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傷を抱えた名もなき英雄と、失われた姉を持つ少女は共に戦う ―人型兵器VS巨大怪獣―  作者: すなぎも


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第12話 子供の記憶

「きょうはなにする?」

「八雲のじいさんたちが、あそんでくれるって!」


 伊月が物心ついた時には、すでに優翔がそばにいた。

 記録によれば、二人は二歳の頃から同じ施設で育てられていたらしい。

 何をするにも協力し合い、幼いながら互いを理解し合っていた。


「なにこれ?」

「わからない。でも、一緒に育てるんだって」


 東京基地の小学校に通い始めて二年目。

 二人に特別な誤差修正機能(ブリングシステム)が渡された。

 「いつでも一緒にいられるように」と、手のひらサイズの端末にインストールされたそれは、他のものとは決定的に違っていた。


 通常の誤差修正機能(ブリングシステム)には、ある程度の知識が最初から組み込まれており、そこからさらにパイロットの操縦データを学習して精度を高めていく。

 だが、二人に渡されたものは――人間で言えば生まれたばかりの子供。知識がまったく入っていない、まっさらな状態だったのだ。


 好奇心旺盛な二人は、次々と言葉を教え込み、やがて会話できるようになった。名前がなければ不便だと感じ、『ZX』と名付けた。


「基礎訓練は終わり。今日からジェネシスのパイロットになるための訓練を始めるらしいわよ」

「ようやくかよ。ジェネシスに乗せる気で育ててたなら、最初から乗せりゃいいのにな」


 中学年とは思えないほど、2人はすでに大人びていた。見た目こそ他の中学生と変わらないが、厳しい教育と訓練を受けてきた彼らの思考力と身体能力は、常人の子供とは比べものにならない。

 それでも、伊月と優翔の間には変わらず、子供らしい絆があった。互いに助け合い、信頼し合える関係。


「ようやく形になったわね……。正直、難しかったけど」

「なに言ってんだ。俺と優翔、それにZXがいりゃ余裕だ。出来ないことなんてねえよ」


 やがて、2人はリンクを完璧に習得する。ほんの数ヶ月で思考と感覚を思い描く通りに共有し、瞬時に必要な情報をやり取りできる理想のパイロットに成長していた。

 長年を共に過ごし、性格も価値観も理解し合えているからこそ成立する、理想的のようなリンク。


 それから3年間。2人とひとつのシステムは数多のエネミーを駆逐した。

 敵の動きを的確に解析し、瞬時に攻撃の予備動作を見抜く。どんな時、どんな情報が必要かを完璧に理解し、伊月を支えるセカンドパイロット、千条優翔。

 彼女のおかげで伊月はジェネシス本来の力を最大限に引き出すことができた。


 最強のジェネシス――迅雷・零式を。


 だが。


「どうしてだ! このままじゃ敵の攻撃をまともに受けるぞ!」

「ごめんなさい……でも、ここは耐えて。お願い――」


 相手はクラスSSのエネミー。

 それでも、火炎の予備動作など、普段なら決して当たらない。

 だが、涙を浮かべて告げる彼女の声に、伊月はそれに従った。

 避けるべき攻撃を、受け止めてしまった。


「……くっ、ダメだ! ダメージが深すぎる、このままじゃ保たない! 退くぞ!」

「ダメ! ここで押し返すのよ!」

「無茶だ! この状況でそんなこと!」


 彼女の想いが、ZXを通して痛いほど流れ込んでくる。

 守りたい。大切なものを守り抜きたいという叫び。

 だが、誰を、何を、どうやって守りたいのかまでは伝わってこなかった。


 灼熱が晴れたその刹那。

 エネミーの角が閃光のごとく突き出され、コックピットを貫いた。

 伊月のわずか上――セカンドパイロット席を、正確に。


 軋む音。

 貫かれた機体から角が引き抜かれる。

 そして残されたのは、空虚な座席だけ。


 彼女の気配も、声も、もうどこにもなかった。


「ZX!」

『反応、ありません。マスター、優翔様は』


 目の前で怪物が唸り声をあげる。

 その角の先端には、乾ききらぬ赤が点となってこびりついていた。


「モード変更だ。ZX、俺と直結リンクを組め」

『ですが。第三世代モードはパイロットへの負担が』

「これは命令だ! 今は従え!」

『……了解しました。モード変更。伊月未来とリンクを開始します』


 瞬間、脳髄を焼き裂くような痛みが全身を駆け巡った。

 視界が赤く染まり、鼻腔と眼窩から温かい血が滲む。

 心臓の鼓動と機体の鼓動が重なり合い、意識が砕け散りそうになる。


 オペレーターの声が響く。


『ダメです! 一人で誤差修正機能(ブリングシステム)とリンクするなんて!』

「うるせえ……」

『ファースト! ファースト、応答を――!』


 彼女が何を守ろうとしたのか、結局なにかは分からなかった。

 だが、命を懸けてでも守ろうとした“なにか”があった。

 ならば、自分がここで倒れるわけにはいかない。

 すべてを失ってでも、その意志だけは継がねばならない。


「だからッ!」


 突進してくる怪物に、右腕へ収束させたプラズマを叩き込む。

 閃光が視界を白く塗り潰した瞬間――意識は、奈落に落ちていった。


 次に目を覚ましたのは三ヶ月後。

 その時にはもう、半身とも呼べるパートナー――千条優翔の葬儀は、とうに終わっていた。

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