第2話 崩れた日常
伊月未来は学校の屋上で、青空を見上げながら寝転がっていた。
ふと、ポケットのスマートフォンが振動する。
画面を覗き込むと、届いていたのはメールだった。
差出人は千条優翔。
内容はなんの変哲もない日常会話。
「彼女?」
「ならいいんだが」
隣で同じように寝転がっている諏訪部に答えながら返信をする。
「彼女じゃないの?」
「わからない。相手が俺をどう思っているかは」
半身を起こすと、屋上の手すり越しに広がる都会の景色が目に入った。
高層ビルが乱立し、ガラス窓に青空や雲が反射してキラキラと光る。
車が行き交う道路、街中を動く人々の影。
なんの変哲もない都会の風景。
「そういやお気に入りの定食屋、潰さたらしいな。もうあの味が食えないと思うとオレは悲しいよ……」
「そうか。それは残念だ」
視線を反対側に向けると、そこに広がる景色は一変していた。
かつてのビル群は崩れ、鉄骨と瓦礫の山が延々と続いている。
焦げた建物の隙間からは煙が立ち上っていた。
「襲われてからどぐれい経った?」
「今日でちょうど1週間。復旧作業はするのかねえ」
「どうだろうな」
その中に、オレンジ色の小さな点が動いている。
消防隊員たちが瓦礫の間を駆け、懸命に生存者を探している。
果たしてそこに意味があるのか。
「もう少しでこの学校もああなってたのかと思うと、怖いのやら惜しいのやら」
「怖いと思うなら内陸に引っ越すといい。その方が安全だ」
「そうなんだけどね。なんかその、ねえ?」
諏訪部は曖昧な笑みを浮かべて同意を求める。
茶色に染められた長髪は毛先が跳ね、着崩された制服は若者のお洒落といった風だ。人懐っこい笑み浮かべる諏訪部を見て、伊月は仏頂面で問いかける。
「彼女でもいるのか?」
「い、いねえよ別に! ま、あえて言うなら伊月がいるからかな」
「言ってろ」
伊月はゆっくりと背伸びをして立ち上がった。
腕を伸ばし、肩を回す。
「もう行くの?」
「行かないと八雲が来るからな」
「でもまだ時間あるぜ。もうちょっと」
「見つけました! またこんなところでサボって! 授業始まりますよ!」
それ見たことかと目線で訴えると、お得意の人懐っこい笑みを浮かべて立ち上がる諏訪部。
視線の先に立っていたのは小柄な一人の女子生徒。黒い髪は肩までなく、高校の制服を可愛らしく着こなしている。短いスカートは風に揺れ、そこから伸びる足はストッキングに包まれていた。
「また二人してサボって! ちゃんと授業に出ないとダメですよ!」
「俺は行くつもりだったんだが諏訪部が」
「またそうやって誤魔化そうとして! 伊月さんだって悪いんですからね!」
「いや、俺は今から行こうとしていた。それにまだ授業は始まってな」
「言い訳は聞きません! 諏訪部さんも笑ってないで行きますよ!」
自分より頭二つほど小さい女子生徒、八雲に手を掴まれ引っ張られる。
どうやらご立腹らしい。
その足取りはドシンドシンと迫力があった。
伊月はバレないように嘆息し、諏訪部はそんな二人を楽しそうに見守りながら教室へと向かった。




