4 宝物
ユーミはトイレからカラオケルームに戻った。中に入ると、田所と柳沢がいる。驚いたのは……千夏が涙を流している。柳沢の足元には、千夏のメガネ……。すぐにユーミは事の次第を把握した。
「柳沢! 田所! なにやってんの?」
「あ、ユーミ……オレ、千夏ちゃんのメガネ壊しちゃって……」
「バカ また悪ふざけしたの? 全く……どうすんのよ 早く謝りなさいよ」
柳沢が千夏の所に歩いていった。
「ごめんね〜千夏ちゃん、メガネ壊しちゃって(笑) あれ? でもメガネない方がメチャ可愛いじゃん! オレもしかしたらファインプレー(笑)」
千夏は呆然として涙を流したままだ。柳沢の言葉が届いていない様子である。
「柳沢! 何よその言い方! ちゃんと謝りなさいよ!」
周囲は凍りついたままであった。その時、千夏が声を上げて泣き始めた。泣きながら壊れたメガネを拾い上げ、部屋を出ていった……。
「ひな、音羽、お願いしていい?」
「……うん……」
ユーミの怒りは頂点に達している。コイツら何度同じことを起こすのか……そしてクラスメイトが何も言えずに黙っていた事も腹立たしい。
「田所と柳沢、お前ら今すぐ帰れ! その前にここにいる皆に詫びろ!」
「なんだょ〜 悪かったよ。怒らんでよユーミちゃん」
「触るな! もういい、帰って! 千夏には後日ちゃんと謝って! メガネも壊したんだからちゃんと弁償しなさい!」
田所と柳沢は反省の色もなく部屋を出ていった。ロクでもない幼馴染みを持ったものである。このクラスの誰もが二人を恐れている、だから唯一彼らと戦えるのは、今は、ユーミしかいない。
歓迎会はこのままお開きになった。精算を済ませたユーミは急ぎ千夏の所へ向かった、近くのカフェに居るそうだ。
カフェにはひなと音羽、千夏がいた。千夏は泣き止んでいたが涙は止まってない。
「ユーミ! こっち」
ユーミに気付いた音羽が声を掛ける。カフェラテを注文してからテーブルに向かった。早速音羽が話しかけてきた。
「……ありがとね、ユーミ」
「大丈夫よ、私が言うしかない状況だったし……千夏、平気?」
「うん」
千夏は俯きながら返事をした。
「ホントにごめんね。守ってあげられなくて……私がその場にいれば……」
「…………」
千夏からの返事はない。余程大切なものなのだろう。何かを言いかけたひなを静止して、暫し沈黙を作り出した。少しすると千夏が話し出す〜
「このメガネ……大切な人から貰ったものなの……」
「言ってたよね……大切なモノって……」
「…………」
千夏は黙ってしまった。
少しすると、ひなが話し始めた。
「きっと……大切な思い出や、千夏に対しての想いが詰まったメガネなんだね……ごめん、私も音羽もその場にいたのに何も言えなくて…………」
またも沈黙が続く……どれくらい経ったであろう、突然の事だった、千夏が俯いたまま……
「私、帰る」
千夏はそう言うと突然変異席を立ち。慌てるユーミ達を置いて走り去ってしまった。
次の日から千夏は学校を休んだ。
△△△△△△△△△△△△
「千夏、具合悪いなら病院行きなさいよ」
「分かってる ママ」
「お昼の用意はしてあるから、食べられたら食べてね じゃ行ってくる」
あの日以来、千夏は学校を休んでいる。ママも仮病だと言うことは恐らく気付いているが……今日でもう3日目、登校するのは中間試験の日あたりにしようとも考えていた。
千夏は自室のベッドの中で壊れたメガネを眺めている。フレームは曲がっているだけでなく真ん中から折れてしまっている。間違いなく直せそうもない。
(どうしよう……この事をひめさんに伝えるべきか……)
メガネをくれたひめさんに話を聞いてもらいたい気持ちと、メガネが壊れてしまった事実をひめさんに知られたくない気持ちで千夏の心は揺らいでいる。3日目経っても答えは……見つからない。
〜〜どれくらい経ったのだろう〜〜
ちょうど14時を過ぎたくらいか、携帯に着信があった。千夏の携帯番号は今のクラスメイトには伝えていない。クラスメイトはSNSだけのやり取りである〜今日はまだ何も返信してないが……。
電話は……紗理奈からであった。紗理奈は4月までの同級生、カトレアでは頼りになる親友で、転校するかを悩んでいた千夏に手を差し伸べてくれたのも彼女であった。
(ホントに不思議…………)
「もしもし」
「千夏? 元気? あれ? 元気………ない?」
「まあ、色々あって……」
「私って能力者なのかなぁ。何となく千夏どうしてるかな〜って思ったの。虫の知らせ的な? だから電話した…………どした?」
「実は…………」
千夏は紗理奈に昨日の出来事を話した。ひめさんに貰ったメガネを故意に壊されたこと、心のコントロールがつかず、号泣してしまったことも。でも学校を休んでしまった事は話さなかった。
「なるほどね〜。そりゃ私でも号泣しちゃうよ。でさぁ、これから千夏はどうするの? 報復する?」
「その前に……メガネ壊しちゃったこと、ひめさんに伝えないと」
「いやいやそんなの必要ないよ。だってそれ、千夏のものじゃん ってひめさんなら言うと思うよ。きっと、千夏のことだけを心配すると思う」
「そうかな……」
「ひめさんはそういう人なの! だから気にしないで! あ、今度生徒会の事で会うことになってるから、軽く伝えてよ」
「でもそれは私が話さないと……」
「ひめさんの事だから、壊れたなんて話したら直ぐに新品のメガネ送ってくるよ。自分から壊れました、とか言うのは、買ってください、って話すのと同じこと。千夏にその気はなくても……」
「うん、紗理奈の言う通りだね」
「それとさ、報復するなら良い方法がある! それは壊した男共に弁償させることね! だってあの金満なひめさんの私物でしょ? あのメガネ。きっと高級品よ」
千夏はこわれたメガネの金額を考えることは今まで無かった。それを思うと余計ひめさんに申し訳ない気分になった。
「そうね、調べてみる」
止め処無い会話は夜まで続いたのであった。