天啓の儀と最底辺(1)
初投稿になります。よろしくお願いします。
投稿頻度は高く書きたいと思います!主に平日投稿予定です。
まだ朝霧が晴れきらぬ、辺境の村――リュア村。
山に囲まれたその小さな村は、四方を森に守られ、時折吹き抜ける風が木々の葉を揺らしていた。土と木の匂いが混ざる朝の空気の中、人々は早くから目を覚まし、今日だけは普段の生活を少しだけ後回しにして、神殿の前へと集まっていた。
十五歳を迎えた子供たちが〈天啓の儀〉を受ける日――それはこの村にとって、祝福と緊張の入り混じる一日だった。
カイ・アマギの家も例外ではなかった。
粗末ながら清潔に整えられた木造の家。その小さな居間で、母のユリアが湯気の立つ粥を椀によそい、父のロイドは黙ってそれを見つめている。
「……ちゃんと食べなさい。お腹が空いたままじゃ、集中できないわよ」
「うん、ありがとう」
カイは短く答えて、粥を一口すする。特別美味しいわけではないが、母の手で用意された食事は、それだけで温かかった。
「緊張してるか?」と、父がふいに口を開いた。
「少しだけ。でも……結果がどうであれ、自分のやることは変わらないと思ってる」
その答えに、父は小さくうなずき、母は心配そうな笑みを浮かべた。
食事を終え、簡単な礼服に着替えたカイは、家族に見送られて神殿へと向かう。
「カイ、気をつけてね。……何があっても、私たちはあなたの味方だから」
母の言葉に、カイは小さく微笑んで頷いた。
村の中心にある石造りの神殿。その前にはすでに村の子供たちとその家族が集まり、神官の到着を今か今かと待ち構えていた。
神殿の扉が開き、年老いた神官がゆっくりと姿を現す。
「天の定めし時が来た。十五の子らよ、一人ずつ神殿へ入り、天啓の石板の前に立つがよい」
次々と名前が呼ばれ、儀式を終えた子供たちが笑顔や涙を浮かべながら出てくる中、カイは神殿の外でじっと順番を待っていた。
胸の奥がじんわりと熱くなる。緊張と、不安と、ほんのわずかな期待。
(どんなスキルが来ても、俺は──)
「カイ・アマギ」
名前を呼ばれた瞬間、村人たちの視線が一斉に彼へと集まった。
静かに立ち上がったカイは、真っすぐに神殿の中へと歩を進めた。
ひんやりとした空気。薄暗い石の回廊。祭壇の前に立つと、そこには古びた石板が静かに鎮座していた。
神官が厳かに告げる。
「カイ・アマギ。天より授かりし真なる力、その名を刻め」
神官が石板に手をかざすと、柔らかな光が浮かび上がり、祭壇全体を包み込んだ。次の瞬間、その光は一直線にカイの胸へと流れ込んでいく。
「スキルの顕現を確認……記録されし名は、《リピート》」
ざわめきは、すぐに訪れた。
「《リピート》……?」
「聞いたことない……」
「なんだそれ?」
神官が、光を見つめたまま眉をひそめる。
「……記録上、初めて確認されたスキル。発動条件は、直前に使用した魔法やスキルを詠唱により再発動。魔力消費は極小……だが、応用性と戦闘性においては不明瞭。現段階での実戦評価は、Fランク。はずれ枠と判定する」
その言葉を聞いた途端、神殿の中に冷たい空気が流れた。
カイはゆっくりと目を閉じた。
──やはり、こうなるか。
けれど、悔しさや怒りは湧いてこない。
(スキルで人の価値が決まる……そんな理屈、地球にはなかった)
彼の記憶には、汗を流して努力し、結果を勝ち取っていく世界が刻まれている。
この理不尽な世界に生きていくためには、どんなスキルであろうと、自分の手で価値を証明していくしかない。
だからこそ、彼の口元にはわずかな笑みが浮かんでいた。
「《リピート》ね……いいじゃないか」
神官がぎょっとした表情を浮かべたが、カイは一礼してその場を後にした。
20250410タイトル修正しました。