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毎日の日課16

「では行ってきます!」


「はいはい。島さんによろしくねっ!」


 初めて島さん御見舞いが実現した4日前から、千景は毎日彩理のお見舞いに行っている。母さんにはクラスを代表して御見舞いに行っている、とだけ伝えている〜数々の学校での出来事を伝えても心労が増すだけ……千景は現状を母さんには話していない。



 お見舞いはいつも14時以降の受付なので、附属病院に向かう前に千景は街にあるカフェに行くことがルーティンになっている。千夏と楽しいひと時過ごした、例のカフェである。千夏はいつものようにラージのカフェラテを注文する。そして、授業で使っているノートをひっくり返す。千景は単にお見舞いをしている訳では無い、今までの授業の内容をまとめ、ノートを彩理に渡し、分からない箇所を解説する、プチ家庭教師を買って出たのである。


 思い出の、窓際の席に座り彩理の為にノートのまとめを開始した。


 どれくらい経ったのだろう、時計をみるともう13時を過ぎていた。集中して1時間弱、ノートのまとめをしていたことになる。一度集中を解き、周囲を見渡すと……なんと反対側の席に千夏が座っていて……千景に気付かずボーッとしている、何か深く考え込んでたが……一瞬千夏と目が合った。そして千景方に向かって歩き出し、声をかけてくる。


「あら、千景 奇遇ね! 勉強してるの? さすが学年1位」


「いや、これは…………えーと、何でもない。ちょっと知り合いの家庭教師頼まれてて……その準備だよ」


「ふうーん そう」


 いつもと雰囲気が違う。


「千夏、おめでとう。次は九州大会だってね」


「ありがとう、そっか、ユーミから聞いたのね」


「そそ。ところで、今日って練習じゃないの?」


「うん、でも色々あって、早退してきた。あ、でも体調悪いとかじゃなくて……」


「ズル休みだね(笑)」


「まあね(笑)」


 何か悩み事があるのだろうか、いつもようなキラキラの部分が失われている。だが、ため息が……可愛い!


「千景って親と仲いい?」


「うーん、まあ良い方だと思う。喧嘩することとかないし。片親だしさ」


「そうなの?」


「うん、ウチの母さん、若い頃に離婚してるから……」


「離婚ばっかね(笑)」


 千夏の話し方からすると……悩み事は家族のことなのだろう。冷めた笑いも……可愛い。


「知ってる? 熊本県って離婚率がすごく高いんだって。県民性なのかな……」


「そうなんだ。部活の先輩もパパが3人もいるって言ってたし……そんなもんね ウチもだけど……」


「千夏にも3人パパいるの?」


「やめてよ! ママが離婚してるってこと。パパ3人って……私がパパ活してるみたいじゃん(笑)」


 千夏の表情が明るくなってきた……やはり千夏は笑顔が似合う。その表情全てにおいて魅力的な千夏は、今後どんな人生を歩むのだろう、どんな人と結婚して……どんな幸せな人生を歩むのであろうか……その一幕に千景自身が存在している筈はないが、つい考えてしまう。


「千夏がパパ活したら、3人じゃ収まらないよ(笑)」


「そっかなぁ…………(笑)」


 千景は思い出の窓際の席で再び千夏と楽しく会話をした〜それは彩理の御見舞いの時間になるまで続いたのである。



△△△△△△△△△△△△



 カフェを出た千景は病院に向かった。受付を済ませて病室へ〜北棟は受付から向かうと渡り廊下を抜けていくが、一度外に出ることになる。外に出た瞬間、夏の日差しと熱風を浴びるが、彩理と過ごす時間を思うと気にはならない。足早に渡り廊下を抜けて北棟、エレベーターで5階に向かう。


 彩理の病室はエレベーターを降りて一番奥になる。千景はノックをした。


「こんにちは〜」


「千景くん? 入って!」


 彩理はベッドの上にいた。そして、すぐ病室の異変に気付いた〜いつもは閉め切ってあるカーテンが開いているのだ。日差しはベッドには届いていない、だが、明るい光が彩理を照らしている。


「あれ? カーテン…………」


「うん、開けてみた。いつも閉めてあるから」


 透き通った肌、ブロンドヘアーに近い白いロングの髪が明るい病室の中で輝いている。そして口元に笑みを浮かべた様は、まるで名画の1枚のような構図である。千景はその美しさに立ちすくんだ……しかし、その名画は、どこか儚げで、自然と涙が頬を伝う。


「きれい…………」


「ん? なに? やだぁ……口説いてんの(笑)」


 彩理が明るい口調で話しかけてくる〜千景が感動のあまり涙を流しているのは気づいていない様だ。


「あ、いや、彩理がキラキラしてるなって。昨日までは部屋が暗かったから、分からなかった」


「なによ…………(笑) 千景って恥ずかしい事平気で言えるタイプだったのね? 意外〜(笑)」


「あ、ごめん、気悪くした?」


「ううん…………嬉しい…………」


 彩理の瞳が千景を見つめている。千景は目を逸らせない〜吸い込まれそうである。彩理は何かを言おうとしている〜一瞬、彩理は何かを思い出したかの様に我に返り、目を逸らした。


「千景……涙出てる……………ごめん、アレルギーかなぁ? この病室ハウスダストが凄くて(笑)」


「…………そうかも…………でも、大丈夫!」


「ホントに? ならいいけど……そろそろ勉強しよっか!」


「そうだね!」


 千景は彩理にノートを渡した。ノートは5冊、彩理は数学Bのノートを開き読み始める。先程の儚げで悲しい気持ち……あれはは何だったのであろうか。

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