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読んでいただいてありがとうございます。
19話の感想が何故か異世界サンドイッチ論争に……。
この物語は全て、昭和・平成・令和に生きる方々が使っている、意味が分かる、想像が出来る、くらいの日本語、外国語、和製英語等々を使用してお届けしております。
誤字脱字はすみません。
今度「いとをかし」も使ってみようかな。
リディアーヌは、今の新しい生活にすっかり慣れてきた。
仕事は色々とあるけれど、オルフェとの仲は順調で、いよいよ明日がリディアーヌの両親に挨拶に来てくれる日だ。
「リディアーヌさん、良い笑顔を浮かべるようになりましたね」
ドロシーが、くすりと笑ってそう言った。
今日は、午前中にたまたまドロシーと会って昼食を一緒にとる約束をしていた。
「そうですか?自分ではあまり分からないんですけど……」
「えぇ。私がノア様に誰か紹介してもらいましょうか?と提案した時のリディアーヌさんは楽しそうな顔をしていましたが、今はさらに幸せ感が入っています」
「あの時は一人を満喫していたんです。それまではモーリスの都合に合わせて動いていたので、彼の望みに合わせることに必死でした。よく考えてみたら、私は彼に合わせるのに彼は私の都合などおかまいなしだったんですよね。だからその反動で、一人が楽しくてしょうがなかったんです」
「ちょっと分かります。たまには、一人でいるのも楽しいですよね」
「誰にも合わせなくていいですから。でも今は、たまに、ですよね?」
「えぇ」
リディアーヌとドロシーはくすくすと笑い合った。
当時はともかく、今は「たまに一人」でいいのだ。
「以前はモーリスの傍にいるのが当たり前だったから、時間がある限り傍にいないと捨てられてしまうんじゃないかって思っていました。でも、違いますよね。オルフェ様とはモーリスの時のように頻繁に会うわけではありませんが、何の不安もないんです」
「ちゃんとお互いを大切に想っているから、分かり合えているのでしょう。言葉足らずですれ違ってもいないのでしょう?」
「はい、そうなんです。私、オルフェ様のことを信頼しています」
「人間関係の基本ですね」
「はい」
「私は誰かの付属品でも何でもありません。モーリスのおかげでそれには気付けました」
「ふふ、リディアーヌさんならきっとマークス様を慌てさせることが出来ると思いますよ」
「ドロシーさんだって、フェレメレン様を慌てさせることが出来ると思います」
向かい合って座っていた二人は、さらに楽しそうに笑った。
「おいおい、もちろん君に何かあったら慌てるだけろうけど、出来ればそういうのは止めてほしいな」
「リディ、危ないことはしてはいけないよ?」
いつの間にかやって来たノアがドロシーの隣に座り、オルフェがリディアーヌの隣に座った。
「あら、ノア様。今日はこちらにいらしたのですか?」
ドロシーが慌てることなく、ノアに笑いかけた。
ドロシーの落ち着いた大人の対応に、リディアーヌは少し憧れを持っている。
いつかこういう対応が出来る大人の女性になりたい。
ノアとドロシーは、これぞ大人の恋人同士という感じがして、リディアーヌは好きだった。
「オルフェもリディアーヌ嬢がいなくて寂しそうにしていたからね。たまには一緒に食堂に行こうと誘ったんだ」
「リディアーヌさんは、今日は私が独占していたんです」
「そうみたいだね。邪魔をするつもりはなかったけれど、少々不穏な単語が聞こえてきたから」
「ふふ、では私たちはお二人を慌てさせることに成功したのですね」
「まぁ、そうだよ。いいけど、ドロシー、俺を慌てさせた後はしっかりケアをしてもらわないといけなくなるけど、いいかな?」
にやりと笑ったノアに、ドロシーは、え?、という顔をした。
「あの、それは……」
「大切な愛する女性に何かあったら、と大慌てした俺の心の傷を癒してもらわないと」
「……その時に、考えます」
「期待してるよ」
ノアから目をそらして答えたドロシーを、ノアがくすりと笑って見ていた。
リディアーヌは、こういうのも何かイイ、と思ってしっかり二人を見ていたのだが、隣のオルフェが急に手を握ってきた。
「リディ、当然、僕も癒してもらうことになるけど」
ようやくリディアーヌがオルフェの方を見たので、笑顔でそう言うと、リディアーヌが慌てて考え始めた。
「えーっと、ひ、膝枕、とか」
「それも魅力的だけど、他は?」
「他?他って、どうしましょう?」
「あはは。じゃあ、その時次第で決めようか。すぐじゃなくてもいいから、じっくり時間をかけて一緒に考えようね」
「時間をかけて……そうですね。じっくり考えます」
時間はあるのだ。
無限ではないけれど、一緒に考える時間は、二人にとってとても大切な時間になるだろう。
「オルフェ様」
リディアーヌはオルフェの手をそっと握り返した。
「どうしたの?」
「何となく、名前を呼んでみたくなっただけです」
「いつでも呼んでくれていいよ。リディの口から僕の名前が出るだけで、幸せな気分になれるから」
「少し大げさすぎませんか?」
「本当のことだから、仕方ないよ」
ほんわかした雰囲気を醸し出す童顔二人と、しっとりとした雰囲気を醸し出す大人二人に、食堂にいた人たちは若干あてられて、何を見せられているんだ、という気持ちになったのだった。