私の未来の旦那様
あれから数日、私は色んな未来を視ました。
パーティー会場で私を突き飛ばし足蹴にしながら断罪しやがりましたのは、騎士団長のご子息、アルカード・ドルトフ様。
暴力男…ゴミクズ以下ですね。
ポンコツクソ野郎といい勝負です。
却下却下。
他にも愛が多いタチでね?
と言いながら何人か愛人作るかも宣言をしてきた侯爵子息やら、マナリア嬢と駆け落ちしていいか聞いて来た剛の者もいましたね。
もれなく却下です。
なんですかね…私はゴミ系男子と絡む呪いにでも掛けられてるんでしょうか?
却下却下として行き、今日は7日目…釣書は最後の1冊。
私は横目にそれを見ながら、「はぁ…」と、ため息混じりに…未来を知るために水面に顔を浸けた。
コポッ…コポポ…コポポ…
…
………
………………
「エリーシャ、聞きたい事がある。」
あれ、なんだろう……?ドレス…着てない!
この服は…制服?
あと…ここはどこだろう?どこかの…部屋?
執務室みたいな部屋だった。
そんな部屋にテーブルを挟んでソファーに座っている。
キョロキョロする私を見つめるのは、サラリとした長髪を1本に纏め肩から流す綺麗な男性だった。薄紫色の髪がとても美しいし、知的なお顔もとても整っている──
「君は…婚約する時に、これを私にくれたね?そして言った、「貴方が私にコレの意味を訊ねたくなった、その時に全てをお話します」と。貴女は…神様かなんかなのかい?エリーシャ…?」
彼がテーブルの上に置いたのは1つの報告書だった。
【マナリア・ミゼット嬢に関する報告書】
あぁ、まだ出来てないソレを私は貴方に渡したんですね。
そして貴方はちゃんと中身を確認してくれた。
そして私に何故そんなものを渡したのかを聞きたくなる状況に至った…そうなのですね?
何人もいた私の旦那様候補達…
私は全ての人に報告書を渡しただろう。
でも誰一人として私に問いただしたりせず、その報告書を…内容を忘れてしまった。
…この人を除いて。
「あぁ…貴方が旦那様なんですね…」
ザバァ………。
私はゆっくりとタオルを取り顔を拭いた。
やっと、やっと見つけた。
私の…旦那様。
最後の釣書を手に取り、開く。
ブラッドリー・チェスター 公爵家次男 14歳
宰相である叔父を手伝うため宰相補佐官を目指している…
この人がいい。
この人が私の旦那様だ。
唯一、私をいきなり責めず、事情を聞こうとした人。
そして報告書を出てきた人…
「お嬢様ー?失礼いたします。」
ノックの後にマーサの声がした。私が入室を許可すると、マーサはこう続ける。
「旦那様から言伝を承りました。頼まれていた謎の報告書が届いたから後で取りに来るようにとの事です。」
私は報告書を取りにいき、父に選び終わったことを告げた。
是非ともこの方とお話を進めて欲しいとお願いする。
「チェスター家の次男か…とても聡明なご子息だと聞いた。エリーシャ、この人がいいんだね?…釣書の中には第3王子殿下も居たと思うが…確認したのだよね?」
「確認しております。全ての釣書を見て判断致しました。…王族の方から望まれるなど光栄ではありますが…私には正直、荷が重いです。それに私には華やかな王族との婚姻は似合いません。私はこれからも知識を高め、この地、領民達が豊かになるよう学んで行きたいと考えているのです。社交に力を入れるよりも、沢山学び、それをこの地に返したいのです。王族との婚姻となれば、社交も積極的にこなさねばならぬでしょう。知の探求者となる私には不相応…殿下にもご迷惑をかけてしまいます。」
「エリーシャ…」
私はこれからも未来を視る。
そして視た未来を回避する為に、沢山の言い訳をしなくてはならない。
より的確によりスムーズに。
その為に私は学ぶ事を止めたらダメなのだ。
「わかったよ。ただ、王からのご要望であるこのお話は簡単には無しにできない。何回か殿下とも会うことになると思うが大丈夫かい?」
「わかっております。殿下と…お話をさせてください。話せばわかってくださると思います。」
思いっきり地味な格好で登場して、あのカランコロンと鳴る頭では理解出来ないようなお話を沢山しよう。
私の予想では直ぐに音を上げるはず。
その際に甘い言葉で惑わそう。
真実の愛を見つけるだろう殿下には私なんて似合わないってね?
「じゃあ、チェスター公爵家に手紙を書こう…いい返事をしたいから、少し時間をくれないか?ってね。」
「お父様!!ありがとうございます!」
「ははっそんなに嬉しいか。なんだか妬いてしまうな。」
「ふふふっ。お父様?今はお父様が1番大好きですから!」
「調子の良い奴め。まぁいい、娘の喜ぶ顔を見て私も嬉しいよ。」
私はお父様に再度礼を述べると、逸る気持ちを抑えて、執務室を後にした。
※※※※
あれから、月日が過ぎた。
王家からの希望によって、何度かフィルメル第3王子と面会したが、案の定私と彼は相性が良くなかった。
会えば「君にはもっと華やかな色のドレスが似合うと思うよ」なんて言ってくる。
つまり地味で見栄え悪いからどうにかしてこいって遠回しに言ってるんですね?
まぁワザとこんな格好を、しているってのもありますけどね?
そんな風に言うなら自分好みのドレスでも身銭切って見繕ってくれてもいいんですよ!?
でもそれはしないんですよね?
とまぁ終始こんな感じでして。
私が策を講じる前に向こうから断りの、ご連絡をしてきてくれた。
曰く「エリーシャ嬢には自分よりもっと似合う相手がいる」とのことだ。
けっ!べーっだ!
二度と近寄るなよ!ポンコツクソ野郎!
そんなこんなを乗り越えて…私は今日、この席にいる。
いい風が吹き、暖かな光が差すこの庭園で
紅茶をゆっくりと飲む。
目の前の人を見つめるとフッと笑いながら、彼はよく通る穏やかな声音で話し始めた。
「正直、私が選ばれるとは思わなかったんですよ?リヒテンベルクの賢姫、リヒテンベルクの秘宝…なんて呼ばれる貴女には多数の縁談が来ていると知ってましたから。王族からの縁談も来ていたと伺っております。でも、貴女は…リヒテンベルク家からは、『断りにくい縁談が来ているが円満に話し合い、落ち着かせるつもりでいる。貴家と良縁を繋げる為にも、返事をする時間をくれないか』と。」
そう言うと彼は優雅にカップを手にとり、一口お茶を飲む。
その仕草は完璧で、さすが14歳にして叔父の宰相を手伝いたいからと王宮に出入りしているだけはある。
実力は、折り紙つき。
貴族学校を卒業したら宰相補佐官としての勤務が決まっているとか。
うーん、私みたいな偽装天才児とは訳が違う。
「『娘が希望しているのは、貴家のブラッドリー殿である。娘の希望に沿う様にしたい、時間が欲しい』そんな内容の手紙が来たと…父は驚いていましたよ。王家との縁談を蹴ってまで…私を望むのかとね。王家からの縁談…第3王子殿下でしょうか。あの方はとても見目麗しい方だと思うのですが…貴女はなんで私を選んでくれたのですかね?」
そんなの理由なんてひとつしかない。
「貴方が…私の旦那様だと…そう思ったからですわ。」
「うーん…答えになっていませんねぇ?」
「いいえ、私は答えを知っているのです。だから私は貴方を選んだ。貴方が…私が貴方を選んだ本当の理由を知るのは少し先の事になるでしょう。」
私は彼に1つの報告書を手渡した。
「これは?」
「さあ、なんでしょうね?私にもわかりません。ただ私は知っているのです。貴方がこの報告書を読み…数年後、私に問いただすでしょう。」
私は知っている。ねぇ?未来の旦那様…
「貴方が私にコレの意味を訊ねたくなった、その時に全てをお話します。」