第1章 ミハタノハツ(御機の初) 陸
『キツノナトホムシサルアヤ(東西の名と穂虫去るアヤ) ⑥』
「ある日のこと、タマツ宮に勅使としてアチヒコ様がいらっしゃいました。アチヒコ様はワカ姫様のお母様、イザナミ様のお兄様であるヤソキネ様のご子息です。ワカ姫様とは従兄弟ですね。
そのアチヒコ様を一目見たワカ姫様はなんと恋に落ちてしまったのです――」
勅使として現れたアチヒコ様。
見た瞬間、ワカ姫様は時が止まったような衝撃と共に、この方しかいないという強い確信めいた思いが身体を駆け抜けて······一目惚れだった。
思いは日毎大きくなっていく。その思いを吐き出すように歌を詠み、短冊に書き記してみたりもしたが、恋心は落ち着くどころか、どんどん膨らんでいくばかりで。
思い悩み、恋焦がれ······堪えきれないほどの思いに突き動かされるように、ワカ姫様は思い余ってその恋文ともいえる短冊をアチヒコ様に渡してしまう。
そうとは知らずアチヒコ様はそれを軽い気持ちで受け取り、確認して――驚き言葉を失う。
なぜならそれはワカ姫様からの真っ直ぐで熱烈な恋情が綴られた恋文だったから。
おやおや、これはこれは。
年頃の女神様の恋バナですよぉ。
fall in Love ですねッ!
恋い焦がれ、思いの丈をラブレターにしたためるなんて、いつの時代も変わらないね。今はL●NEとか手軽な方法もあるけど、手書きもいいよね。
なんというか手書きの方が手間がかかる分、気持ちがこもってる気がする。大事なことはやっぱり手書きかな。
でも迅速に速攻で連絡したり伝えたりするなら断然LI●EとかSNSサービスだよね。既読付けば届いた確認までできるし。気持ちが重いとか思われたくなくて、あえてSNS使うのもあり。
古今東西、神様と言えば恋愛体質な気がする。一目惚れも多いような気がするし、なにより面食いなイメージ。
結局見た目なのかと思わないわけではないけれど、何の情報もない場合、見た目で判断するしかないじゃんって話で。恋の入り口になるのは当然かも。あとは匂いとか醸し出す雰囲気とか?そういうのが好ましいとビビッとキタとか思うかも。
で、神様もそれで失敗したりすることがあるから、ついつい親近感わいたり。まぁ、失敗すると大抵は国や世界規模の大騒動になるわけだけど······
ワカ姫様の恋の行方はいかに??
「ワカ姫様は何と歌をお詠みになったのか――
キシイコソ ツマオミキワニ コトノネノ
(キシヰこそ 妻の身際に 琴の音の)
トコニワキミオ マツゾコイシキ
(床に吾君を 待つぞ恋しき)
(キシヰにあなたが来てからというもの、あなたの妻としてお側に置いてほしい気持ちが、琴の音の響きのように溢れてきます。ひとり寝る床の中でも、あなたが恋しくて恋しくて、ずっと待ちわびています。)
アチヒコ様は仲人も立てず、結婚するのはどうかと思い悩み、返歌を返そうにも言の葉が見つからず返せません――」
アチヒコ様もだいぶ思い悩み、それでも言葉が見つからずワカ姫様に『待ってくれないか、後でちゃんと返事をするから』と言い残し、イサワの宮に帰った。
そして宮中の人々に恋文の件について相談すれば、ワカ姫様の義父のカナサキ様が面白そうにアチヒコ様を見て――
『この歌は上から読んでも下から読んでも同じになる回り歌、だから返すことができないのだよ。
私が行幸で船に乗ったときに、風が酷く激しく、波が荒れ立ってしまったことがあってね。そのとき転覆しないよう願を掛けるのに私も回り歌を詠んだのだよ。
ナガキヨノ トオノネフリノ ミナメサメ
(長き夜の 遠の寝ふりの 皆目覚め)
ナミノリフネノ オトノヨキカナ
(波乗り舟の 音の良きかな)
そうしたら風が止んで、舟は快適にすすみ始め、アワのクニ(阿波、四国)に無事着いた。
ワカ姫様も雅な歌を贈りつつ返事はさせないという技法を使い、自分の思いを断れないよう願掛けしたのだろうね(ポソッ······現に気になるのに返事ができず困っているのでしょう?)』
その話を聞き弟でもあるアマテル様も納得し、満足げに微笑みながら勅を出す。
『カナサキからの助け舟も出たことだし、遠慮せずそれに乗り、ワカ姫の思いもしっかり受け取って、夫婦におなりよ』
アチヒコ様は無事ワカ姫様と結婚、ヤスカワ(野洲川、滋賀県)に住むことに。その際にワカ姫様は名をシタテル姫(下照姫)と改めて、アチヒコ様は色々悩み考え込んでいた姿からオモカネ(思兼)と呼ばれるようになった――
おおぅ······
まさかの呪術入りラブレターだった。
幸いにもアチヒコ様が満更でもない感じで、返事したいのに出来ないのに悩んでるだけだったから良かったけど。
カナサキ様もサラッと呪術込めてますけど何か?みたいな感じでワカ姫様のネタバラシしちゃってるし。
っていうか、すごいね回り歌。
上から読んでも下から読んでも同じにしつつも意味や雅さをちゃんと乗せるって、高度すぎる賢すぎる。呪術とか呪いとか、簡単にできるもんじゃないって、見せつけられてる気分。
今回はよく知っている五七五七七で、響きも綺麗な気がするし。
······なんて言ってみたものの、僕的にそのへんの取り扱いについて、問題発生な気がするんだが。
個人に宛てた熱烈ラブレターが開示されてるよね?
今回はそのおかげで良い方に進めたけども······モヤる。ワカ姫様に断りなくみんなに見せちゃってるじゃん?マジかーって思っちゃったよ。
ネット社会の今なら、こんなことしたら世界規模で開示状態になる可能性だってあるでしょ。慌てて消しても100%は消せないし。デジタルタトゥーってやつ。
自分の不注意や認識の甘い人、悪意ある人がちょっといるだけで、大事故•大惨事だよ。
まぁ、ワカ姫様をはじめとする、当時の人?たちはそういうリスクは織り込み済みなんだろうけど。というか開示前提なのかもね。万葉集があるくらいだし。
だとしても、自身の恋情を雅と言いつつ熱烈に表現したもの、しかも特定の相手宛ての私信を、当たり前のように数多の人たちに見られネタにされるのは、僕は遠慮したい。恥ずかしすぎるものねぇ。
何はともあれ――
ワカ姫様、ご結婚おめでとうございます!
恋の成就······叶って良かったねぇ。
アチヒコ様もカナサキ様の援護射撃とアマテル様の勅の追い風で、無事ワカ姫様と思いを重ねることができて、本当に良かった。
めでたや!
ちょっと砕けすぎた表現かもしれませんが、読みやすさを優先しております。
原文を読み、古語辞典を調べ、ネット検索し······できるだけホツマツタヱの世界観を壊さずにと思っておりますが、素人訳なのでちゃんとした方たちの訳とは違う解釈も多々あると思います(間違いもたくさんかと)。また僕(素人)がホツマツタヱの世界を眺め的外れで拙い感想を呟いてるのが肝でもあり······物語(創作した話)ということで大目に見ていただけたら幸いです。




