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34刹那

 千景は教室を飛び出し、まっすぐ体育館へと向かった。校舎から外にでると雨で視界が利かないほどの豪雨、それでも千景は体育館脇の小屋、千夏が向かったと思われる場所に向かった……


(これ以上、大切な人が傷つくのは嫌だ!)


 この一念のみである。千夏にもしもの事があったら……悪い予感もよぎる。



 ずぶ濡れになりながらたどり着いた体育館脇の小屋の扉は空いている。どうやらこの小屋に雷が落ちた訳ではなさそうである。千景は扉から小屋に入った。


「千夏? いるのか?」


「……千景くん……こっち……」


「どうした?」


「さっきの雷でビックリしちゃって……足を……」


「待ってて……」


 千夏は怪我をしているようである。ここは背負ってでも校舎に戻らないとならない。千景は千夏の元に急いだ。


「……ありがと……」


 千景は千夏の手を取った…………その時何かが軋む音がする。一瞬何もかもが止まったような感覚を覚える。千夏と目が合ったその瞬間……小屋の天井が落ちてきた。


(せめて千夏だけでも助けたい)


 千景は強く思った。



△△△△△△△△△△△△△△



 ユーミは教室に一人取り残されている。あまり恋愛には不向きのようだ……そんな思いに駆られていた。千景に自分の想いを伝えてしまった。でも千景は千夏が心配で……教室を出ていった。それも、ちゃんと「あとぜき」になっている。


 そんな複雑な思いも吹き飛ぶような……大きな音がした。何かが崩れる音か……その音を聞いてユーミを教室を飛び出した。



 校舎の外は雨がカーテンのようになり遠くまでは見通せない。なので体育館の方面に駆け出した。異変はすぐに分かった……ユーミの目の前に瓦礫が……


(小屋がなくなってる…………)


 ユーミはすぐに119番通報をした。




 数十分後、ユーミは校舎の玄関口にいた。体育館近くには多くのレスキュー車と救急車が並んでいる。そしてレスキュー隊が声を上げて2人を探している。ユーミはすぐに119番通報をしたが、その反面、千夏あたりから、(いやーびっくりしたよぉ)なんて連絡が来るのではないかと期待していたが、未だに連絡がない。なのでこの瓦礫のどこかに居ることになる。


「あの……通報された生徒さん?」


 レスキュー隊の方がユーミにはなしかけてきた。ユーミは咄嗟に…


「千夏と千景は無事ですか? あの小屋にいたかも知れません……」


「…………お友達…………ですか。実は瓦礫の中から男性と女性が救助されて、今救急搬送されたところです」


「ホントですか…………よかった」


「…………」


 ユーミはホッとしたのか感情が堰を切った様に流れ出し、涙が止まらなくなった。それからの事は覚えていない。



△△△△△△△△△△△△



 豪雨と倒壊事故のあと、学校は3日間休校になった。本来なら本日開催されるはずであった追悼コンサートは中止に、そして、本日担任の先生から千夏と千景の術後経過が語られる……2人とも一命は取り止めたようだが、その後の報はユーミには入っていない。


「みんなー。席についたか? では今朝勅使河原と河原の保護者からお聞きした2人の現状をみんなに伝える……」


「手術とかは?」「元気になるの?」「…………」


「まあみんな落ち着け! この前話した通り一命は取り止めた。だが……まだ2人とも意識が戻らない。河原の方は背中に大きな傷を負ってしまったが、勅使河原はほぼ傷がない……まあ、河原のことだ、勅使河原を庇ったんだろうな……」


「先生! 2人はいつ目覚めるんですか?」


「わからん……そうだ。河原は傷が癒えれば戻る可能性もある。勅使河原は……原因不明だそうだ。明日にでも目覚める可能性があるらしいが……」


 とても歯切れの悪い説明であった。そんな説明であっても、ただ生きていることにユーミは救われた、と思った。今のユーミにとって2人は大切な人、2人を失っては、どう立ち直ればいいか、分からない。


「まあ、今は病院に任せるしかない。それと、2人は近くの大学病院に入院したが、面会は謝絶だから、お見舞い行っても会えないからな あまり病院に迷惑かけるような事はするなよ」


 そうはいっても……ユーミは千夏と千景のために何かをしよう! と心に決めた。そうするしかない自分がそこにいた。



△△△△△△△△△△△△△△△



 ユーミの元にひめさんから連絡があったのは事故から1週間後の事であった。


「ユーミ。あなた大丈夫?」


「はい、ご連絡頂きありがとうございます」


「千夏と千景くんがこんな事になっちゃって……私もすごく心が痛いの……」


「私も……でも何か2人のためにしたいな、って。前向きに生きないと千夏の叱られそうだから」


「そうね…………私今週の土日にお見舞いに行くんだけど、ユーミも行く?」


「でも面会謝絶って……」


「大丈夫、まかせて!」



 2日後の土曜日にひめさんと病院の前で待ち合わせをした。紗理奈も一緒である。


「Friendsの3名が揃ったわね……じゃ行こっか」


 ひめさんを先頭に病院の受け付けへ。話が通っているのか、ひめさんは直ぐに受け付けを済ませてきた。手には何か鍵のようなものを持っている。


「ひめさん、その鍵……」


「あ、これね。この病院にはね、超VIPルームがあるの。2人はそこよ」


「ひめさんが負担とかしてるんですか?」


「紗理奈くん、それは違うな。ここのVIPルーム代は千夏の稼ぎだから。ほんとすごいよ、千夏は……入院費まで稼いじゃうんだから(笑) 実はね……」


 ひめさんによると……この崩落事故の直後から、文化祭での千夏のパフォーマンスのアーカイブにアクセスが殺到していて……プロのサクックス奏者、栗原千夏が半年以上経って演奏会をした事、そして、直後に事故が起きた事が大きな話題になり、視聴数が莫大に伸びているらしい……やはり千夏はすごい。




 エレベーターを乗り継ぎVIP専用と思われる部屋へと到着した。多くの看護師と医師とおぼしき方々は忙しなく往来をしている。ユーミはひめさんに続き、部屋に入った。


 VIPの病室は広い。そして数多くの医療機器が並んでいる。印象的には病室と言うより……秘密の実験場のようである。2つのベッドがあり、それぞれ千夏と千景が眠っている。


「なんか今にも目を覚ましそうね……」


 ひめさんが一言、そしてユーミが頷く……


「そうですね」


「紗理奈、泣くのは止めなさい。千夏に笑われるわよ」


「ひめさん、もし、アニメの世界だったら、このタイミングで目を覚ましたりしますよね……」


「私、声優だけど、アニメの世界の住人じゃないからなぁ……そんな都合の良い韓国ドラマみたいにはならないよ。でも2人と会って1つだけ確信したの……2人ともきっと目を覚ますって!」


「私も信じます…………」

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