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傷を抱えた名もなき英雄と、失われた姉を持つ少女は共に戦う ―人型兵器VS巨大怪獣―  作者: すなぎも


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第1話 プロローグ

 深い夜の帳が東京を覆う。

 

 街の灯りは無数の星のように瞬いていたが、それを一瞬でかき消すような影が、浅草の空にそびえ立つ。


 ――咆哮。


 地鳴りを伴う轟音が響き、窓ガラスが震えた。

 

 全長数百メートル、ビル群を見下ろすほどの巨大ティラノサウルスが、闇を裂いて姿を現す。漆黒の鱗が街灯の光を鈍く反射し、その黄金色の瞳は、まるで捕食者が獲物を見つけたかのように、スカイツリーを真っ直ぐに見据えていた。


 振り下ろされた腕のような尾が地面を叩き、道路が裂け、車が宙を舞う。次の瞬間、ティラノサウルスは大口を開き、鋼鉄の牙でタワーの支柱へと噛みついた。


 鉄骨が悲鳴を上げるような金属音が、夜空にこだまする。

 振動で展望台のライトが明滅し、人々の悲鳴と共に電光が瞬き――やがて、支柱がぐにゃりと曲がった。


 スカイツリーが巨獣の暴力に膝を折る。

 観光の象徴も、文明の誇りも、その牙と咆哮の前ではただの玩具に過ぎなかった。


 最後に、轟音と共に倒壊するスカイツリーを背景に、ティラノサウルスは勝ち誇るように吠えた。夜の東京は、その声に支配されていく。


 その足元には横たわる巨大な人型ロボット。全身が黒く焦げ、既に一切の光を発していない。地を揺らす足が、まるで人が蟻を踏み潰すかのように人型ロボットを踏み潰した。爆発を起き、怪物はそれを喜ぶかのように咆吼を上げる。


「風見鶏が破壊された! どうする日本! このまま滅びてしまうのか!」


 上空を飛んでいたヘリがその様子を全国中継していた。

 既に東京は半壊。

 怪物は形ある物を全て破壊し続けている


「おおっと! 航空自衛隊の戦闘ヘリが現れました! ロケット弾を装填――これは反撃です! 人類の希望が、この空に舞いました!」


 ヘリの編隊が夜空を裂き、赤い弾丸のような光跡を放つ。だがその刹那、ティラノサウルスが大口を開け――炎。灼熱の火炎流が空を薙ぎ払い、一機、二機、三機……瞬く間に火球と化し、黒煙を尾を引きながら墜落していった。


 カメラが震える。

 

 勝ち誇るように咆哮する巨獣の姿を映し出しながら、アナウンサーの声は掠れ、やがて絶望の呻きへと変わっていった。


「もう、誰も止められない……。ダメだ。終わりだ終わりだ! もう日本は終わりだ! 終わりなんだ!」


 カメラを掴み、炎を撒き散らす怪物を映した。

 それを責められる者はいない。

 全世界の誰もがアナウンサーと同じ気持ちなはずだ。

 いまの東京を見て、まだ生きていられると思える者などすでに。


『迅雷・零式。来ます!』


 絶望に染まった夜空を、突如として白銀の閃光が切り裂いた。

 稲妻が巨大ティラノサウルスの全身を直撃する。

 黒煙と共に巨体が吹き飛び、地鳴りを残してスカイツリーの麓へ叩きつけられた。


「な、なにが!? 雷? いや、違う。あれは!」


 アナウンサーの声が震える。


「来た! 日本の希望が! 迅雷だ! 迅雷・零式だ!」


 地に立っているのは帯電している一機の人型ロボット。

 炎に照らされ黒光りするその機体には、金色のラインが滑らかに走り細いフォルムをさらに細く見せていた。西洋の騎士が着る鎧をそのまま大きくしたようはそれは、腰に二本のブレイドを携え、他には何も持っていない。


 絶望に沈んだ東京に、突如とし“希望の姿が降臨した。


 迅雷と呼ばれた人型ロボットは、その声と共に目に光を灯した。

 擦れ合う金属音を鳴らし前腕からブレイドが伸びる。


「迅雷零式。目標を撃退します」


『了解。目標を撃退してください』


 ティラノサウルスが怒号のような咆哮を放ち、巨体を震わせて突進する。


 黒きロボットは迎え撃つ。

 刃を構え、一直線に駆け出すとアスファルトを砕きながら巨獣の懐へと飛び込んだ。


 ――轟音。


 閃光と共にブレイドが振り抜かれる。鋼鉄すら両断する刃は、ティラノサウルスの鱗を斬り裂き、赤黒い火花と血飛沫を夜空に散らした。


 しかしティラノサウルスも黙ってはいない。尾が鞭のように振るわれ、ロボットの装甲を打ち砕く衝撃が走る。巨人は片膝をつきながらも、雷光を纏ったブレイドを再び握り直し、立ち上がった。


 仰け反り、胸を大きく膨らませた。

 灼熱の炎が喉奥に灯り、夜空が赤く染まっていく。次の瞬間、東京は地獄の業火に包まれる、はずだった。


 迅雷の前腕ブレイドが稲妻をまとい、蒼白い光を尾を引いて輝きを増す。崩れかけたビルを蹴り飛び越え、巨獣の顎の下へと滑り込んだ。


 刹那、稲妻の閃光と共にブレイドが突き上げられる。

 鋭い刃が下顎を貫き、灼熱を溜め込んだ咽喉を一気に貫通した。


 ティラノサウルスの口から洩れかけていた炎が掻き消されるように霧散する。咆哮は声にならず、血混じりの火花が夜に散った。巨獣の黄金の瞳に宿ったのは怒りではなく、初めての恐怖。


 巨獣は血を滴らせながら、咆哮と共に尾を振り抜いた。衝撃をまともに受けた迅雷は後方へと吹き飛ばされ瓦礫の山に沈む。


 ティラノサウルスは距離を取り、再び喉奥に炎を溜め込む。


『避けてください! なにをやっているんですか!』


 どこかから響く声。

 

 迅雷が灼熱を避ける余裕は誰が見てもあった。


 しかし、膝を付いてブレイドを前で交差させ防御の態勢に移る。

 

 瞬間――業火に包まれた。獄炎が夜空を覆い、一直線にロボットを襲った。


 灼熱の奔流が装甲を焼き焦がし、街を赤く染める。漆黒の外殻が赤熱し、蒸気と火花が散る。ビルの窓という窓が一斉に爆ぜ、ヘリのカメラすら白く霞んだ。


「な、なにやってんだよ迅雷! 闘え! 闘えよ! なんで避けないんだよ! お前なら出来たはずだろ! 日本の奇跡だろ! なんでそんなことしてんだよ!」


 灼熱が止んだとき、東京の夜は赤く焼け焦げていた。ビルの外壁は崩れ、道路はガラスと炎の海と化し、その中央に黒きロボットが立ち尽くしていた。装甲は黒煙を上げ、全身が焦げ付いている。膝を折りかけ、片腕は溶け落ちていた。


 ティラノサウルスは喉を震わせながら低い咆哮を漏らし、全身を弾丸のように突進させた。瓦礫を踏み砕き、炎を吹き散らしながら迫る巨影。その頭部にはねじれた一本の角が生え、突進の勢いに合わせて槍のような鋭さを放っていた。


『撤退してください! 脱出を!』


 ――衝撃。


 角がロボットの胸部を貫き、さらにその奥へ。

 金属を裂く凄絶な音と共に、コックピットの装甲をも穿ち、内部へと突き刺さった。


『返事を! 返事をしてください! 迅雷! 返事を』

『パイロットセカンドの死亡を確認。迅雷、停止しました……』


 迅雷が膝から崩れ落ちる。ビル群をなぎ倒し、炎の海に沈むその姿に、街は静まり返った。

 上空のヘリからアナウンサーが掠れた声で呟く。


「もう、終わりだ。日本は。世界は、もう終わりなんだ……」


 誰もが悟った。

 東京を救うはずの迅雷は怪物の角に穿たれ、沈黙した。

 燃え盛る街を覆うのは、恐竜の勝利の咆哮と人々の絶望だけ。


 だが、崩れ伏した巨体の頭部。

 焦げ付き、砕けた装甲の隙間で、わずかに赤い光が瞬いた。


『一人でジェネシスを動かすなんて無茶です! 貴方だけでも撤退を!』

「うるせえ……」

『ファースト! ファースト! ……通信、途絶えました!』


 ティラノサウルスが咆哮と共に首を振り下ろす。

 剥き出しの牙が煌めき、黒きロボットの頭部を噛み砕かんと迫った。


 その瞬間――崩れ落ちていたはずのロボットの右手に稲妻が灯る。

 焦げた装甲の隙間から白青の雷光が溢れ出した。


 ガキィンッ!

 

 噛みつく顎を受け止め、迅雷は稲妻を纏った拳をねじ込むように押し上げる。狙うは、怪物の大口の奥。


 喉の最深部。


 次の瞬間、稲妻が炸裂した。

 

 轟音と共にティラノサウルスの頭部が内側から白く膨れ上がり、光が全身を駆け抜ける。巨獣の鱗と骨が破裂音を立てて四散し、炎と血飛沫が夜空に花火のように弾け飛んだ。

 街を覆っていた絶望の影は、雷鳴と共に一瞬で吹き飛んだ。

 迅雷はなおも拳を突き出したまま、中心で静かに立ち尽くす。


「うおぉぉぉぉ! 勝った! 勝ったぞ! 迅雷が勝ったんだ! 日本の希望! 英雄! それが迅雷零式だ!」


 アナウンサーが雄叫びを上げる。


 東京に怪物の血の雨が降る。


 コックピットから投げ出された少年は、虚ろな目でその光景を眺めていた。

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