表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/38

19通達

「もう来てるの? 早いわね、千夏! 気合入ってんじゃん!」


「そりゃ、全国大会だもん。気合いしか入らないわ! 次はもっと凄いのカマシちゃう(笑)」


 九州大会が終わり、3日間のオフが与えられた。そして今日、全国大会への準備がスタートする。千夏は誰よりも早く音楽室にいた。2番目に来たのはユーミであった。


「今年の全国大会は東京なんでしょ! 10月には合宿もあるし……私、幸せ!」


「学園祭もあるから、当面は部活中心ね。勉強は……2番のままでいいか(笑)」


「なんか嫌味ね(笑)」


 ユーミと話している間に続々と部員が集まっていく。全国大会への挑戦、皆が一丸となりつつある。


 予定より早く部員が集まったので、全国大会への第一歩がスタートした。




 練習にも熱が入る。午後からは軽く合奏練習、こちらは文化祭のバージョンで行われる。お弁当を済ませた千夏は、合奏練習の前に小林先生に呼ばれた。


「勅使河原さん、ちょっといいかしら?」


「はい」


 千夏は少し嫌な予感がした。いつもにこやかでお喋りな小林先生が真面目な表情で口を閉じている。校長室に着くまで会話らしい会話はせず、小林先生は校長室のドアを叩く。


「小林です」


「どうぞ!」


「失礼しまぁす」


 校長室の中には廣田校長だけがいた。千夏はソファーに座らされ、校長先生・小林先生と向き合う形でテーブルを囲んだ。校長先生は白髪混じりではあるが、ハツラツとしていて若々しい印象である。よく見ると、校長先生と小林先生は仲良し夫婦? いや、兄妹のようだ。校長先生が話す……


「勅使河原さん、実は残念な話なんだけど……」


 千夏の予感は的中した。


「はい…………」


「吹奏楽コンクール全国大会でプロの出場は認めない……って通達が昨夜あって……勅使河原さんが出場出来なくなってしまったんだよ」


「そんな……規定とかあったのですか?」


「今年から出来たルールなんだけど、プロと言ってもね、判別が難しいから該当者はいなかったんたけど……ほら、例えばSNSの配信者はどうなのか、とか、匿名だったらいいのかとか……」


「私……ステージに立ったの半年前ですけど、該当者なんですか?!」


 千夏は……いきなりの理不尽な通達に……何を言っても変わらないのは分かっているが、大きな声で怒りを露わにしてしまった。


「うーん、狙い撃ち…………かもね。吹奏楽コンクールの主催者と勅使河原さんのお父さん、色々あったって話もあるから。普通、こんな理不尽な判断はしないよ」


 短い時間であったが、これだけ充実した毎日を送っていたのに……言葉も出ない〜千夏は涙を堪えていた。


「吹奏楽部ではサックスメンバーのフォローを中心に活動してくれないだろうか……」


「…………」


「それと……これは私からの提案なのだが、今年の学園祭で、勅使河原さんの単独公演をしたらどうだろう? 部活の中で練習時間も確保できるし……もちろん、吹奏楽部のステージとは別のプログラムとして」


「勅使河原さん……どうかな?」


 千夏は必死に涙を堪えている。メンバーフォローだけで活動と言われた時は泣き出しそうになった、が、単独公演の話を聞いてどうにか涙を飲み込めた。


「…………考えてみます…………今日は、これから合奏練習だけなので、私このまま帰ります…………」


「私としては最大限の助力をするつもりだ。単独公演のこと、前向きに考えてほしい」


 千夏は校長室を後にした。心の中の想いがついに溢れ出してしまい……千夏は涙を流しながら廊下を走っていた。



△△△△△△△△△△△△△△△△△



「まったく、フザケてるわ!」


「そうだな…………」


 ユーミは怒っている。ここ数ヶ月、全国大会目指して千夏と練習してき事を考えると居ても立ってもいられない。


「大人の事情じゃない! どう考えてもおかしいわ」


「そうだな…………ところでユーミ、こんな所で僕と会ってて大丈夫か? 誰かに見つかったりしたら……」


「そんな事、どーでも良い! とにかく怒りが収まらない! あーまったく…………」


 目の前には千景がいる。千景がよく通っているというカフェで待ち合わせし、早々に怒りが爆発している。ちなみに千景は彩理の御見舞いがオフだそうだ。千景は愚痴や怒りを聞いてもらうには恰好の同級生、ユーミにとってはその為の存在と言っても良い。


「まあ、彩理とも会えるようになったし、クラスメイトに見られた所で御見舞いの報告ってことにすればいいか」


「千景、問題にしてる事が違うわ! 今は千夏の事を話してるの!」


「まあまあユーミ落ち着いてよ。僕も色々調べたんだけど、栗原千夏ってジャズ界では有名らしいよ 父親の影響は大きいと思うけど」


「それなら最初から参加できない様にすればいいじゃないっ! あー腹立つ!」


「千夏って転校してきてから色々あるよなぁ〜」


 ユーミはその言葉を見逃さなかった。


「千景! あなた千夏って言わなかった? 親しくもないのに、名前で呼ぶのは……ちょっとキモい……」


「あら…………実は……」


 千景は千夏とのやり取りを話した。このカフェで偶然会った時に、名前で呼んで、と言われたらしい。そして、その偶然は2度もあり、普通に話せる間柄になっている……と。


「まあいいわ、彩理が学校来れば色々と風向き変わるだろうし。ところでさ、彩理っていつ退院するの?」


「分からない…………近日中だと思う…………」


「千景って本当に阿呆ね。なんで大切な事を聞かないのっ! 彩理の事心配してる子もたくさんいるんだから!」


 千景は底知れぬいいヤツではある。が、気が利かないし鈍感なのだ。小さい頃から変わっていない〜中学生の頃、千景の底知れない優しさを知り、心が動いたこともあるユーミだが、ユーミに「好き」と言わせるに至らなかったのは、その鈍感さの為である。


「明後日聞いてみるよ(笑) ホントに抜けてるよね、自分でも呆れるわ(笑)」


 ユーミはその後千景のその性格を含めて、千景に沢山の愚痴を言った。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ