⑦
読んでいただいてありがとうございます。ブクマと評価が……!本当にありがとうございます。
リディアーヌは初めてのデートに思いっきり浮かれていた。
モーリスと出かけたこともあったが、あれはデートではなくて、彼の買い物に付き合っただけだ。
モーリスに必要な物を買ったら、リディアーヌとお茶をすることもなく帰った。
別にリディアーヌなどいらなかったのでは、と思っていたら、彼の友人にたまには外でリディアーヌと会った方がいい、というようなことを言われたので素直に実行しただけだったらしい。
ただ、その時のリディアーヌは彼のことを好きだったので、珍しい誘いに嬉しかった思い出がある。
でも今は、もっと嬉しくて楽しい。
オルフェといると、ただの付き添いではなくて、一緒に楽しんでいるという気持ちが強くなる。
オルフェがそういう風にリディアーヌを扱ってくれるので、リディアーヌは二人でいることに意味を見い出せるのだ。
「リディ、実はノア様から助言をされてね。僕たちは、その……年齢より幼く見える傾向にあるから、あまり大人が行くような場所には近寄らない方がいいと言われたんだ。まぁ、僕の年齢はけっこう間違えられてしまうから慣れているんだけど、リディに嫌な思いをさせたくないし、今日は学生のような健全なデートをしよう。いいかな?」
「はい、もちろんです。オルフェ様は確かに少々若く見えますよね。あ、でしたら私の今日の服装はダメでしたね。もう少し大人っぽい服を着てくればよかったですね」
「いいや、そんなことないよ。リディによく似合ってる。リディがそういう服が好きなら好きなように着ればいい。むしろ、僕に合わせてくれているみたいで嬉しい。昔、同じ年齢の従姉妹が大人っぽい服を着ていたら、姉と弟に間違われたことがあるんだ。従姉妹は怒って、もう二度と僕とは出歩かない、と宣言していたなぁ」
当時はまだ従姉妹より背も低かったので余計に姉弟に見えたのだと思う。
大人になった今でもたまに会う従姉妹に、いつまでも童顔でいないで、と理不尽に怒られる。
さすがに自分ではどうしようもない。試しに少しだけ髭を生やしてみようと思った時もあったのだが、そもそも生え方がまばらなので、単純にみっともない感じになっただけだった。
「そうなんですね、私の小さい頃はこういう可愛らしい服よりも大人しい感じの服が多かったので、こういう服に憧れていたんです。大人になって着るのは少し子供っぽいかなと思ったんですが、友人に、一度しかない人生なのだから自分の好きな服を着ればいいのよ、と言われて吹っ切れました。それに似合っていると褒めてくれたので、嬉しかったんです」
「いい友人だね。その服、本当にリディによく似合ってるよ。僕と会う時は、リディの好きな服を着てきていいからね」
「はい。ありがとうございます」
どうしても比べてしまうが、モーリスはこういう服はあまり好きではなかった。
大人しい地味な服を着るようにと言われたこともある。
だから、こういう可愛らしい服を着るのは、褒めてくれた友人と出かける時だけだった。
実は今日、この服を着るかどうか散々迷った。
オルフェが気に入らなかったらどうしよう、とドキドキしながら着たのだ。
でも、オルフェは褒めてくれたし、これからも着ていいと言ってくれた。
嬉しさでリディアーヌは、自然に笑顔になった。
「いつもの侍女服は落ち着いた感じだから着る人をあまり選ばないけど、夜会などで会うと全く違う印象を受ける人は多いよ。服、化粧、髪型、女性は大変だよね」
「ふふ、男性でもおしゃれに気を遣っていらっしゃる方は、大変だと思いますよ。一度着た服には二度と袖を通さない主義の方もいらっしゃいますし」
「着道楽の人たちはそうかもね。まぁ、僕は服のどこかにリディの瞳の色である青色を入れて、あとはリディと色を合わせればいいだけだけど」
「私はオルフェ様の瞳の色の翡翠ですね」
「もちろん贈るよ。少し待っていてくれないかな」
「あの、お強請りしたわけではないのですが」
「僕が贈りたいんだよ。だから、翡翠の装飾品はちょっと待っててほしい」
「……いいのですか?」
「もちろん。リディが翡翠を身に着けてくれなければ、僕が泣いてしまうよ」
「あら、でしたら、絶対に身に着けないといけませんわね。宰相室の若手を泣かせた、なんて噂話はごめんですもの」
くすくすと笑いながらの二人の様子は、周りから見ると何だかほのぼのとした感じを出していた。
その様子を物陰からそっと見ていたモーリスの同僚は、大きくため息を吐いた。
アレはもうだめだ。
どう見てもリディアーヌ嬢は、モーリスではなく別の人間、あの童顔はおそらく宰相室の若手、オルフェ・マークス子爵とデートをしている。
好奇心の赴くままに、リディアーヌにどうしたのかと聞いてみたいが、モーリス自身がリディアーヌ
とは婚約していない幼馴染の関係だと言っていたので、モーリスとその同僚にはリディアーヌの選択をどうこう言う資格はない。
「どうしたものか……」
こうして見かけてしまった以上、モーリスにそのことを伝えて何とかモーリスが優位になるような情報を流すか、このままモーリスが自分で気付くまで放置するべきか。
最近のモーリスの態度に、思うところがないわけではない。
同僚は二人の様子を眺めながら、言うべきかどうか悩み続けたのだった。