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誕生日プレゼント

 千景は朝から買い物に出掛けていた。今日は待ちに待った……彩理と会える日である。そして、彩理の17歳の誕生日、千景にとって生まれて初めて出来た彼女の誕生日、でもある。バスターミナルのあるショッピングモールで買い物をして、直接病院へと向かう。バスターミナルから病院まで普通はバスで行くが、早く着いてしまうので、歩きで向かう。


 途中、いつものカフェがあるが立ち寄っていくのも中途半端なので、店の前を通り過ぎる。最近、千夏とよく会うが、「僕も青春してるなぁ……」と楽しい会話を思い返している。彩理曰く、女子は優しくされると心が動くと言っていたが、千夏はどうなのだろう……恐らく優しくされる事が多いからその様には感じないだろう、などと考えている。



 かなり早めに病院に着いた。千景は受付前のソファに座って、14時から始まる御見舞いの受付を待っていた。そして、彩理とのひと時を頭の中でシュミレーションしていた、細やかながらの二人きりの誕生日をだ。


「千景くん!」


「田中さん……」


 受付係の田中さんに声をかけられた。妄想でニヤニヤしていたと思われる自分をみられ、少し気恥ずかしい。


「いつも御見舞いご苦労様。ホントに彩理ちゃんは幸せ者ね(笑)」


「いえ、僕ができる事はやらないと……」


「偉いわねぇ…………はい、受付しといたわ。少し早いけど」


 そう言うと田中さんから受付証を受け取った。田中さん、どこか寂し気な眼差しを千景に向けている……プライベートで何かあったのであろうか……今にも泣きそうであるが、敢えてその事には触れずに受付を後にした。



 渡り廊下を抜けて病室へと向かう。今日は曇り、夏のピークは過ぎたのか、風が心地よくさえ感じる。あと何回、二人きり時間を過ごせるのだろう。退院してしまえばもうここには来ないだろうか……


(一期一会だな……)


 千景はその様に感じている。一期一会とは一生に一度きりの出逢いと意味ではない。そこに時間軸が加わり、「この日この時この場所で会うこと」を指している。要するに、彩理の17歳の誕生日にこうして病院で会う事が「一期一会」なのてある。




「こんにちは……」


「…………どうぞ……」


 病室に着くといつものようにノックをし、挨拶、静かに彩理の傍に腰掛ける。彩理は笑顔で出迎えてくれた。ガラスのような透き通った瞳と、花が咲いているかのような笑顔、心からいとおしく思える。


「彩理、綺麗だよ…………」


「…………なに…………それ(笑)」


 ここ数日で読破した恋愛のハウツー本、そこには「とりあえず褒めるべし」と書いてあったが、千景はそれを実践してみた。効果はソコソコである。


「彼女がいるって初めてだけど、愛を囁きなたくなるよ(笑)」


「……たくさん囁いて……(笑)」


 そう言うと、彩理は目を瞑ってしまった。気分が乗らないのであろうか……サプライズにはまだ早いと思ったが、千景は鞄から小さな包みを取り出した。


「彩理、今日はお誕生日だったよね。はい、プレゼント!」


 彩理が再度目を開け微笑む。もっとビックリしてほしい、とは思ったが……嬉しい気持ちで溢れた笑顔を浮かべている。


「…………ありがとう…………なにかしら…………」


「右手を出して……」


 千景はそっと千景の手を取った。そして、プレゼントの小さな箱を開け……彩理の小指にリングをはめた。シルバーのリングに申し訳程度の小さな翠のペリドットが付いている。「運命の絆」という意味だという。しかし、小指では少々大き過ぎるようである。千景は心の中で舌打ちした。


「…………ありがとう…………うれしい…………」


「ううん、初めて出来た彼女への誕プレだから、あまり分からなくて……サイズもごめん……でも気に入ってくれたなら嬉しい……」


 彩理はリングを見つめている。とても幸せそうなその仕草は千景の心をほっこりさせた。少し大きめでも彩理は喜んでくれている。


「千景さん…………指輪……こっちに付けて…………」


 彩理は左手を出した。千景は同じように小指にリングを付けようとした。


「千景さん…………そこじゃなくて…………(笑)」


 彩理は左手の薬指にリングを填めたいようだ……その意味に千景はドキッとする。そして、深呼吸をした。


「分かりました……。では、宣言します。私、河原千景は一生、彩理と寄り添える事を誓います」


「…………はい…………」


 彩理の口元は緩んでいる。そして彩理は左手を差し出す〜小指では大きかったリングが薬指にはピタリとはまった。


「2人だけで、秘密の結婚式だね(笑) 僕もうれしい」


「…………誓いの…………キスは?…………」


「いいの?」


 彩理は小さく頷いた。そして、目を閉じた。心が通じ合っているのが分かる……


 千景は彩理にキスをした。


 千景にとっては初めてのキス。甘くて目が眩みそうである。幸せだ!


 彩理は目を開けた。


「なんか…………疲れちゃった…………少し、寝てもいあかな…………ダーリン(笑)」


 そう言うと、彩理は千景の返事を聞くことなく目を閉じた。





 千景は天を翔んでいるような気持ちで街を歩いていた。初めての彼女、初めてのキス、初めての誓い……全てが夢のようである。もっとたくさん愛を語り合いたかったが、彩理がそのまま眠ってしまったのが残念でならない。また明日、改めて彩理に会いに行こう……。

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