天啓の儀と最底辺(9)
次の日。
またしても午後の訓練場に姿を見せたカイのもとに、予想通りというべきか――ティオが再び現れた。
「カイくーん! 今日も魔法の練習してる?」
いつの間にか、声をかけるときの語尾に“くん”がつくのが当たり前になっていた。
「ああ。……君も?」
「うん、今日はちゃんと魔法撃つよ! 昨日は見てるだけだったからね」
ティオは訓練場の反対側、まだ草がまばらに生えている土の地面に立ち、胸を張って宣言した。
「私のスキルはね、《スカウト・ライト》っていうの」
ティオは指を鳴らすような仕草をすると、指先に小さな光の粒を灯した。
その光はふわりと宙に浮かび、訓練場の片隅へと滑るように移動する。
「これ、近くにある“微弱な魔力”を探知して、周囲の情報を味方に共有してくれるの。……まあ、範囲は狭いし、反応もあいまいだし、誤検知も多いけど」
「索敵……か」
「うん。魔物の気配とか、隠れてる人とかには使えることもあるけど、実戦向きじゃないってよく言われるよ。だから、わたしも“はずれ”って笑われた」
ティオの口調は明るかったが、その目には少しだけ翳りが差していた。
「でもね、たとえば夜の森とか、迷ったときに仲間を見つけるとか……そういうときなら、役に立てるかもって思ってて。まだ上手く使えてないけど、工夫すればきっと……」
彼女は少し照れくさそうに笑った。
カイはそれをじっと見つめていた。
自分と同じように“はずれ”と断じられ、それでも努力で使い道を探そうとするその姿勢が、どこか自分自身と重なった。
「……俺も、似たようなもんだよ。まだ試行錯誤の途中だ」
「じゃあさ、似た者同士ってことで」
ティオは立ち上がると、砂埃のついた手をパンと払って言った。
「訓練一緒にしてみようよ! 《リピート》がどんなふうに動くのか、私のスキルで観察できるかもしれないし!」
「……そんな器用なスキルなのか?」
「器用じゃないけど、使い道は無限大ってやつだよ。そうでしょ?」
カイは少しだけ唇を緩めた。
この学園に来てから、心の底から笑ったのは、これが初めてだったかもしれない。
「……ああ、そうだな」
二人の影が、夕暮れの地面に並んで伸びていた。
その影は、まるでまだ形の定まらない未来のように、不確かで、それでいて温かかった。
20250410タイトル修正しました。