第4話 過疎化
「今日はどこ行く? カラオケ? ボーリング?」
「なんで行く前提なんだ」
「なんでって、オレが伊月と遊びたいからだよ!」
馴れ馴れしく肩を組んでくる諏訪部を、伊月は面倒臭そうに押し返した。
無愛想な顔にさっぱりとした黒髪。細身ではあるもののガッシリとした筋肉が付いている、背丈は高校生にしては大きい伊月と、細身で平均身長の諏訪部。
仮に諏訪部が抱き着いても、伊月なら簡単に引き剥がせるだろう。
「なんで俺みたいのに絡む。別に面白くもないだろ」
「いいじゃんいいじゃん! オレは伊月が好きなんだよ!」
いつもの人懐っこい笑みを浮かべて接近する彼を、再び伊月は手で押しのけた。
「まだ残ってる他の奴と遊べばいい。わざわざ俺みたいな奴と遊ぶことはないだろ」
「いいんだよ伊月で! こんな状況じゃなくてもオレは伊月と遊びたいの!」
二人の言葉。
『まだ残っている奴』
『こんな状況』
というのは、2人が通う学校の生徒が既に半数しか残っていないからだ。
一週間前、クラスBのエネミーが日本を襲撃した。
本来なら本土に上陸する前に海上で撃破するのが理想。だが、近年の日本は深刻なジェネシスのパイロット不足に悩まされていた。結果として、敵は内陸の東京にまで侵入を許してしまったのだ。
エネミーは基本的に海から出現する。空を飛ぶ個体も稀に確認されているが、それはごく限られたケースに過ぎない。ゆえに、内陸に住む方が比較的安全と考えられているのだ。
そのため、東京を捨て、埼玉や群馬、栃木といった内陸へ移住する者が増えている。結果、生徒が半数しか残っていないという状況にあり、『こんな状況』で『ここに残っている者』はほんの一握りなのだ。
「俺の何がいいのか全く分からない。客観的に見てもつらまん奴だ」
「そんなことねえって! 伊月は一緒にいて面白いぞ。なんか普通の奴とは違うとことか、こんなことになってんのに全く変わらないとことか」
「それはそうかもしれないが」
「ともかくオレは伊月と一緒にいたいの!」
「お前は俺の彼女かなにかか?」
「それもありだな!」
「勘弁してくれ」
頭痛がしてきたと頭をおさえる伊月。
電子音が響いた。屋上で鳴り響いた音と同じもの。伊月は制服の内ポケットからスマホを取り出す。新着メールを見ると、昼間と同じ千条優翔からのメール。内容は、やはりなんの変哲もないもの。
「まさか彼女! そして浮気! 伊月浮気!」
「うるさい」
演技染みたリアクションをしながら騒ぐ諏訪部を無視し、伊月は慣れた手つきでメールを返信していると。
「伊月さんと諏訪部さん。こんなところでなにをやってるんですか?」
昇降口で靴を履き替えていた八雲が靴下のままこちらへ駆け寄ってきた嬉しそうに小走りする彼女は、まるで尻尾を振ってご主人様に近づく子犬のようである。
「どこに遊びに行くか決めてたんだ。今日はゲーセンかな?」
「勝手に話しを進めるな」
嘆息しつつも「しょうがない」と呟いているのを見ると、実のところ満更ではないのかもしれない。楽しそうにあれこれ予定を口にする諏訪部と仏頂面の伊月を交互に見える八雲。
「あ、あの! わたしも一緒に行っていいですか?」
「えっ? えっと」
「ダ、ダメでしょうか?」
上目遣いでこちらを窺う八雲に、2人は見合う。
彼女が一緒に遊びたいと言って来たのは初めてのことだった。学校では友人として接しているが、プライベートになるとそこまで連絡を取り合っていない。諏訪部が気紛れで誘ったことが数度はあったかどうか。
「急にどうし――いだっ」
喋ろうとした諏訪部の脇腹を突いて止めたのは伊月。
なんだよ、と不服そうにこちらを見る諏訪部に、伊月は視線を下駄箱に向けた。
そこにあるのは八雲と仲がよかった友人の下駄箱だ。
彼女は一昨日、ここを離れた。
エネミーに襲われないよう、内陸へ引っ越したのだ。
「い、いいぜ! 一緒に遊ぼう! な、伊月!」
「コイツの面倒を見てくれると助かる」
「なんだと! それじゃあオレがいつも伊月に面倒見られるみたいじゃねえかよ!」
「違ったか?」
「あながち否定はでえきねえな!」
「やかましい奴だ」
絡む諏訪部を腕で払う伊月。
その二人を見て、八雲は満面の笑みで頷いた。




