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18告白

 千景は病室にいた。彩理はベッドの上にいてテーブルを出して教科書とノートを開いている。千景はベッド近くの椅子に座って、ちょうど斜めに向かい合うように座っている。


「じゃ、少し休憩しよっか」


「うん…………」


 千景はそう言うと英語の教科書を閉じた。もう8月も半ば、世間的にはお盆の時期である。セミの鳴き声が煩い。


「千景……いつもありがとう。心から感謝してる」


「ん? 何だよいきなり……僕が勝手にやってることたから……」


 彩理はいつもと雰囲気が違う。連日の勉強で疲れてしまったのであろうか。


「だって……」


「今日は疲れちゃったのかな。今日の勉強はこれくらいにしておくか」


「ありがとう。今日はあまり気分が乗らなくて……ね、千景に質問していいかな…………」


 いつもよりも静かな口調で彩理は聞いてきた。


「いいよ。その質問って黙秘はあり?」


「なるべくナシで(笑)」


 千景は頷く。そして彩理が口を開いた。


「千景って、みんなに優しいの?」


「僕が優しい? そうかなぁ……すべき事してるだけだよ」


「私じゃなくても同じことをしたの?」


「すべき事ならね。でも、彩理と仲良くなりたいとか、下心はあったかも 彩理は可愛いし(笑)」


「下心って……千景は私のことそう見てたんだ。勉強教えながらエッチな目で(笑)」


「いや違う……と完全否定は出来ないけど……その辺は黙秘で(笑)」


 彩理からこんな話が出てくるとは意外であった。いつも大人しく笑うことも少ない彩理の瞳が……何かを言いたげに千景を見つめていた。


「良かった……千景にとって私って、少し特別な……存在になったのかな?」


「そりゃ……」


「黙秘なしね!」


「えーと、每日彩理と会うのが楽しみだし。御見舞いって形だけど、可愛い女の子と2人きり。意識はするよ」


「嬉しい…………」


 そう言うと彩理は瞳にを閉じた。今まで煩かったセミの鳴き声も千景には聞こえない……時間が止まったような気がした〜千景は話題を変えた。



「彩理は将来の夢とかあるの?」


「うーん。たくさんあったけど、今は一つだけ、かな…………」


「夢は2つくらいあったほうがいいって、中国の偉い先生が言ってたよ(笑)」


「ううん。私は……一つだけ……でいいかな お嫁さんになりたいの…………」


「へえー、意外と家庭的というか、平凡というか……」


「意外って何よ(笑)」


「もっとさ、彩理ならアイドルになりたいとかだと思った」


「それは……無理かな……。ねぇ、千景さぁ、責任取ってくれない?」


 千景はドキッとした。やはり彩理の心のどこかで千景に対しての恨みがあると思ったからだ……咄嗟な事で弁明しようにも出来ない。


「あれ? 違うわよ……責任って、私にたくさんたくさん優しくしてくれた責任よ(笑) あれだけ優しくされたら……女の子なら誰だって……」


 千景は理解が追いつかない。


「優しくしたら……迷惑?」


「……バカ」


 ベッドにいる彩理は布団を被ってしまった。気分を損ねてしまったようである。彩理が入院してる理由の一端は自分あるのだから、やはり責任は果たす義務がある…………


「僕に取れる責任なら何でも取るよ!」


「ほんと?」


 彩理は布団から少しだけ顔を出した。


「なら…………私と…………結婚して…………」


「え?」


「だって…………あんなに優しくされたら…………」


 千景はここにきて、やっと彩理の気持ちを理解できた。まさか、自分が異性から愛されているとは……


「僕なんか……何の取り柄もないし、容姿も普通以下だし、彩理とは不釣り合い…………」


「千景は自分の事分かってない……じゃなくて、女の子の事知らないのね。あんなに優しくされたら、誰だって千景の事好きになるに決まってんじゃん!」


「そうなのかな…………」


 千景は我に返って考え始める……彩理はまた布団を被ってしまった。蝉の声が煩く感じる…………千景は思い切って話を切り出した。


「彩理、ごめんなさい。彩理に酷いことを言わせてしまったね……だから……さっきの言葉、一度撤回してほしい……」


「こっちこそ急にごめん…………」


「じゃ、僕の方から改めて…………。彩理さん、僕と結婚まで繋がるような交際をしてくださいっ! 彩理の気持ちが言われるまで分からないくらい、鈍感な僕で良ければ……僕は彩理の気持ちに応えたい!」


「責任…………取ってくれるの?」


「僕はまだ16歳だし、生活力もないから……今ここで法律的に結婚するのは出来ないけど、もし、彩理がずっと僕のことを嫌いにならなければ……必ず結婚します」


「本当に?」


「誓います。彩理さん、左手を出して…………」


 千景は彩理の手を取り……手の甲に誓いのキスをした。彩理は布団を被ったままなので、表情は分からない。でも、彩理の左手は震えていた。その左手を、千景はいつまでも両手で握りしめていた。


△△△△△△△△△△△△△△△


 千景は踊り出したいくらい幸せな気持ちを抑えながら、病院から自宅へと戻っている。母親以外の異性に愛されるなんて、告白されるなんて初めての事。彩理の左手にキスをした時は、心と心が触れ合ったような感覚を覚えた。この事は2人だけの内緒にしよう……という事になった。お盆の後半は彩理のところに親戚が御見舞いに来るので、彩理とは3日間も会えないらしい。だが、次回に御見舞いに行く8月18日は彩理の17歳の誕生日だと知っている。


(何をプレゼントしよう…………)


 幸せな気持ちの中、サプライズの誕生日プレゼントの事を考えると心躍る。千景にもやっと春が来たのである。

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