#04 栄華万永の地
クウィンテル品評会
それはこのどこまでも広がる陸続きの大陸の、数多連ねる列強なれどとうてい無視することのできない大国の、バール・グルフ帝国の伝統的なお祭りである。
その歴史は古く、建国の当時から野心に燃える数多くの有力者が宮廷へと連日詰め入り、陛下への献上の品だと宮殿に溢れ返らんばかりに宝物を置いていったことが発端とされている。
日ごと増える宝物はついに宮廷に収まり切らなくなり、ついに門の外へと一時的に安置、放置されるという無法の事態に陥った。
そしてそんな野ざらしの宝物を一目見ようと集まった民衆が勝手に品定めをはじめ、貴族の財力、力量を推し量り、二重の意味での品評会がとりおこなわれたことが由来となっている。
そんな冗談のような話も今も昔。
いまでは数年に一度の伝統行事となり、貴族の献上品は職人の工芸品へと形をかえ、国内各地で大々的にとりおこなわれるまでにいたっていった。
そしてそんなもはや品評会とは名ばかりのお祭りと化したクウィンテル品評会に彼“ヴィンク・アルカード”も一人の参加者として顔をだしていた。
ヴィンクは当初、人々が並々溢れる品評会にそれはもう水を得た魚の如くよろこんでいた。
はしゃいでいたといっても過言ではないその興奮ぶりは、正視に堪えないものであり、大の男がしていいリアクションの範疇を大きく超えるものであった。
しかし開幕当初から最高潮に上がっていったボルテージは次第に消沈、なりを潜め、代わりに遅れてやってきた人酔い、疲労が、ヴィンクを足腰立たないまでに苦しめた。
ヴィンクはおぼつかない足元でなんとか端によせてあった木箱に腰掛けると、先に一人、先客がいたことに気がついた。
小さな体に小さな頭。それに反してかわいらしいまんまるとした大きな瞳。
白の髪色をもった、身なりのいい少女だった。
彼女ははじめ、ヴィンクを不審な物を見るような猜疑の眼差しを向けていたが、彼が唐突に人形を手繰ると一転、それはもう旧知の仲のように懐いた。
ヴィンクはそんな彼女の素直な反応に心をくすぶられながらも、彼女の心を開き、なんとか事情を聞きだすまでに至った。
彼女いわく、いなくなった両親を探しているらしい。
年端もいかない少女がこんな人ごみの中、一人取り残されさぞや心寂しかったことだろう。
ヴィンクは同情の念を抱くと同時に、彼女の不安を少しでも取り除いてあげれば幸いと、いささか簡易な人形劇を開幕した。




