。


「スィエルですか……。ずいぶん渋いですね」

「渋いか? 欧州じゃ相当な戦果を上げていたが」

「日本人にしては、って意味ですよ」


 大画面は八分割され、それぞれのプレイ映像が並んでいた。見れば、諏訪部以外の7人はすべて日本製の《迅雷》を選択している。ランキングを見ても、日本のジェネシスばかりが上位を占めていた。


「やっぱりカッコイイですもん、迅雷。日本人なら使いたくなりますよ」

「そうか?」

「はい。でも、ジェネシスに詳しそうにない諏訪部さんが、なんでスィエルなんて選んだんでしょうか?」

「……さあな」


 軽やかに画面を舞うスィエルを見つめながら、伊月はどこか遠い声で呟いた。

 聞き取れなかったのか、八雲は不思議そうに首を傾げ、伊月を見上げていた。


「それにしても、八雲はジェネシスに詳しいんだな」

「意外ですか?」

「ああ。そういうのは嫌いだと思っていた」


 彼女と出会って2年、そんな話をしたことはなかった。世話焼きで大人しげな見た目、争いや兵器を好むタイプには見えない。実際、街にはジェネシスのキーホルダーを鞄にぶら下げた女子も多いが、八雲の鞄にはそうした飾りひとつなかった。


「伊月さん、勘違いしてますね。わたしはジェネシス、大好きですよ?」


 横目で窺うと、八雲は頬をほんのり赤く染め、画面を食い入るように見つめていた。鼻息まで荒い。その姿に、伊月の無愛想な表情がわずかに緩む。


「ジェネシスが好き、か」

「はい。わたしの夢、実はジェネシスの整備士なんです」

「意外だな。理由を聞いていいか?」

「理由という理由は特にありませんけど」


 八雲はコホンと咳払いし、胸を張って宣言した。


「ただ単に――ジェネシスが好きなだけです!」


 伊月は小さく頷き、視線を画面へ戻す。


「そうか」


「そ、そこは突っ込むところです! 冗談……いや、冗談じゃなくて、本当に好きなんですけど! で、でも他にも理由はありますから!」

「なにを慌てている。俺は別に気にしていない」

「伊月さんがスルーするからですよ!」


 顔を真っ赤にして慌てふためく八雲。彼女なりの冗談だったらしい。


「では、他の理由とは?」

「もう。なんで女の子が整備士を目指してるって言って疑いもしないんですか」


 八雲は小声でぶつぶつ言っていたが、伊月は聞き流した。

 本人にとってはそれほどおかしい話ではなかったからだ。胸を張られたときは、さすがに頬に一筋の汗が伝ったが。


「実は、迅雷を整備していたのは、わたしのお爺ちゃんとお婆ちゃんなんです」

「……八雲。一鉄と叶の孫なのか?」

「ご存じなんですか?」

「有名人だろう。世界で初めて第四世代ジェネシス《迅雷・零式》を整備したチームだ。その名を知らぬ者なんていないと思うが」

「で整備士まで知ってる人って、そんなに多くないと思いますけど」


 首を傾げる伊月に、八雲は苦笑した。


「小さい頃から、ずっとジェネシスに囲まれて育ったんです。お爺ちゃんたちと一緒に触っているうちに、気づけば大好きになっていて……」


 もじもじと俯き、耳まで真っ赤になってしまう八雲。


「なら、彼らもきっと喜んでいるだろう。優秀な跡取りができたってな」

「そ、そうでしょうか?」

「いや、知らんが」


 あまりに素っ気ない返答に、八雲は「なんですかそれ……」と呆れ顔。だがすぐに、大画面で敵を倒すスィエルを見て、ぱっと目を輝かせていた。

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