最終話千夏と千景、勇者様と姫様
千景、病院には何時頃までいくの?」
「うーん、今日はお昼過ぎからにしようかな……」
「なら私もあわせるね!」
千景が退院して約1年が経った。リハビリで驚異の回復を見せた千景は目覚めてから2ヶ月足らずで学校に復帰をした。この回復力を周囲の医療関係者も驚いていたが……千景はかなりのズルをした事を隠している。
(そろそろ、目覚めるだろうなぁ…………流石に)
地元の県立大学に進学した千景は、必須の対面授業以外は全てオンライン受講にして、千夏の病室から講義を受けている。普通であれば許されないであろうが、千景自身が病院の臨床試験に協力するという名目で千夏と同じ病室の一角が与えられている。
病室に着くと、一足先にユーミが千夏のお見舞いに来ている。
「遅かったわね、千景」
「あら、お早いこと……しかし、寛ぐ気分満載で来てるな(笑)」
「わるい? だってもうすぐ千夏が目を覚ますんでしょ? プリンセス(笑)」
ユーミは大量のお菓子やジュースを買い込んできている。基準は分からないが、ポテチが多い。
「んー、まあ。信じてくれるのはユーミくらいだろうけど(笑) ユーミは大学、どう?」
「楽単が尽く抽選漏れで最悪よぉ。ほぼオンラインないし……」
「頑張って真面目に勉強しろって神様からのお告げだな。ま、頑張れ!」
ユーミは元女子大であった熊本県内では有名な大学に進学した。レベルは決して高くはないが、県内の就職には強い大学である。
「なんかイラッとくるのよね……あなたに勉強とか言われると……」
「まあまあ(笑) 僕は5分後にすぐ授業だから、頼むから静かにしててくれよ!」
「大丈夫! 今日はやることあるの!」
ユーミはそう言うとスマホでアプリを起動させている……今流行りの恋愛シミュレーションゲームだ。いつの間にか、ユーミは腐女子化している……。
「腐女子……」
「絵?、何か言った?」
「い、い、なんでも……」
△△△△△△△△△△△△△△△
ユーミは大好きな「ハニーハニー黒糖ポテトチップ」を食べながら、ゲームをしている。このポテチはクセになる〜甘さは強烈だが、これがまたルイボスティーに合うのだ! 普段はダイエットをしているユーミだが、この病室に居る時はダイエットを停止している。そして……次に開けるポテチは「ハバネロ50倍ポテトスティック」と決めている。特製チリオイルが付いていて、それに浸け悶絶するのがたまらない。これもまた、ルイボスティーによく合う。
ふと千夏の顔を見た。スヤスヤと眠っている。寝顔も美人である。以前は身体のアチコチに接続されていた機器も、最近は外されている。以前は実験体の様で可哀想だと思っていたが、今は違う〜タダの? 眠れる森の美女である。
ユーミは千夏に見惚れていた。その時……少し睫毛が動いたような気がした。ユーミは思わず話しかけた…………。
「千夏…………千夏…………」
「どうした? いきなり千夏を呼んだりして……」
「千景……なんかさ、睫毛が動いたような気がして……ほら……」
「ほんとだ……千夏? 千夏?」
「! ! !」 「! ! !」
千夏の瞼は少しずつ動き始め……ついに、千夏が目を覚ましたのである…………。
「千夏!」「千夏! わかる?」
千景の「分かる?」の言葉に千夏はコクリと頷いた。そして…………
「ただいま…………ユーミ…………と…………アリサ姫…………」
「おかえり…………勇者様(笑)」
病室には歓びと感涙が溢れ出していた…………。
△△△△△△△10年後△△△△△△△
「ねえママ。いつもの夢のお話してよ」
「琴音は夢のお話が大好きね(笑)」
「だって、主人公がパパとママだから(笑)」
「そっかぁ、じゃあ、琴音は勇者様と姫様、どっちが好きなの?」
「うーん…………どっちも! 早くう、お話!」
「はいはい(笑)」
もうすぐ5歳になる琴音は輝かせている。我が家の小さなプリンセスは何事にも興味を持つ。最近は寝る間際に話している、勇者の物語がお気に入り。千夏が今世で意識不明の時に見た夢がその物語の元になっている。
「では……夢の続き…………勇者となったナツカゼが次に向かったのが…………」
琴音は聞き耳を立てた……。




