告白
今日は千景とのパフェデート、千夏は鼻歌を歌いながらメイクをしている。今日は少し驚かせてあげよう……千夏様の美貌に磨きをかけて…………何故か気分が良い。
千景には土曜日から何度かSNSで連絡しているが、どこか素っ気ない返事しか来ない。心ここにあらずと言った感じだが、これは約束……キッチリパフェを奢らなければ千夏の気がすまない。そして、その素っ気ない態度を改めさせようと、美貌の上塗りをしている最中である。
「なあに、千夏……気合入ってるわね! 本命とデートなのかしら?」
「ママ、違うって! なんかね、私がデートしてあげるのに、態度が素っ気ないくて! その仕返しよ(笑)」
「やっぱり本命とのデートなんじゃない……」
「違うって…………」
「まあいいわ、楽しんできなさい! 若いんだから思いっきりたのしまなくちゃ!」
ママには誤解されてしまったが……楽しみ、なのは間違いない。千景の反応が楽しみだ。
千夏はメイクに合わせて大人びた服を選んだ。ママのお下がりであるがモノはいい。無地で紺のワンピースは首すじが強調されている。アウターもそれに合わせて薄手で同じ色のものを揃えた。そして、1番のポイントはセレブな紺色の帽子。トータルすると……どこをどう見ても「淑女」にしか見えない。そして、淑女に欠かせないのが……傘。夕方からの雨予報に備えてこれまた紺の淑女傘を用意した。
(これで完璧ね! これ見たら、千景、とう思うのかしら…………)
心の中で楽しみが止まらない。
待ち合わせは14時。千夏はわざと遅れるように家を出ている。ちょうどカフェに到着したのは14時5分くらいだろうか……いつもなら千景が先に到着しているはずだが…………見当たらない。肩透かしに遭った千夏は少し不機嫌になった……。
(何よぉ…………)
素っ気ない連絡は続いていて、カフェに向かっているとの連絡もある、千夏は待つことにした。今日は特別、アルティメットどんぶりパフェを2個頼んで、ここも勝負を挑もう! 等と考えながら、1つだけでパフェを頼んだ。
パフェが到着した。それと同時くらいであろうか、千景がカフェへと入ってきた。私服は何度か目にしているが、お世辞にも素敵とは言い難い、白系のシャツに紺の厚手のアウターを羽織っている。千夏は千景に声を掛けた。
「千景ー! おそーい! 遅刻!」
「…………ごめん…………」
千夏は千景をみて驚いた。とても窶れている。目が窪み、顔色も悪い……何かあった と見た目からして分かる。
「どうしたの…………」
「まあ…………」
「まあ、じゃないでしょ。千景、具合悪い? 体調悪いなら無理しないで帰らないと……私のことはいいからさ」
千夏は焦った。体調悪いところを無理させてしまったのだと思ったからだ。ここは……早めに切り上げないと…………。
「話……聞いてほしい……」
「うん…………分かった」
千夏は察しがいい。恐らく元カノの事であろう。学校での無視等は日常の事なのでここまでは落ち込まない。そして…………千景は淡々と話し始めた。
「実は………………」
千夏は衝撃的な事実を千景から聞いた。千景は涙も枯れ果てたのだろう、苦しそうに言葉を絞り出している感じだ。彩理さんの死……それが千景にとってどんなに辛いことなのか、容易に察しがつく。けど……冷静に聞いている自分は何なのだろう、考えてみれば彩理さんとは会ったこともない。だから、悲しいというより他人事だ。そして……恋敵……寧ろ…………そんな気持ち持ってはいけない、千夏の中で大きな葛藤が生まれていた。そんな自分、嫌いだ…………ふと気付いた事がある〜所詮他人事なのである…………これではダメだ、何か行動しないと……と考えた。そして……
「千景、彩理さんのお母様の連絡先教えて…………」
「なんで…………」
「いいから」
千夏は半ば強引に千景から彩理さんのお母様の連絡先を聞いた。そして、席を立ち電話をした。
「はい」
「あの。島彩理さんのお母様でいらっしゃいますか」
「そうですか…………」
「この度は……………………」
△△△△△△△△△△△△△△△△△△△
千景は千夏が電話をかけ終えるのを待っていた。千夏は優しくて強い。きっと居ても立ってもいられなくなり、お悔やみを伝えているのであろう。彩理の事を話すのは辛い……でもこれだけは千夏に話さないとならない、そんな気がした。
長い電話を終えて、千夏が戻ってきた。
「千景、行くわよ…………」
「どこへ?」
「辛い話聞いてあげたんだから、付き合いなさい、私に。いいわね」
千景は千夏の言うがままにカフェを出た。そしてあの高級ホテルの前から……バスに乗った。その間、千夏は何も話しかけてこない、考え込んでいるみたいである。バスは山の方に向かう。25分ほど2人は無言でバスに乗っていた。バスを降りた時には雨が降っていた。千夏は何かのメモを見ながら歩を進める、千夏はバスを降りた直後に花束を買っていたので、何処に行くかは……察しが付いた。
小高い丘に彩理のお墓があった。熊本一望出来るような見晴らしはなかったが、とても落ち着いている場所である。それまで一言も話さなかった千夏が口を開いた。
「千景がこの花あげてちょうだい」
「うん…………」
「それと……彩理の写真……ある?」
「スマホになら……」
千景は花を供えた。そして祈る。彩理の事を聞いてただ泣く事しか出来なかった自分を千景は悔やんだ。何故、自分から彩理に会いに来なかったのだろう……と。悲しみが込み上げる。隣で千夏がすすり泣く声が聞こえる。千夏には感謝しかない、そして彩理にも。
「千夏…………ありがとう 千夏は優しいね」
「…………ううん、違うの…………私、最低な人間なの……彩理のこと聞いた時…………他人事って感じた。最低でしょ、だから…………」
「…………」
「私も当事者になりたかったの……だから……彩理に会いに来た……こんな形の出逢いって、悲しいね、千景…………」
そう言うと、千夏は千景の胸の中で号泣をし始めた。千景も泣いた……今まで押し殺した感情が堰を切って押し寄せた…………。
…………2人は泣いた遠くで2人を見守っていた彩理のお母様には気付かず、心の赴くままに………
いつの間にか雨は止み、千景は千夏とバスを待っていた。
「なんか、少しだけど、スッキリしたね」
「千夏、本当にありがとう。彩理の事を気遣ってくれて……」
「ううん。だから違うの……私、千景と一緒に泣きたかったの、あなたの気持ちと同じ気持ちになりたかったの……あなたの……大切な人と友達にもなりたかった……」
「どうして……そんな……」
「だって……私………………千景が好きなの……だから……」
千夏の言葉に驚くことも出来ない、今はそんな気持ちである。千夏は俯いている、きっと言葉を待っているのだろう……
「ありがとう…………」
そう返事をするのが精一杯であった。
「でも……今日は、私も彩理の事を想いたい。ね、後でさ、彩理の写真送ってくれない? 今夜はたくさん彩理と話し合いたいの……まだ友達になったばかりだから」
「うん」
雨上がりの空、雲の間からはほんの少し夕日が差していた。




