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23 退院

「そっかぁ、文化祭でソロコンサートね。千夏が出るなら盛り上げなくちゃ。まあ盛り上げはユーミ達の仕事からさ、ユーミの似合いそうにない黄色い声援で(笑)」


「ダメよ、千景も応援してよ! そーね、黒い声援ね(笑)」


「んだよ、それ! 悪魔みたいじゃん……」


 千景はいつものカフェにいる。ユーミから珍しく携帯に電話があった。千夏がコンクールの全国大会に出られない事、部活に来てないことは聞いていた。が、今朝ユーミの所に千夏から連絡が来て、ソロコンサート開催の決意を聞かされたらしい。ユーミは余程嬉しかったのであろう、千景に電話をしてきたのである。


「千夏の事はもう心配なさそう! 問題は……全国大会よね。千夏が不在となると演奏のクオリティが低下しちゃうから……」


「そんなの練習で埋めるしかないでしょ。全国大会までまだ2ヶ月以上あるんだから」


「そうなんだけど、千夏の抜けた穴って巨大なのだよ、千景くん!」


「はいはい、分かりました」


「そろそろ練習再開だから戻るね! 千景はこれからお見舞いでしょ! 彩理によろしく伝えておいて」


「了解、じゃ部活頑張れよ!」


 時間を確認すると13時半を過ぎている。千景も病院へ向かうことにした。カフェを出ると強烈な日差しが千景を襲う。だが、今の千景にとっては暑さなど微塵も苦にならない。生まれて初めての彼女、そして告白されたのも生まれて初めてだ。早く会いたい……自然と千景の足も早足になる。




 病院についた。いつものように受付に行くと……今日は田中さんが居ない。知らない女性が受付にいる。千景はお見舞いの受付票をその女性に渡した。


「島さんのお見舞いですね…………あー、すみません、本日は面接不可になってますね。理由は、えーと、何かの検査ですね……」


「……分かりました……」


 千景はガックリと肩を落とした……昨晩、彩理にSNSで連絡を取ったが返信がなかった、だが、それはよくある事。もしや、どこか体調に異変があったとか……会えないという失望と共に、大きな不安が千景を襲った……。


 千景を病院を出てる帰途に着く。ついさっきまで清々しいとさえ思えていた強い日差しと生ぬるい風が、千景を不快にさせる。すぐにでも電話して声だけでも聞きたい ……だが、検査の最中だったら迷惑だろう。ここは簡単に…………


(こんにちは。検査なのかぁ、会えなくて残念(泣) でもまた明日彩理に会いに行きますっ!)


 と、SNSでメッセージを送った。



△△△△△△△△△△△△△△△△△△



 次の日になった。千景は彩理からの連絡を待っていたが、全く返信がない。会えない失望よりも不安が増大していく。昨晩は気持ちが潰れそうになり千景の方からユーミに電話をしてしまった。ユーミは不安になる事はないという〜連絡がない理由なんて、たまたま携帯が壊れてしまったり、そんなところだと一笑された、いや、励まされたとの表現が正しいだろう。


 千景は病院の近くを流れる川のほとりにいた。木陰にあるベンチに座っている。ここに来てからもう3時間は経つだろう。今日は会えるだろう、という期待と連絡が取れていないという不安が交差する。気づくともう面会開始時間の14時を過ぎていた。千景は重い腰を上げて病院へ向かった。


 病院はいつもの様相である。受付には昨日と同じ女性がいた。千景には気付かずに忙しく他の方の面会の受付案内をしている。千景は受付票を書き、受付カウンターに受付票を置いた……すると女性が千景に気づく。


「あら面会ですね……お待ち下さい…………」


 受付の女性、千景のことを覚えてのいるか、は分からないが、愛想よく受付票を受け取ってくれた。女性は何度も確認をしている……


「あれ…………河原さん………申し上げにくいのですが…………」


 その時であった。受付に田中さんが、血相を変えて現れた。


「田中さん、どうしたんですか? そんな慌てて……」


「千景くん…………あのね、実は……私からも言いづらい事なんたけど…………彩理ちゃん、昨日退院しちゃったの……本当に急なことなんだけど…………ご両親の意向で…………」


「え…………退院…………」


 千景は目の前が真っ暗になった。どういう事なのだろう。今日も会えない……いや、今後は会わないという事なのだろうか……あの日の誓いのキスは何だったのだろう、彩理の涙は何だったのだろう……。


「……ごめんなさい。千景くん…………」


 田中さんが小さな声で呟いているのが聞こえた。


「わかりました。彩理が退院出来て良かったですっ! 元気になったってことですから。また学校で会えますし。田中さん、色々ありがとうございました。では!」


 退院と聞いて涙を流す訳にもいかない。千景は張り裂けそうな心を押し殺して、明るく田中さんに返答をした……これが、精一杯である。


 千景は病院を後にした。


 退院と聞いて泣くのは変だ。でも……失望感と不安は拭えない……。涙をこらえて、千景は彩理が何も言わずに退院してしまった理由を探した〜恐らく……彩理と千景が会っている事をご両親に知られ、強制的に退院させられた。だから連絡も来ない。この可能性が高い、というより、千景自身を納得させる唯一の憶測である。もしかしたら誕プレやキスをした事もバレてしまって、携帯も取り上げられて連絡取れなくなっているのかもしれない。そうなると、千景自身のせいになる……。


(全ては憶測だけど…………)


 千景は咄嗟に携帯を確認した……もちろん彩理からの連絡は……無い…………。

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