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傷を抱えた名もなき英雄と、失われた姉を持つ少女は共に戦う ―人型兵器VS巨大怪獣―  作者: すなぎも


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第24話 散る命

 夕暮れ、校舎の屋上に1人の老人が立っていた。

 眼前に迫るのは、これまでに見たことのない絶望の黒である『闇』。

 仮面のような白い面が小刻みに揺れ、不気味な黒い丸が老人を射抜いていた。


「あ、あなた! ダメだよ! 先に逝ったらダメだよ!」

「婆さんはそこを動くな! お前は、ワシが守る」


 電車の中から必死に叫ぶ妻に背を向け、老人は銃を構える。

 一か月前、出会った少年から託された黒い銃。震える皺だらけの手がそれを握りしめ、巨大な闇へと向けていた。


『………………』


 声ひとつ発さず、ただ人の形を模した怪物がそこにいる。

 あと一歩で校舎を踏み潰す距離。


「お前は……。ワシの大事な教え子たちを殺した……。彼らはまだ若く、未来を担う希望の塊だった! それを、日本の未来を!」


 老人の頬を涙が伝う。

 それでも闇から目を逸らさない。


「あなた。大丈夫。わたしも一緒です」


 老婆が寄り添い、夫の腕を支える。


「婆さん、すまん。ワシが、もっと賢ければ……」

「いいんですよ爺さん。生徒を想い続けるあなたが好きでした。だから、もう悔いはありません……」


 温もりに支えられ、震える指が引き金に掛かる。


「立ち上がれるんじゃ。この国は、何度でも立ち上がる! お前ら化け物には分からんだろうが! 後は頼んだぞ! 千条よ! 強き少年よ!」


 闇が蠢き、細く武骨な腕が持ち上がる。


 次の瞬間、その姿は消えた。


 突風が藤崎夫婦を襲う。


 ――目に映ったのは、闇を吹き飛ばす紅の閃光。


『間に合ったか』

『ええ、行くわよ伊月!』


 稲光・雷砲式が翼を火花のように噴かせ、闇を押し飛ばす。稲光は咆哮するかのように推進力を増し、空気を裂く炎で、闇と正面からぶつかり合った。


『ダメ! このままじゃ押さえつけられるわ!』

「だったらこれだ!」


 右肩のレールガンが唸りを上げる。

 発射に必要な五段階バレルのうち、二段階が展開。

 闇の怪力は推進を完全に封じ、稲光の機体を縛り付けていた。


「二十%――レールガン発射!」


 電流が奔り、零距離で弾丸が放たれる。青白い閃光は闇の左肩を貫き、黒い液体が噴水のように飛び散った。巨体がよろめく。稲光は機を逃さず、プラズマを纏った拳を白い仮面へと突き出す。


「これで――!」

『待って! 先に左腕を! いまの力じゃ抜け出せない!』


 涼翔の叫びに反射的に操作を変える。

 拳は仮面を逸れて、稲光を縛る腕へ直撃。

 眩い光が弾け、傷つかないものの、確かに握力は弱まった。


「プラズマ、放出!」


 稲光の全身から電撃が炸裂。

 闇の体が痙攣し、青白い光を散らして後退する。


「――これで終わりだ」


 両手にプラズマを溜め込む稲光。

 決着をつけるべく叩き込もうと踏み込んだ、その時――


『熱源反応! 来るわ、避けて!』


 涼翔の声が意識の奥底まで突き刺さる。


 闇の胸部、仮面の奥に紅い光が灯り始めた。

 稲光のセンサーが狂ったように警告を乱打する。

 けたたましい電子音、耳の奥で破裂するようなノイズ。

 ZXが不必要な情報だとすぐさまそれをシャットアウトする。


 伊月の汗が一筋、頬を滑り落ちる。


「間に合え!」


 伊月の絶叫と共に、稲光の翼型が爆ぜるように噴射。

 一瞬にして闇との距離が出来上がる。


 その刹那、さっきまで稲光が立っていた地面が閃光に呑まれる。

 

 轟音。

 

 遅れて衝撃波が襲いかかり、稲光の装甲を激しく揺らした。

 ただの一撃で地面が深く抉り取られるように窪んでいる。


「一撃でこれか」


 伊月の喉が震え、声が漏れる。

 もし、あのまま一瞬でも遅れていたら、今頃、稲光ごと蒸発していた。


『直撃したら耐えられないわ! 気を抜かないで!』


 涼翔の声に、伊月は荒い息を整え、闇を睨み据えた。

 爆炎の向こう、なおもゆらりと立ち上がるその闇。

 まるで爆発の中心にいたのが当然であるかのように。


『報告。学校は無事です』


 ZXの報告に、2人は一瞬だけ安堵の息をついた。

 だがその直後、闇がゆらりとこちらへ振り返る。


 二つの黒点、あれが目なのか。

 ただ見られただけで、稲光のモニターに激震が走った。


「ぐっ!」

「な、なに!」


 主モニターが唐突にブラックアウトする。

 涼翔が必死にリセットを試みるが反応はない。

 サブカメラに切り替えると、そこには変わらず無言でこちらを凝視する闇の姿。


『メインカメラが落ちてる! 頭部がやられてる!』

『なにがあった!』

『分からない! でも来るわ、逃げて!』


 翼型と背部ジェットが一斉に火を噴き、稲光が疾走する。

 その背後を、不気味に伸びる二本の腕が追う。


『腕よ! アイツ、腕を伸ばして攻撃してきたの!』


 黒い腕は関節を持たず、ゴムのようにしなる。

 地形を無視し、空間を裂くかのように稲光へ襲いかかる。

 距離を取っても、じわじわと間合いを詰められていく。


『五秒後に追いつかれる!』

「だったら!」


 稲光の腰から白煙が一気に噴出。

 濃霧のような煙幕を張り、稲光は鋭角に旋回する。

 視界は完全に白に覆われ、闇の目を遮断した。


『奴は?』

『動かない……。腕も止まってる』

『弱点は? 核のような部位は』

『見つかってないわ。それに、硬すぎる。ブレイドもプラズマも効かない。唯一通るのはレールガンだけど、消費が』


 その時だった。


 轟音。

 稲光のすぐ脇、ほんの数メートル先の地面が爆ぜた。

 瞬時に生じたクレーターが煙幕を吹き飛ばし、闇の黒点が再び稲光を捉える。


『補足されているわ。目眩ましは効果ないみたいね……。来るわ!』

「ぐっ!」


 稲光が咄嗟に発進する。

 浮遊する脚部が砂塵を巻き上げると、その直後の地面が次々と爆ぜた。


 地面を滑るように走り続ける稲光のすぐ後ろが、次々が爆発していく。


 最初は狙いが甘かった。

 だが、次第に爆発の位置は正確になり、稲光の軌跡をなぞるように迫ってくる。

 振動がコックピットを揺さぶり、二人の顔に焦りが走った。


『次は直撃するわ!』


 闇の黒点がぎらりと光る。


『今よ!』


 円を描くように闇の周囲を旋回していた稲光が、一直線に闇へと突進する。


『手が来るわ! 避けて!』


 二本の腕が鞭のようにしなる。

 その軌道を涼翔が先読みし、情報が伊月の脳に突き刺さった。


「――っ!」


 一本目は身を屈めて掠め、二本目は左前腕のシールドで受け止める。

 金属が火花を散らし、脳髄に響くほどの振動がコックピットを襲う。

 それでも強引に潜り抜け。


「これで!」


 稲光が両腕を弾き払う。

 展開されたレールガンの銃口が、闇の仮面へと突き付けられる。

 電流が走り、バレルが唸りを上げた。


『間に合わない! 避けて!』


 涼翔の叫び。

 咄嗟に稲光は後方へ跳ぶ。

 一度は避けた黒腕が、煙を裂いて迫る。


「くらいやがれ!」


 体勢を崩しながらも伊月は引き金を引いた。

 白熱した弾丸が空気を裂き、闇の腹部を貫く。

 黒い液体が噴き出し、地面を焦がした。


 ――だが同時に。


「ぐっ……!」


 稲光の右肩を黒腕が叩き付ける。

 轟音と共にレールガンの砲身が潰れ、肩部装甲が深々と抉られた。


 コックピットに警報が鳴り響く。


『右肩ユニット損壊! アイツ、レールガンを狙って来たわ! 学習してる!』


 サブカメラに映るのは、腹部を抑えながらなお睨み続ける闇の姿。

 その両目のような黒点が、よりいっそう不気味に輝いていた。


『レールガンはもう使い物にならない。右肩もスラスタもいくつかやられた』


 涼翔が素早く損傷データを算出し、伊月の脳に流し込む。


『まだ動ける。でも、有効打を与えられる武器は潰された』


 闇はじっと立ち尽くしていた。

 黒い液体を滴らせながらも、痛みに呻くどころか身じろぎもしない。

 まるで機械のように静かに、ただ二つの黒点で稲光を見据えている。


 不利は明白だった。

 伊月が歯を食いしばり次の手を探していた、その時。


『七時方向に急速接近! これは、竜雲!』


 砂塵を裂いて現れたのは、蒼刃の機体、竜雲。

 腰や手、爪先、肘から伸びるブレイドが真紅に灼け、突進の勢いで地を滑る。


「竜雲じゃ敵わない! 退け、椎名!」

『何言ってやがる! お前が手こずってるから、オレが来たんだろうが! こんな得体の知れねえやつ、さっさと切り刻んでやる!』

「退いて椎名さん! わざと接近を許しているだけよ! そいつはデータを集めてる!」

『ビビってんのかよ、稲光のパイロットが揃いも揃って! オレは戦う! 竜雲を得たこの俺に、倒せねえ敵なんざ存在しねえ!』


 通信がぷつりと切れる。

 竜雲は加速し、灼けた刃を振りかざして闇に突進した。


 次の瞬間。


 轟音と共に、竜雲が爆炎に包まれた。


 闇がゆっくりとその黒い首を竜雲へと向ける。

 そして腕をわずかに持ち上げた瞬間、地面が連続して炸裂する。

 爆風に巻かれ、炎の中で竜雲が軋む悲鳴を上げた。


「椎名!」

『大丈夫、竜雲の反応はまだ生きてる』


 爆炎を突き破って、青い機体が姿を現した。

 装甲は焦げ、傷跡は無数に走っているが致命的な損傷はない。まるで爆発の雨を読んでいるかのように、竜雲は巧みに身を翻し、なおも闇へ迫っていた。


「死にやがれぇっ!」


 肘から二本のブレイドが射出される。

 風を裂く閃光。しかし次の瞬間、甲高い金属音を立てて黒い皮膚に弾かれた。


「なら叩き斬る!」


 竜爆煙を飛び越え、赤く染まった銀の刀を抜き放つ。

 灼熱のローラーを回転させ、その勢いで渾身の回転斬りを放った。

 が、刃は白い仮面に届く寸前、異様に伸びた腕に阻まれた。


『避けて椎名さん!』


 涼翔の悲鳴と同時、ブレイドが粉砕され、闇の手が竜雲の頭部を鷲掴みにする。

 黒い腕はそのまま伸び、竜雲を地面に叩き付けながら引きずり回した。

 機体は悲鳴を上げ、腕が砕け、脚がもぎ取られていく。


 最後に、学校の残骸へと叩き込まれた。

 轟音と共に校舎が崩れ、半壊した屋上に竜雲の残骸が突き刺さる。


『マスター。あそこは涼翔様の母校です』

「二人は?」

『無事です。屋上で倒れていますが、まだ息があります』


 カメラが寄り、瓦礫の中に横たわる藤崎夫婦の姿を映す。

 老人が妻を庇い、その腕の中でかすかに動いていた。


『伊月! 闇に熱源反応! 狙いは竜雲よ!』

「ネオリンクだ! 使うなら今しかない!」

『で、でも!』

「迷ってる時間はない! ZX!」

『不可能です。涼翔様が拒否しています。成功率ゼロ。許可はできません』

『涼翔!』

『ご、ごめんなさい……』


「クソッ! 間に合うか!」


 稲光が唸りを上げる。

 伊月は歯を食いしばり、全推力を叩き込んで竜雲へと進む。


「守ってみせる!」

『ダ、ダメ! 守っちゃダメよ! ダメ!』


 脳内に涼翔の悲鳴が迸る。


『ダメダメダメ! 庇っちゃダメ! だって、庇われた側は困るの! 勝手に守られて、置いていかれて……。そんなの、嫌! そんなの絶対』


 そこで伝達はぷつりと遮断された。


『どうした、涼翔! 涼翔! ZX!』

『不必要な情報と判断しました。シャットアウトしました』

『涼翔は!』

『理由は不明ですがパニック状態に陥っています。情報伝達は不能』

『ならリンクを解除しろ。ZX、俺に直接情報を! 涼翔の操縦権限は全部切れ!』

『リンク解除。第二世代モードへ移行します。セカンドパイロット権限、全て剥奪』


 モニターに走る文字列、数値、索敵マップ。

 だが伊月が見るべきものはただ一つ。

 学校に叩き付けられた竜雲。


『マスター、来ます!』

「間に合えッ!」


 稲光が竜雲の前へ飛び込み、シールドを突き出した。

 瞬間、衝撃。

 全身がシートに叩き付けられ、肺から空気が押し出される。骨を軋ませる痛みが全身を貫いた。耳をつんざく電子音が警告を告げる。


『シールド、及び左腕大破。涼翔様は衝撃で気絶。損傷を確認』


「脱出させろ!」

『了解』

 

 ぐったりとシートに預けられた涼翔の体。その周囲にエアークッションが展開される。伊月と涼翔の間に黒い隔壁が立ち、次の瞬間、涼翔の乗るポッドが稲光の背中から射出された。空を切り裂き、パラシュートを開いてゆっくりと落下していく。

 それを確認する間もなく、翼型が火を噴いた。


 稲光は学校から離れ、背後で次々と爆発が巻き起こる。


『目標の注意は完全にこちらへ向いています』

「上出来だ。あとは、俺がやる」


 左腕は大破、右肩も潰れレールガンは失われた。

 残る武装はただのブレイドのみ。

 それでも伊月は迷わない。


 稲光は進行方向を闇へと切り替え、右腕のブレイドを展開。赤熱した刃が火花を散らす。闇の腕が襲い来る。紙一重でかわし、刃で弾く。


「ぐっ……!」


 背後で爆風が連続する。

 衝撃で意識が霞み、疲労で体が重くなる。だが、止まれない。


「このやろうッ!」


 爆破をかわした分、速度が鈍る。その隙を狙って闇の腕が追いすがる。モニターに走る赤い警告。

 伊月は歯を食いしばり、腕をブレイドで捌いた。甲高い音と圧迫がコックピットを震わせる。


「帯電、解放!」


 稲光の全身が白く閃いた。溜め込んだプラズマを一斉放出し、闇の腕を怯ませる。

 機体の限界を超えたそれは、システムにエラーを走らせ視界を赤く埋め尽くす。


「こんなもん表示させるな!」

『了解、マスター』


 視界が晴れる。怯んだ一瞬を逃さず、稲光は翼を噴かせた。

 しなる黒腕をかいくぐり、赤熱のブレイドを白い仮面へと突きつけた。


「プラズマ!」


 甲高い音を響かせ、青白い電撃が闇に流れ込む。

 だが、効かない。

 光に包まれながらも、闇の手は稲光をがっしりと掴んだ。


「なっ……!」


 竜雲の時と同じように腕を伸ばし、稲光を遠くへ吹き飛ばす。

 握り潰されるような重力と衝撃が伊月を押し潰し、内臓が震えた。


 それでも稲光は動く。右手で闇の腕を掴み返し、必死に電撃を流し込む。

 それを嫌った闇は容赦なく稲光を投げ捨てた。

 真紅の機体は胴体から地面へ叩き付けられ、数メートルを滑走して動きを止める。


『右腕および右脚大破。翼型破損。行動不能。システムをダウンします』


 次の瞬間、稲光の光は完全に失われた。


『マスター。マスター』

「クッ……ぐ、ッ……!」


 吐血でレバーが濡れ、頭から流れる血が視界を覆う。

 伊月は朦朧とする意識の中、必死に呼吸を繰り返した。


「状況は……」

『稲光大破。再起不能です。闇は歩行で接近中。……涼翔様、竜雲、藤崎夫妻は無事のようです』

「そ、そうか……。それで……」

『どうにもなりません。我々の、敗北です』


 ZXの声は冷静で、しかし残酷に響いた。

 もう勝てる要素はない。希望など、どこにもない。


「ここまで、か……」


 握力が抜け、レバーから血塗れの手が滑り落ちる。

 諦めが胸を支配しようとした、その時。


 ノイズ混じりの通信音が割り込んだ。


『勝手に先行しやがってバカ野郎! だからやられちまうんだ!』

「い、五十嵐、さん……」

『死にぞこないの声だな。いいか伊月、絶対に死ぬんじゃねえぞ! 野郎共! 稲光と竜雲を回収して撤退だ! あとはオレがやる!』

「む、無理だ。あいつには、勝てない。俺たちを見捨てて、すぐに撤退しろ」

『バカ言ってんじゃねえ! 部下の失敗は上司の責任! 命令違反で突っ走った尻拭いは上官であるこの五十嵐がやるんだよ! 安心して寝てろボケが!』


 2機の流雲が稲光を抱え、地を滑るように撤退していく。

 最後に、五十嵐の声が飛んだ。


『達者で生きろや。バカ野郎』

「ま、待て。五十嵐、さん。そいつは……」


 伊月の声はそこで途切れ、意識も闇に沈む。

 静寂の中、五十嵐は深く息を吐いた。


『……ZX。後は頼んだぞ。そいつらと、日本の未来を』

『了解しました五十嵐少佐。命に代えても、マスターと涼翔様……。そして、この国を守ってみせます』

『それで充分だ。達者で生きやがれ、ZX』

『すぐに、また会いましょう』


 嵐雲の巨体が地鳴りを響かせ、闇へ突撃する。

 黒い怪物が振り向き、二本の腕を振りかざした。


「部下の尻拭いは上司の仕事ってなあ!」


 肩を貫かれ、腹を抉られても止まらない。

 爆発の炎に包まれながらも、嵐雲はなお前へ。

 五十嵐の咆哮が、振動するコックピットを揺るがす。


「死に時を見失ったこんな安い命くれてやる! だが、最後に見せてやるぜ。人間の意地ってやつを!」


 闇の手が、コックピットである腹部を貫通した。

 それは五十嵐の頭上、僅かに逸れて通り抜けていた。


「捉えた!」


 背中のジェットが轟音と共に爆発的に火を噴く。

 焼け焦げる装甲、火花に包まれる操縦席。それでも五十嵐は迷わない。

 嵐雲はなおも突き進み、闇と正面衝突した。


「掴んだぞ! てめえの命!」


 右腕のクローが仮面をがっちりと捕らえる。

 握り潰さんと唸る鋼鉄の爪に、中央のドリルが回転を始める。

 火花を撒き散らし、白煙を吹き上げながら迫る銀の螺旋。


「さあ、地獄へ行こうぜ」


 炸薬が爆ぜ、推進力を得たドリルが一気に前に押し出され加速する。

 

 闇の黒点が閃光を放ち、次の瞬間、嵐雲の胴が爆発で砕け散った。


「天ヶ瀬司令、この狂った世界をッ! ガキどもの、未来を!」


 炎に呑まれながら、五十嵐の叫びは最後まで力強かった。


 嵐雲は粉々に弾け飛んだ。

 それでも残された右腕はなおも仮面を掴み、ドリルは止まらない。

 甲高い音を響かせながら回転し続け、ついに白い仮面を穿った。


『――――ッ!』


 仮面に大きな亀裂が走り、銀の螺旋が闇の体を貫通する。

 もはや嵐雲は存在しない。だが、その腕とドリルだけは、確かに残っていた。


 夕陽に照らされながら、立ち尽くした闇の影。

 胸を貫かれたその巨躯は、黒い液体を噴き出し、動きを止める。


 それは、死んでなお貫かれた男の意地。

 散り際に刻まれた、五十嵐という男の、生き様そのものだった。

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