8 報復
吹奏楽コンクールでA編メンバーに入り、ソロも担当する事になった千夏。毎日部活が忙しい、そんな中、学期末試験が行われた。結果は前回と同じ2位、上位3人の順位は変わらなかった。
終業式を金曜日に控えた月曜日に事件が起こった。千夏が登校すると、ちょいキモい永山くんが話しかけてきた。当然、転校した日以来の会話である。
「勅使河原さん……あの……学校裏サイトって知ってる?」
「ううん、知らない」
「先週末あたりから突然出現したんだよね……今までも裏サイトって作られては消えてきたけど、これは、この学校の生徒アカウントがないと入れなくなってて……特殊な方法で存在してるんだ」
「で? それがどうしたの?」
永山くんはタブレット端末を開いた。そして、千夏に画面を見せる……。
「これって……」
「……私だわ……」
そこには千夏が映っていた。それも着替え途中で下着姿、複数の写真が投稿されており、キャッチには
「学園アイドルの淫乱下着姿(笑)」
と書いてある。恐らく水泳の授業の時に盗撮されたものだろう……千夏は咄嗟に田所の方を見た。
「このクラスで以前にも同じような事が起こって色々揉めたから、削除しようと頑張ったんだけど……出来なくて」
「…………」
「勅使河原さん……まだこの裏サイト、皆にはバレてないと思う。でも1週間もすると広まっちゃうかも」
「…………伝えてくれてありがとう…………」
千夏はそう答えるのが精一杯であった。
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ユーミは頭にきていた。千夏が着替えを盗撮され突如現れた裏サイトに投稿されている。田所と柳沢の所業である事は明白である。千夏にかける言葉も見つからない、千夏は変わった様子もなく過ごしているが、事実は永山から話を聞いているという。
そして、ユーミは柳沢を月曜日の放課後、体育館横の倉庫の前に柳沢を呼び出した。午後4時頃であり日はまだ高い、暑さもあってかユーミの感情は煮えたぎっている。
「柳沢、どういうことよ! あれだけ静かにしてろって言ったでしょ」
「どうって、ユーミ。何のこと?」
「ふざけないでよ! 千夏の写真、アンタでしょ」
「知らんな〜なにそれ?」
柳沢はニヤニヤしている。
「千夏に対して嫌がらせ? いい加減にしてよ。馬鹿なんじゃない? 今回は私許さないから!」
「おいおい、なに言ってんだ。俺が何をやったって? 濡れ衣だよ。冷静になれよ〜俺がやったって証拠あるのか? もし俺だったとしても推定無罪だろ(笑)」
ユーミは頭にきていたが……柳沢は優秀なオトコだ。きっと柳沢の仕業であるとは証明できない、と確信があるのだろう。これ以上は水掛け論になるので、この場は黙っていた。
ユーミは無言で柳沢の前から立ち去った。
柳沢を無言で立ち去ったユーミは校舎裏の大きな樹の木陰で座っていた。この事態をどうしたものか、思案している。同じような事が1年生の時も起きたが、それは千景が全責任を負うことで警察沙汰にならず収拾したのだ。推定無罪、その言葉がユーミにのしかかる。
「ユーミ」
呼ばれたユーミは後ろを振り返る。そこには千景ががいた。
「千景……」
「ここなら目立たないから話しても大丈夫だよな。しかし、また大変なことになった……」
「同じこと繰り返すって、アイツらバカね。バカでクズ。どうしょうもない」
この事を学校に報告すれば、きっと犯人探しは適当になり有耶無耶にされる。警察沙汰にしてしまえば、彼らの退学は愚か、逮捕の可能性もある。
「勅使河原さんも守りたいし、田所達も守りたいとこだな、俺達の立場なら……」
「どうしたらいいのか……」
「あのさぁ、クラスで話し合ったらどうかな? 勅使河原さんは抜きにして。このままではいけないと思うんだ。蓮と達也が謝罪するならその方向で解決してもいいし、勅使河原さんが絶対に許さないって決めた時や彼らがシラを通したら……退学でも警察通報でも仕方ないと思う」
少しの沈黙が二人を包む。
「なんでだろうね〜保兄さんやおじさんとは正反対だし……」
「保さんと田所オジサンには返しきれないご恩があるけど……さすがにもう庇えないよ」
「そうね……ね、これから久しぶりに2人のお墓参り行かない? どうせ蓮は行ってないだろうし」
「いいのか……僕と2人って」
「大丈夫! 50メートルは離れて歩くから(笑) 色々詮索されても面倒だからね」
日が沈む前にユーミはお墓参りに行くことにした。
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千景は次の日、今回の盗撮事件を大鷹先生に相談をした。結論、水曜日、6時間目に緊急ホームルームを開き、そこでクラスメイトだけで話し合いを持つことになった。緊急ホームルームの時間、大鷹先生は勅使河原さんを職員室に呼び、事情と本人の意向を聞き、最後に合流して、解決の方針を話し合うことになった。
水曜日の緊急ホームルームが正念場、良からぬ結末にならない様に対策を練ろうと千景は考えていた。