33雨模様
追悼コンサートは異例の早さで10日後、月曜日の放課後の開催が決定した。吹奏楽部が全国大会を控えている事、学校全体が動揺している事も関係しているのであろう。今回のコンサートには彩理のお母様と教員生徒のみしか呼ばないことにした。位置づけは学校の緊急集会みたいなものである。
吹奏楽部も直ぐに準備が整った。何度も演奏しているフラワーのヒット曲は事前準備も必要なく、ひめさんから送られてきた未発表曲……今回は演奏せずに定期演奏会に回すことにしたのである。ユーミは音楽室で雨空を見上げている。
「千夏、ほんとによく降るね……ずっと、空も泣いてるみたい」
「うん、そうね」
「コンサート、手伝ってくれてありがとう。千夏はやっぱ凄いね……」
「ううん、凄いのは私の先輩方よ……圧倒される。色々サプライズ用意してくれるし、もう、神ね」
「サプライズってどんなのか教えてよ……」
「それは内緒。コッソリ体育館裏の倉庫に隠してあるの。あそこなら誰も見つけられないでしょ(笑)」
「あ、千夏の笑った顔、久しぶりに見たかも(笑)」
「先週日曜日からずっと淑女だったからさ。笑顔はにあわないかなって」
「なにそれ…………」
ユーミは千夏と話すことで少しでも気を紛らわせたかった。考え込んでしまうと、心が押しつぶされそうになる。対する千夏も同じ心境なのだろう、とユーミは察していた。
「近い将来……いつものように笑える日が来るといいね……」
「うん……」
「それにしてもよく降るね……雨」
「止まない雨はない……と思うけど…………」
ユーミの言葉とは正反対に、雨は数日間降り続いた。
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追悼コンサートを企画して1週間が経った。コンサートがちょうど3日後に迫っていたが、ここ1週間はずっと雨模様である。特に昨日からは大雨、と言うより時々豪雨になる。千夏は恨めしそうに雨空を見上げていた。時折、カミナリの音がする。
「ねね、千夏。彩理のお母さんへの贈り物って何処に置いたの?」
「えーとね、それは内緒かな……手のひらサイズのものじゃないから、あまり人目に触れない所に隠してあるの」
「当日に紛失してた……とか止めてね」
「それは大丈夫」
千夏は最近ユーミと話す機会が多い。コンサートの事もあるが、千景の事も話すことがある。もちろん1年ほど前、彩理さんの身に何が起こったのかも、千景がどうして自らの事も犠牲にして柳沢達を守ったのかも……。最近はあのおバカ二人組も大人しくしている、二学期に始まってからは不気味に感じていたが、流石にもう何かを仕掛けてくる気配はない。
「しかし、雨止まないね……例の線状降水帯とか……本当に腹立つわ…………」
「今夜から酷くなるらしいから明日は休校かもね……」
「休校?」
「うん、電停で2駅行ったところに江野湖ってあるでしょ あそこ、すぐ氾濫したりするのよ そうなると休校になったり……」
「私知らなかった。もしや、この高校も水浸しってことになるの?」
「ならないけど……でも古い建物もあるから、豪雨て倒壊とか、そんな事はありえるかもね」
千夏は一瞬、ビクリとしたが雨のピークは今夜、まあ大丈夫だろうと考えるようにした。
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放課後になった。雨は一段と強くなる。千景は千夏とユーミと3人で学校に残っていた。江野湖が氾濫したら、追悼コンサートはほぼぶっつけ本番である。そのために細かな打ち合わせをしていた。千景が参加したい、という要請があったので17時過ぎの集合だ。
「ではタイムスケジュールから確認ね……」
「演奏の前に私から主旨の説明、これが最初ね……」
千景はただ見守っているだけ、と言っていい。だがこのミーティングに参加することに意義があるとおもっている。その気持ちはもちろん千夏とユーミにも届いている。
「ほぼ決まったわね……それにしても雨が酷くなるのはやくない?」
「そうね……ユーミ……私、気になることがあって……」
「なに?」
「彩理さんのお母さんへのプレゼントなんだけど……隠した場所がこの雨で倒壊しないかな……とか思ってて」
「え? 体育館のどこかに隠したんじゃないの?」
「うん、実は……体育館脇にある謎の小屋あるでしょ? そこに置いたの……ちょっと見てきていいかな?」
「雨くらいじゃ大丈夫だと思うけど……」
「僕が行こうか?」
「いや、千景には行かせられない! これは私の仕事だし……」
一度言い出すと千夏は聞かない。
「千夏! あとぜきね!」
「はいはい、ユーミ様! あとぜきね!」
千夏は教室を出る時に「キチンと扉を閉めて」から、一人で体育館脇の小屋へ向かった。そして教室には千景とユーミの二人きりになってしまう、少しの沈黙……そしてユーミが切り出した。
「ね、千景。あなた、千夏の事はどう思ってるの?」
「どうって……」
「あなたってモテモテね……そりゃそうよ。あんなに思い遣りあるんだから……女の子はそう言うのに弱いの……」
「自慢じゃないけどモテたことなんて……」
「何いってんの! 私だって…………」
「? ? ? 今なんて?」
2人の目が合った……その瞬間であった!
〜〜ドッカン〜〜
大きな音と稲光がした。近くに雷が落ちた……もしや体育館の近くでは……
「千夏みてくる!」
千景は教室を飛び出した。




