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傷を抱えた名もなき英雄と、失われた姉を持つ少女は共に戦う ―人型兵器VS巨大怪獣―  作者: すなぎも


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第14話 勧誘


「俺の思いは、伝わらなかったのか」


 事情は話した。

 だが、それでも諏訪部は自分から離れていった。公園で命を張ってまで助けてくれた友人なら、きっと理解してくれると信じていたのに。


「彼は行ってしまったようだね、心中お察しするよ。あっはっはっは……。そんなに睨まないでくれたまえ。諏訪部君にも色々あるのだよ。家族がエネミーに殺されたのは、クラスSSが出現した日だからねえ。もっと早く迅雷が来ていれば、と考えていたのかもしれない」


「それは、本当ですか?」


「こんな嘘をついてなんになるのだね? 彼は本当に家族を大事にしていたようだ。部屋には今でも写真が飾られているし、携帯の待ち受けも家族のものだ。部下に確認させたのだから間違いない」


「でも、それは」


「分かっているよ、伊月君。だがねえ、彼はまだ子供なのだ。誰もが大人になれるわけではない。その歳ではねえ。この狂った世界では、なおさらだよ」


 生まれてすぐにパイロットとして育てられた伊月には、理解できない気持ちだった。自分たちは常に必死でエネミーと戦ってきた。手を抜いたことなど一度もない。

 だが、それでも救えない命はある。その命は、パイロットからすればどうしようもない命。悔やむことはできる。だが、それで恨まれるのはあまりにも理不尽だった。


「気に病むことではない。あの時、迅雷はインドのエネミーを倒した帰りだったのだ。悪いとすれば、判断を急いだ私のせい……。まあ、私は人に恨まれすぎて今更何を言われようがなんとも思わんのだがね。これもこれで困ったものなのだよ!」


 あっはっはっ! 相変わらずの笑い声が天ヶ瀬の口からあふれる。


「さあて、そろそろ本題へ進もうか、伊月君。単刀直入にお願いしよう。再びジェネシスのパイロットとして隊に戻ってくれないかい?」


 天ヶ瀬の瞳は真剣だが、口調は相変わらず軽やかで、皮肉交じりに響く。


「ですが俺の身体は」

「なあに医学は日々進化している。キミの体は治ることはないだろうがねえ、あっはっは!」

「つまり死ねと?」

「その通り。国のために死んで欲しいのだよ。私は国のお偉いさんほど残忍ではないからね、嘘はつかない主義なのだ。キミは決して長くはない。……だが、言うほど短くもない。それはもちろん平穏な生活を送り、脳に刺激を与えない場合だがねえ」


 呆れるほど清々しい発言だ。

 国のために死んで欲しいと、高らかに少年に告げる。

 まだ成人にも満たない、現役を退いた伊月に。


「いやねえ、私とて心苦しいのだよ、伊月君。出来ることならキミには平穏な生活を送り、できるだけ長く生きて欲しい。だがねえ、如何せんパイロットが不足していて戦力が心もたないのだ。今の日本は」


 常にジェネシスのパイロットは募集されている。

 人数が少ないわけではない。

 だが、実戦で命を無駄にせず戦える者は不足していた。


 ジェネシスの操作は容易ではない。誤差修正機能(ブリングシステム)の補助があるとはいえ、操作に慣れるにはそれなりの時間が必要だ。


「第四世代を動かせる者は?」

「関西に2組いるのだがねえ、東京基地の者は誰も乗りこなせない。育成中のパイロットが1組ほどいるが、実戦に出せるレベルにはまだ程遠いのさ」


 訓練を積んでいない第四世代は戦力にならない。下手をすればパイロット自身が暴走する可能性すらある。第二世代ならまだしも、貴重な第四世代ジェネシスを無駄にすることは出来ない。


「関西基地は九州が酷い状態でねえ、救援を出してくれそうにないのだよ。稲光の技術をちらつかせて説得はしているのだが、なかなかねえ。せめて育成中が使えるようになるか、関西が救援を出してくれるかまでで構わないのだが」


 天ヶ瀬がちらりとこちらを見た。

 その表情に何が含まれているか、伊月には分からない。言うことの全てを信じるほど、平和に育ってきたわけではない。

 それでも、事態の深刻さは理解できた。東京基地の司令であれ、状況は変えられないのだ。


 無表情を貫く伊月に、天ヶ瀬が声をかける。


「……ふぅ。なあ伊月君。狂っているとは思わないかい? こんな世の中」


 その顔からいつもの陽気さが消えた。

 屋上を歩き、向かったのは壊滅した街が見える角。


 広がる残骸と廃墟。

 先日まで人が暮らしていたとは思えない惨劇。そこに居た者が生きているはずもないと、見ただけで理解できる絶望。

 この光景は海まで続いていた。神奈川は全滅。千葉も海沿いは壊滅状態だ。自衛隊が撤去活動を進めているが、度重なるエネミーの出現で難航している。それでも、なんとか神奈川中程までは荒地として片付けた。


「狂っているのだよ。こんな光景は」


 屋上を歩き、視線を逆側に向ける。

 街は今日も動いている。蟷螂の襲来で避難した者は多かったが、店は開き、残った者たちは遊んでいる


 この非常時にだ。


「いやはや、日本政府は本当にお利口さんだねえ。こんな狂った世の中にも関わらず、ああも遊び呆ける者を作り出す。学生は放課後、夜七時まで必ず街で遊ばなければならない。これが今の日本の正しい教育……。これは洗脳だよ、イカレたね」


 夜七時まで必ず街で遊ばせる制度。

 エネミー出現から五年後、日本政府が導入したものだ。

 若者が悲しいニュースばかり見て未来に希望を持てないのは可哀想だから、エネミーなど気にせず遊ばせ、元気に育てよう。そう謳われ作られた。


「すでに沖縄と北海道は全滅。九州も滅びる寸前。四国は半壊。青森・岩手・秋田は全滅。山形、宮城、静岡は半壊。関東だって神奈川が全滅、千葉は半壊。これが今の日本。それでも若者は街で遊び続ける」


 天ヶ瀬の声が、冷ややかに響いた。


「遊ぶなとは言わないよ? だがねえ、それを強制するのはどうかと思うのだ」


 エネミーに襲われることが日常であり、遊ぶことで日本を救うと教え込まれた若者たち。だから今日も街は賑わっている。街に残った少ない若者たちの声で。


「間違った教育を受けていたキミには、この異常さがわかるはずだよ? 伊月君」

「もちろんです」


 伊月は地上の学校には通っていなかった。

 東京基地の学校で、誤った教育を受けていた。

 だからこそ、この狂った世界で「正しい教育」とされるものに納得せず、異常だと理解できる。


「私はねえ、伊月君。いつまでもこんな狂った世界にいたくはないのだよ。当たり前に人が死に、恐怖に怯える毎日。だがしかし、若者は遊び続ける。そんなもの、楽しくないと思わないかい?」

「思います」


 返答に天ヶ瀬は頷く。


「こんな世界を正したいと、彼女は覚悟を決めてくれた。できればキミも協力してはくれないかね?」


 彼女とは、稲光に乗っていたパイロットのことだろう。

 死んだ優翔と瓜二つの姿をしている彼女。

 

 優翔が生きているのでは、と思わず期待してしまう自分を伊月は否定できなかった。


「彼女は」

「内部情報を部外者に漏らす訳にはいかない。伊月君、わかってくれるね? もっとも、キミが隊に戻るというのならこの場で教えてあげてもいいのだがねえ」


 天ヶ瀬の狙いは最初からこれだった。

 伊月をジェネシスのパイロットとして復帰させること。

 蟷螂撃退後、早々に伊月を基地から追い出し、彼女との接触を避けさせたのも、そのため。伊月を復帰させるための“餌”を用意するためだ。


 答えは、最初から決まっていた。

 色々と言い合ったが、それでも結論は変わらなかったのだ。


「分かりました。伊月未来。本日をもってジェネシスのパイロットとして復帰させていただきます」


 胸に手を当て、背筋を伸ばす。

 懐かしいポーズに、思わず頬が緩む。

 まさか、もう一度この姿を取ることになるとは思っていなかったと。


「うむ! 素晴らしきかな、素晴らしきかな! あっはっは!約束してくれるね伊月君? 日本のために死んでくれると」

「もちろんです。ジェネシスに乗るというのは、そういうことですから」

「よかったよかった! あっはっはっは! では、早急に基地へ向かうとしよう!」


 屋上に突風が巻き起こる。上空にいたヘリが急降下して現れた。


「さあ乗りたまえ、伊月君! 一緒にこの狂った世界を正そうではないか!」

「待ってください。先に彼女の正体を」


 雑音が辺りを包む中、伊月は天ヶ瀬を見据えて言った。

 可愛らしい顔が嬉しそうに緩む。


「彼女は」


 その言葉を遮るかのように、スマホが鳴った。

 天ヶ瀬が顎でメールを確認するように促す。

 伊月は慣れた手つきでスマホを確認する。


 差出人。千条優翔。

 本文。妹をよろしくね。


「これは……」

「彼女は千条優翔の双子の妹、千条涼翔。キミの新しいパートナーさ」

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