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第1章 ミハタノハツ(御機の初) 漆



キツノナトホムシサルアヤ(東西の名と穂虫去るアヤ) ⑦』




「話は変わりますが、シタテル姫様がまじないをしてクニを守った際に扇ぐのに使ったオシ草は、ヒオウギともカラスオウギとも呼ばれる植物で、葉は呼び名のように扇のような形をしております。種はヌバタマと呼ばれ、夜明け直前のような美しい黒色をしており、花は日の出のようなほのぼのとした赤色をしています。


 そのヒオウギと(ひのき)の板で作った“檜扇(ひおうぎ)”と“日仰(ひあお)ぎ”の音の響きが似ていることから国を明るく照らし守り治められるようにと、またシタテル姫様が魔祓いに使ったように古来からヒオウギ(オシ草)は魔を祓う力があると教えられていたことから魔除けの象徴として、政に携わる方たちは檜扇を持つようになりました。

 ヒオウギの葉の枚数は12枚なので、檜扇も同じ12枚の板で作り真似ることで魔祓いの力を写そうとしたのですね。


 また健康長寿の力を発揮するアワの歌は48音ですが、ワカ姫様の作った虫祓いのまじない歌は32音だという教えも忘れてはいけません――」






 檜扇を作る職人が出てきて。

 薄い檜の板の手元になる方を要と呼ばれる留め具で留め、上部は紐を通し補強すると清涼とした檜扇ができる。それを宮中の人々が持ち政に携わる。

 シタテル姫様も常に携帯し。

 ワカのクニでは民たちにアワの歌を教えたりもした。

 涼やかながらに強く響くシタテル姫様の歌声に皆聴き入り、いつしか共に口ずさむようになった。するとアワの歌がどんどんクニに広がって、住む民たちの活気も溢れ元気になっていき――

 

 

 






 ヌバタマって和歌の枕詞だね。黒とか夜に掛かったはず。

 僕の家はド田舎だから、近所にヒオウギ(ヌバタマ)は自生してるし、地元のお祭りのときは魔除けの効果があるとかの理由で家々の玄関先の飾りに使っていたような?

 種が黒曜石みたいに光沢があってメッチャ綺麗で、僕は好きだなって思った。闇夜を閉じ込めたみたいっていうか、神秘的なんだよね。


 雛飾りのお雛様や平安時代の絵巻物とかの女性が手に持っているのが檜扇だよね。綺羅びやかで、でも繊細なイメージだったけど、当初は呪術的な効果も期待され身につけていたとはビックリ。単純に顔を隠すために持ってるのかと思ってた。それかファッションとして流行の顕示とかね。女性同士の雅ながらも過激な戦いの武器としてのイメージががが。


 うちにもあるのかな?祭事の際に身につける道具の中に。帰ったら見せてもらおう······帰れるよね?










「ある日、イザナギ様イザナミ様の三男であるハナキネ様が姉であるシタテル姫様に『歌を五•七調にするのはなぜか』と尋ねました――」








 元気が良すぎて落ち着きのない、ちょっと乱暴な一面もあるハナキネ様。それでも姉のシタテル姫様のことが大好きで、よく顔を見せに来る。姉もかわいい弟のひとりということで、良く面倒を見た。

 ある日、ハナキネ様は疑問に思っていたことを姉に聞いてみることにした。それは姉が得意とするワカの歌のこと。


『なぜ歌は五•七調で詠うのです?』


 シタテル姫様は穏やかに答える。


『昔から伝わるアワの歌の(ふし)と同じにしてあるからよ』


 それを聞きハナキネ様は尚も疑問を口にする。


『じゃあ祓いの歌が32音だったのに今のワカの歌は31音なのはなぜです?』


 シタテル姫様は弟がこんな風に疑問に思ってくれることがとても嬉しくて、しっかりと教えることにした。


『日の巡りは365日で、それを四季に合わせ4つに別ける。その小分けを今度は月数に合わせ3つに別けると、ひと月はだいたい31日になるの。

 それに対して“月の巡り”は“日の巡り”より遅れて、ひと月が30日に足りないくらいなの。だから基本とする“日”と同じ31日で巡るには1日くらい足りないわね。

 ワカの歌はその基本となる日の巡りに合わせているから31音なの。だから節もぴったり合って整って聞こえるでしょ。


 ただ日というのは揺らぎがあって、全部がぴったり31日に合うわけではなくて、日の長さや季節によっては、ひと月が32日にかかってしまうこともあるわね。その揺らぎのすき間をうかがっている汚穢(オヱ)モノ(魔とか)がいて、それを祓うにはその揺らぎも考慮しなければならない。だから祓い歌はすき間を補うため1音増やし32音で、声が余るように聞こえるのね。


 シキシマの国(日本)に縁を持って生まれた人々は、男の子なら31日目に、女の子なら32日目に縁のある土地の神様(産土神様)にお参りするわね。女の子が32日目なのは月の巡りの影響を身体に受けるから。女性特有の体調の変化が揺らぎとなるの。だから祓いの歌と同じ数でお参りするのね。


 こういった作法や考え方がシキシマの国のワカの歌の根本の道であり受け継いでいくべき教えなのよ』









 すごいね。

 現代科学で解き明かされてきたことが、日常の教えの中に当たり前に溶け込んでる。

 地球の公転の周期や歳差運動の揺らぎや、月の公転周期と地球との関係とか、月が女性に影響を与えるとか······本当に色々知ってたんだなぁ。それが生活に根付いて、行事や作法にも取り入れられて。

 現代まで続く行事とかも、この頃にはもう行われていたのもたくさんあるんだろうね。

 そう言えばお食い初めとかひな祭りとかもやってたってオオタタネコさん言ってたな。


 あと見逃せない人物が!

 ハナキネ様ってもしかしなくてもスサノオさまだよね!?

 シタテル姫様の弟ってことはアマテル様とも兄弟で、その上『三男』でしょ?間違いない!

 小さな頃から元気よすぎて、ちょっと乱暴な子供だったのは神話通りだよね。ただヒルコ姫様でもあるシタテル姫様と交流があったってのは、どちらにとっても幸せなことだったと思うよ。家族はやっぱり仲良しがいいよね。


 ワカの歌って本当にすごい呪術ツールだったんだなぁ。その使い手のヒルコ姫でありシタテル姫でもあるワカ姫様が、生まれてすぐ流されてしまった古事記と違い、義父母に愛されて、(のち)には弟や義姉(セオリツ姫様)と共に生活し、最愛の旦那さんも見つけ結婚し――幸せそうで僕は嬉しかったよ。









スサノオ様登場。

当時はハナキネ様だったのですね。

賢さと荒々しさを持ち合わせた神様であり、穏やかな神様ばかりの中では乱暴さを言及される珍しい神様ですね。

これのちの伏線ですね!




なんと!

これで『第1章 ミハタノハツ(御機の初) ―キツノナトホムシサルアヤ(東西の名と穂虫去るアヤ)― 』完結です。書ききれて良かったぁ······


次から第二章に入ります。



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