21 千夏の決断
千夏は夏の空をボーっと見つめていた。校長先生から言われた事に整理がつかない。そのまま2日が経過している。部活も2日間欠席していて……千夏は決断に迫られていた。
気晴らしに街に繰り出してみた。いつも歩くアーケードも地下道を抜けたショッピングモールも、気分転換にはならない。アテもなく歩いているが、結局いつものカフェへと足が向かってしまった。店に入ろうとした瞬間、携帯が鳴った。
「千夏? パパだけど…………」
電話の主はパパであった。
「うん……なんか、久しぶりに思える…………」
「聞いたよ。コンクールの事。大丈夫か? 千夏…………」
「うん。みんなで頑張ってたのにガッカリだわ。もう部活辞めようかと思ってる…………」
「そうか……ごめんな。今回のことはパパのせいでもあるから……」
「大丈夫……もうパパ許さないって気持ちで満タンだから……これ以上憎めないし(笑)」
千夏は出来る限りの嫌味をパパにぶつけた。
「なぁ、千夏。パパはどう思われようともいい。でもサックスは続けてほしい。コンクールで吹けなくても、たくさん発表の場はあるじゃないか!」
「そうね。なら私、文化祭で吹いちゃおうかな、ソロで」
「その意気だよ、千夏。サックスを続けていれば、きっと良い事あるよ! 千夏の音色には、人の心を動かす独特の響きがある。それはパパにはない才能だから……」
いつもとは違い力説を繰り広げるパパ。心配しているのだろう。千夏はその言葉にどこか救われる気分がした……そして、心の中で二つの決断をした。
「ありがとう…………そろそろ友達と約束してるから……またね、パパ」
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千夏は自宅に戻り、引っ越してから未だに開けていない段ボールを開けた。そこには膨大な楽譜がある。まず1つ目の決断、それはソロコンサートを受けるということ。まずは、ソロでも聴き応えのあるセットリストを作らないとならない。そして、今まで演奏してきた楽譜をひっくり返している。
携帯が鳴った………
「千夏、久しぶりぃ!」
「紗理奈、いつぶり?」
前の学校の親友、山科紗理奈からの電話であった。
「ごめんね〜生徒会とか忙しくてさ! 多分、千夏がメガネ壊されて凹んでいた時以来かな(笑)」
「だね(笑)」
「えーとね、今度さ、私、生徒会案件で熊本に行くことになって……9月の2週目なんだけど。土日挟むんだけど、千夏会えたりしないかな?」
ちょうど文化祭の時である。
「その週の土日文化祭だから……そうだ、チケット送るから観に来てよ! 夜は空いてるから。でもカトレア祭と比べちゃダメよ(笑)」
「いいねぇ、確か男子も多いのよね?」
「まあいるけど……目当てはそこ?(笑)」
「なわけ……少しあるかも(笑) そうそう、生徒会関連だから文化祭のチケット多めに送ってくれない!」
「うん! でね、実は……色々あって私、文化祭でソロコンサートする事になると思う! プロとして(笑)」
「なにそれ?」
千夏は詳細を紗理奈に伝えた。吹奏楽コンクールでの出来事、父のこと、全国大会に出られない代わりにソロコンサートを提案されていること、を。
「だったらさぁ、ソロコンサートじゃなくて、バックも付けて本格的にやれたりしないかな? だってプロの範疇でのコンサートなんでしよ? 私もメンバーで出るから! そうね……CHINATSU&FRIENDSなんてどう? アルファベットで」
「素敵ね……でも紗理奈に申し訳ないから……」
「大丈夫! 私たちが出られるようにしてくれれば、私に良い考えがあるのっ!」
「恐らく出演の許可は出ると思うけど、練習とかしないとならないし……」
「問題なし! 当日は音合わせだけで! 事前にセトリ送ってくれればさ こっちで練習しとく! で……プロなんだから、金取ろう!」
「入場料? とか?」
「馬鹿ね、そうじゃなくて、アーカイブで一般視聴者に課金させようよ! だって……あなたはジャズ会のホープ、栗原千夏でしょ!」
「動画取って、その商用の許可取ればいいのね!」
「そういうこと! そうとなったら今からミーティングね! パソコンかタブレットある? 今から繋げてWEBミーティングしよ!」
「了解! ちょいと待ってて…………」
ここ2日間の事が嘘のように、千夏は前向きな気持ちになった。早速、千夏はパソコンを繋げてWEBミーティングの準備をした。
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翌日、千夏は昼前に学校行った。その時間なら校長先生が吹奏楽部の視察と激励に来てることを聞いたからだ。そして、今、目の前に校長先生と小林先生がある。
「あの……この前のコンサートの件ですけど……この資料見てください」
千夏は昨日WEBミーティングで決めた内容を文書でまとめ、企画書を校長先生と小林先生に提示した。そしてプレゼンが始まる…………。
「以上です。何かご質問はありますか?」
「うーん……プロのユニットとして出演するのは問題ないので、勅使河原さんが演奏すればその他の演奏者は問いません。でもアーカイブ配信がねぇ……」
「ではアーカイブ配信の収益の大半をボランティアに回すとかではどうでしょう?」
収益が上がる……とは思えない。格安の配信にしたとしても視聴者は精々自分と自分の家族、出演者の知り合いくらいだろう。それよりも「プロ」の体裁に拘っるならこの形がベストだろう。
「まあ、それなら……それと…………」
コンクールの件があったからだろう、千夏の要望はほぼ受け入れられた。公演は文化祭初日に1回、そして後夜祭の時間に1回、それぞれ45分。後夜祭の公演を撮影して、アーカイブ配信することになった。
文化祭での公演、これから様々な準備をしないとならない。




