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17父と娘

 約束の日が来てしまった。千夏はパパに何を話したらいいのか、まとめられていない。部活は16時に終わり、17時にパパとの話し合いが始まる。待ち合わせ場所は……千夏はいつもの、お気に入りのカフェを指定した。


 今日の事は誰にも伝えていない。晴香さんに相談しようとも考えたが、千夏は晴香さんの様に大人な対応は出来ないであろう〜千夏なりに答えを出してそれを伝えよう、と決めたのである。今日の午後は雷雨の予想も出ていたので、千夏は早めにカフェに向かった。今は、雨こそ降ってないが厚い雲が空を覆っている。まるで千夏の今の心境を代弁しているようだ。


「千夏…………」


 カフェに入ると声がかかった。待ち合わせ時間からはまだ30分以上あると言うのに……パパが先に来ていた。千夏は少し驚いたが、それ以上の感情は湧き上がらない。


「パパ、早い……」


「全然。千夏、今日はパパに時間くれてありがとう」


 千夏は些細な質問にも答えを探すようになっている。どうもいつもの調子とは違う、しかし、もう戦いが始まってしまったのである。どうにか調子を取り戻そうと……千夏はいつものウルトラスーパーデラックスパフェシリーズを頼んだ……フレーバーはスイカになっていた。




「千夏……スイカ、好きだったっけ…………」


「いや、別に…………ここのパフェが好きなの」


「そっか……しかし凄い量だな」


「…………でなに?」


 千夏は普通の父娘の会話を拒否した。会話をすると怒りとは別の感情に支配されそうになるからだ。


「そうだな……千夏。本当に申し訳ないと思ってる、急にこんな事になって」


「なによ…………今更」


「ちゃんと説明したかった。そして千夏に謝りたかった。パパの身勝手で、千夏やママを傷付けてしまい……」


「分かった。私もママと一緒、絶対にパパを許さない。あ、違った、これからは栗原さんって呼ぶわ 考えてみればパパでも何でもないんだから」


 言いたいことはこれでは無い……だが怒りの感情が堰を切ったように溢れ出していく。駄目だ……このままだと、収まりがつかなくなる。千夏はそう思い、席を立った。


「待ってくれ…………千夏になんと呼ばれようともいい、恨んでもらって構わない…………でも一つだけ伝えたい事がある…………」


「私もう帰るから言いたいことあるならとっとと言って!」


「分かった……千夏。サックスは続けてほしい。音楽には罪が無い、罪があるのはパパだから。それと……どんなに千夏がパパを嫌っても…………千夏のパパであり続けたい……またいつか、娘とサックスを吹きたい…………」


 千夏はその言葉聞いてパパに背を向けた。とても優しかったパパ、たくさんサックスを教えてくれたパパ、偉大で千夏の自慢だったパパ…………パパにサヨナラをした。


 千夏は気付くとカフェを飛び出していた。外は大雨、だが構わず走った。雨が容赦なく千夏に降り注いだが……これなら涙がわからない。心の中でサヨナラ、を何度も繰り返しながら、千夏は走った。



△△△△△△△△△△△△△△△



 千夏は街の大きなアーケードの端に佇んていた。ただ悲しかった……涙は止まらない。豪雨のせいか、人はまばらである。


「千夏…………」


 誰かが千夏の名前を呼んだ。顔を上げると……晴香さんがいた。


「晴香さん…………なんで、ここ居るんですか」


 千夏は涙を堪えなから晴香さんに答える。平静を装いたかったが……晴香さんにはバレバレである。


「実は……千夏にGPS付けてて……」


「え?」


「嘘よ(笑) 千夏が走っていくの見かけたの。何かあった? もしや、千夏が誰かに振られたとか?」


「まあ…………サヨナラしてきたの」


「そっか! なによびしょ濡れじゃない。ブラ丸見えよ(笑)」


 千夏はハッとした。何も考えずにいた自分が恥ずかしい。


「とりあえず、ウチ行こっか! このままだと風引くよ」


 千夏は晴香さんに支えられながら晴香さんの自宅へと向かった。


△△△△△△△△△△△△△△△△


「千夏、落ち着いた? はい、ドクダミ茶 身体温まるわよ」


「晴香さん、ありがとうございます」


 千夏は晴香さんの部屋にいる。シャワーを借りて、晴香さんの部屋着を借りて、小さなソファーに座っていた。晴香さんの部屋にはフィギュアがたくさん飾ってある。腐女子が集める系のフィギュアである。


「何?、フィギュア、珍しい?」


「いえ……晴香さん、BL好きなんですか?」


「うーん、BLが好きって訳じゃないかな。恋愛が好きなの……恋愛だったら別に男とか女とか関係なく好き! 別に動物でもいいかも(笑)」


 よく見ると様々なジャンルのフィギュアが飾ってある。


「晴香さんって面白いです」


「そう? 千夏、やっと落ち着いてきたわね……何があったの? まあ見当は付いてるけど……」


「知ってました?」


「痴情のもつれね…………あー、嘘嘘! 多分、お父さんの事とかかな? 私ね、栗原悠介さんが千夏のお父さんって知ってたから、色々調べたの…………」


 晴香さんは千夏にスマホの画面を見せた。そこには…………ある記事が写っていた。


〜〜父親譲りのテクニック! 名門カトレアの妖精 栗原千夏特集〜


「それ、私です。2月くらいにプロデビューした時の……その1ヶ月後、私とママはアイツに捨てられちゃったけど……」


「そう言うことね……」


 千夏は晴香さんにここ数ヶ月の家族の揉め事を歯さんに話した。パパに新しい想い人が出来、今に至っていること。大好きだったからそこ心が痛く、パパが許せないこと。


「なるほどね〜。まあ、男って下半身は別人格らしいよ。これウチのママの受け売りだけどね(笑) 恋愛の超ベテラン、バツ3のママが言うんだから間違いない」


「そう…………かな」


「完璧な人なんてそう居るもんじゃないから。千夏だってそうでしょ! 超可愛いしサックスはプロ級だけどさ…………」


「? ? ? ?」


「私よりも胸が小さい…………なーんてね(笑)」


「それ、少しだけ傷つきます(笑)」


 千夏は晴香さんの部屋着が大きめで、晴香さんには胸の谷間が丸見えだったことに気が付いた。そして、胸元を両手で隠した。どうでもいい会話が、千夏にとって1番の慰めになっていた。

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