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呪われた未来を回避する方法について

私には特技がある。

とっても不思議な特技が。


「お嬢様、おはようございます。今日は一段と冷えますよ?あの…それでもコレでよろしいのですか?」


侍女のマーサは確かめるように、そっとそれを手で指した。


「いいのよ、それで。ありがとう、でも冷えるから少し温かい湯船にも浸かりたいわ。頼めるかしら?」


「承知いたしました。準備して参ります。」



マーサを準備に向かわせ、私はソレに目を向ける。


そこにあるのは顔を洗うために水が入れてある桶だ。

冷水が入っている。

冬の水は凍える程冷たいが、仕方ない。


私には特技がある。

誰にも言えない、ちょっとした特技が。

桶に顔をつけ、コポリ、コポリと息を出す。


全ての空気を出して……ゆっくり目を開くとそこに……


ーお風呂の準備で慌てたマーサが、滑って転んで腰を激しく打ち付ける様が見えたー


って私が珍しく朝からお風呂に入りたいなんて言ったからじゃない!

急いで水から顔を上げると、タオルを手に取り乱雑に顔を拭きながら浴室に向かう。


間に合うか…?!


「マーサ!大丈夫ですか?!」


「えっ?はい、お嬢様!今行きますね!」


バタバタと準備を切り上げる音がする。

もしかして私が急がせたから……!?


「マーサ、いいのよ!急がなくてもーー」



「えっっ?お嬢様……っきゃぁあ!!」



私は浴室に滑り込むと、尻もちを搗く前の彼女の手をすんでのところで掴まえて引っ張り上げた。


「はーっ………お嬢様、ありがとうございます。やだわここ濡れて…私滑ってしまったのね。」


「貴女が無事ならいいのよ、本当に急いでないのだから、怪我をしないようにね?」


「はい、お嬢様。助けて頂きありがとうございました」



※※※※※※※


私には特技がある。

朝起きぬけに、顔を洗う冷水に顔を浸し、息を全て吐き出したあとに目を開くとーー未来が見えるのだ。


その未来は近い未来から遠い未来まで様々で、特に決まりなくランダムで映しだされる。

私のこの謎の特技は誰にも言っていない。

特殊なものだと理解しているし、信じて貰えるかもわからない。


例え信じて貰えたとして、利用される為に監禁されたり、下手なことを知られると困る!で殺害されたりでもしたら……たまったもんじゃない。


この特技に気がついたのは幼い頃だったが、変なとこだけ聡い私は、親にも言うのをやめた。


誰にも言わない…その判断を瞬時に下した当時の私を褒め倒してやりたい。偉い、偉いぞ私。


秘密の特技はとても便利で、事件や事故を未然に防ぐことがたまにできる。

全てではない。

例えば今日の浴室での事故くらいなら私一人でもどうにかなるけどーー


8年前にあった大型台風の後の橋の崩落事故は…知っていてもどうにもならなかった。

あの事故でこのリヒテンベルク伯爵家の関係者も数人亡くなった。


私はまだ6歳で、発言力もなければ知恵もなく……あの時程悔しかったことは無い。


知っていた、知っていたのに助けられなかった。

エントランスに駆け込む人々、亡くなったと連絡が入り泣き出す者たち。


私はこの涙を消すことが出来たのに……そう思うと悔しくて悲しくて、力のない自分がちっぽけでたまらなかった。

私は、変わりたい。

こんなのはもう嫌なのだ!


そこから私は力だけに頼るのをやめた。


知識をつけ瞬時に回避できるように、皆に納得できるような言い訳ができるように訓練をしはじめた。


成果が出たのは2年後の山道の土砂災害だ。

長雨の2日後に起きる土砂災害は被害が甚大で…

この事故では、丁度我が家に遊びに来ていた祖父が帰宅の際に巻き込まれ…天に召される予定となっていた。

大好きな祖父を災害で失う訳にはいかない!


私はあの時、神がかった説得をした気がする。


曰く雨が降ったあとは地盤が緩んで山道などは土砂が崩れてきて危険があるとのこと。

祖父が帰りに通るアルバナ峠は普段からカラカラと上から小石が落ちてきており、危険なのではないかと思うこと。

極めつけに昨日瓦礫に押しつぶされる夢を見た、正夢になるかもしれない!

お願いだから5日ほど滞在を伸ばして土砂災害が起きないことを確かめてから帰って欲しい!

そんな話を本を携え力説した。

地質学の本を読む8歳児は変に映ったかもしれないが、ソースがなければ信用されないのが世の常だ。


ここ!ここに書いてあるのですよ!と小さい手でぺちぺちと該当箇所を差しながら両親と祖父にそれはもう熱く語ったのだ。

普段大人しい一人娘の変わりように、大人達は思うところがあったのか「エリーシャがそんなに言うなら、調べてみようか?」と私の妄言に近い話を信じて調査してくれたのだ!


すると……


「エリーシャ!お前は天才かもしれん!!」

と祖父は声高らかに褒めちぎった。

どうやら心配なら調べようと、仲良くしていた飲み仲間である地学に詳しい者を連れてその峠まで行ってみてくれたらしい。

峠の横の山からは何やらカラカラと小石が落ち山から変な異音が聴こえ……

「エリーシャ、お前のことを褒めておったぞ!8歳の女の子が遠い場所から異変に気がついたと!それもちゃんと知識を元に推察したとは信じられないと大絶賛じゃ!わはははは!」

祖父は私を持ち上げクルクルと回しながら

「天才だ!」と嬉しそうに言っていた。


アルバナ峠は直ぐに閉鎖され危険が去るまで通行禁止の御触が出た。

土砂が峠の道を消し飛ばしたのは、その1日後だった。

私は自然災害を事前に予測した天才児としてちょっとした話題になったが、天才でも何でもない…タダの特殊技能に底上げされたニセの天才がバレたら大変だと思い、恥ずかしいからそっとしておいて!と両親達にお願いし、決してひけらかしたりはしなかった。


祖父やあの峠を利用した人が亡くならなくてよかった…それだけで十分だ。

それ以上は何も要らない。

それよりも…上手く説得出来たことに安心したのと、勉強しておいて良かった!とそう思った。


やはり「夢でみて怖くなっちゃった」だけでは弱いのだ。


裏付けされる理由がなければ人は動かないんだと!


あれから数年、私は今も勉強を続けている。

言い訳のレパートリーを増やすためには知識が必要だからだ。


助けられることが多くなってきて自信につながる!


助ける度に「お嬢様は天才だ!」なんて言われてしまい、実はカンニング野郎なんです……なんて言えるわけもなく、心苦しいが仕方ない。


日々、色んなことを視る。


足の小指を打ち付けたなーんて可愛いものから、馬車の事故や野盗による襲撃、自然災害まで。


そういえば……そういえば私、自分が絡んだことだけは見た事なかったなぁ……なんてフッと思ったそんな矢先だった。



……

……………

…………………


「エリーシャ、君との婚約は無かったことにして欲しい。僕は最愛を見つけてしまったんだ。それにマナリアから聞いたよ。君、彼女に嫌がらせしてたって……いくら僕の気持ちが手に入らないからって他者に当たるなんて……最低だとは思わないのかい?」


!?!???

なっっ何これ!何よこれ!??

「エリーシャ様……私っ……私は……」

「いいよ、マナリア。言わなくていい。君の気持ちは知ってるから。君はこんなエリーシャを許そうとしているんだね?」

「だって……!だってクラウス様ぁ……」

「マナリア……」



バッシャアーーー!ゴロン!ガラン!!




私はびっくりして勢い良く顔を上げた。

そしてその拍子に桶が音を立てて転がり落ちる。


「おっ、お嬢様!?どういたしました?!」

侍女のマーサがドアの向こうで声をあげる。

モーニングティーを運んできてくれてたのだろう、ガチャガチャとカートをどかしながらドアを勢い良く開けた。


「マーサ……あの、なんでもないのよ。ちょっと間違えて、落としてしまったの。ごめんなさいね。」


「はぁ〜びっくりしましたよ。何事かと…落としてしまわれたのですね。片付けておくので、お召し物をお着替えください。朝食は今日も皆様とダイニングでよろしいですか?」


「あっ、あの……今日は体調が悪いの……部屋で軽い食事で済ませたいのだけど……いいかしら?」


「あら、大丈夫ですか?お医者様をお呼びいたしましょうか?」


「いえ、大丈夫だから……ゆっくり休んでたら落ち着くと思うの。」


「わかりました。ちょっとでも悪くなりましたらお医者様を呼びますので、お申し付けくださいね?」

「えぇ、わかったわマーサ。」


軽食の準備をしてくると言い、マーサはモーニングティーを置いて出ていった。


カップを取る手が震える。

初めて見る……自分主体の未来だった。

見知らぬ男女に責められる…私?クラウスとマナリアという謎の男女。


婚約とか言ってたわ……婚約?

わっ私とあの謎のクラウスなる人が??

私は今年14歳。

来年には王都の貴族学校に入学する。

確かに、最近お父様から「そろそろエリーシャにも将来の伴侶を考えねばな」なんて言ってらしたけど……


え?その相手があのクラウスって方になるの?!

そういうことなの??やだ!絶対に嫌だわ!


どういったシチュエーションなのか不明だけど、私はドレスを着ていたし、相手の男女も綺麗に着飾っていた。

あんな格好で話すなんてパーティー以外考えられない。

ということは人目のあるパーティーで私は聴衆の目に晒されながら、婚約破棄を突きつけられるってこと!?


冗談じゃないわ!!


私はチェストの中にしまってあるノートを取り出して記載した。


3月2日

クラウスなる人物に私が婚約破棄される先を視る。クラウスなる人物はマナリアなる女性と懇意になり、心変わりした後に聴衆の中私に婚約破棄を突きつける。


ほんと最低な未来だわ。

なんとしてもクラウス某とは婚約するようなことにならないよう動かないと……うーん。


その日、私は1日悩み続けた。

案外自分の事だとすっぱり方向性が決まらないものなのだな……なんて寝しなにフッとそう思った。




翌日の朝、私は少し緊張しながら顔を洗う…。

コポッコポポ……コポポポ……

息を吐き出し、目を……ゆっくりと開けるー



……

…………

……………………



「エリーシャ・リヒテンベルク伯爵令嬢!君とは今日をもって婚約を破棄させて頂きたい!私には愛しい人が出来てしまった……それに君は私の愛しのマナリアを陰で虐めていたそうだね!なんて陰湿な……見損なったよ!」


「あっ……エドワード様……私……!」


「いいんだ、マナリア。君は何も悪くないんだから!!悪いのはこのエリーシャ、ただ1人!」


「あっ……エドワード様ぁ……マナリアは嬉しいです……」


「マナリア……!!」


なんだこれ。

なんなんだこれ。


ザバァ………………



登場人物と台詞回しが多少違うが……

同じ流れだ。


昨日とまったく同じ。


2回目ともなると、多少だが驚きも少なくなる。

動悸は激しいが、まだ冷静にタオルを取り顔を拭く動作ができる。


はぁ……2回目か……しかも昨日と別の人。



「誰よもう……エドワードなんて知らないわよぉ……」

そうタオルに愚痴をこぼしていたら


「失礼します。お嬢様、モーニングティーをお持ちいたしました。」マーサの声がドアから響いた。


「入って頂戴。」


マーサから目覚まし紅茶をもらうと、一口つけてホッと一息はいた。


朝食は今日も部屋で摂ることにし、そう告げると「ほんと大丈夫ですか?お嬢様?」と言いながらマーサは準備に消えていった。


はー……2日目ですよ。


3月3日

エドワードなる人物から婚約破棄を告げられる先を視る。

台詞は違えど内容は変わらない。

マナリアなる女性は同一人物。

どういう事かわからないが婚約阻止したい


そう記してパタンとノートを閉じた。


勘弁して欲しい。

クラウスの次はエドワード??

まったく知らない人だ。

よくわからないが私の婚約者って2人いるの?

それとも……いや、落ち着け。

情報が足りなさ過ぎる。


1つ分かることはあの未来は直近の未来では無いことだ。

私は明らかに成長していた。

綺麗な……大人っぽいドレスを着ていたと思う。

それに私に婚約破棄を告げる方々も見た感じで言えば青年って感じだった。

大人なドレスを着る私と多分同じくらいな歳なのだろう。

と言うことは推定で今から二〜三年先の事なのではないだろうか?


ならば……まだ時間はある。


それに婚約したなんて事実は今はないのだから……

落ち着け自分、、これはまだ確定の未来じゃない!!

とにかく落ち着け自分!!


その日、私は上手く寝付けなかった。




翌日、ゲンナリしながら顔を洗う。

コポッコポホ…コポッーー


……

………

………………



「エリーシャ・リヒテンベルク…君に伝えなくてはならない事がある。私は…私は真実の愛をみつけてしまった!私はこのマナリアをマナリア・ミゼットを愛してしまったのだ。」


「フィルメル様ぁ…」


あぁ、またこのパターンですか…。

ドレスを着てパーティーに出ている感じですかね。テラスにでも移動してるのか聴衆の目だけは避けられててそれだけはマシって所でしょうか。

はぁ…。


「だが、エリーシャ…君との結婚は王命。この婚約は破棄することができない。」


えっ!!?なんて言いました?王命!?


「私は王…父上からリヒテンベルクの秘宝?謎の財宝を手に入れろと厳命されている…」


ん!?父上って…王を父上って言いましたこの人!!

ってことはこの方王族!?

はぁあ??あと我が家に秘宝なんてないんですけど!

何言ってるの??


「だから、君との結婚は果たそう。だが心だけはどうする事もできない。私の心はマナリアと共にある!」


「フィルメル様ぁ…!」


「君とは白い結婚となるだろう…大変申し訳なく思う!だが!私はこのマナリアと子をなし、その子を次代のリヒテンベルク伯としこの家を守って行きたいと思う。聡明な君には是非、私とマナリアと共にリヒテンベルク家を盛り立てていって欲し──」




………ザバァ!!!

最後まで聞く気も起きませんでした。


なんですかアレ?!?

公開お家乗っ取り宣言?

フィルメル何某とマナリア何某には我が家の血なんて1滴も入ってないんだから、あんた達の子が我が家を継いでも、我が家的には何にも嬉しくないんですが?!


にしても恐ろしい…沢山の恐怖がある未来でしたよ?!

1つは婚約を王命と言っていた事…えぇ…王様に強制的に結婚させられるんですか?しかも、あんなのと??

お、恐ろしい!


そして、2つ目…最たる恐怖はアレが王族と言うこと。

王を父上って言ってましたからね。

と言うことはあのお方は我が国の王子様……。

あんなのが王子様!?

大丈夫なんですかねこの国!!?


フィルメルとあの女に呼ばれてましたね…確か第3王子と同じ名前です。



はぁあ…我が国の第3王子がポンコツクソ野郎だと判明しましたよ。



3月4日

ポンコツクソ野郎(不敬となるので名前は秘する)にお家乗っ取り宣言をされる。

王命との事で婚約破棄はできず、私は白い結婚とされ、ポンコツクソ野郎とマナリア嬢との子が我がリヒテンベルク伯爵家の次期伯爵となるそうだ。

結婚前から妾を作ると宣言するとか、ほんとこの国のお…不敬になるので割愛。

マナリア何某の名前が判明。マナリア・ミゼットとのこと。ミゼット…確か貴族名鑑にミゼット子爵家ってのがあった気がする。

早急に調べる事!


パタンとノートを閉じて、私はゆっくりと動き出す。

日々動揺しっぱなしだが、このまま悩み震えているだけではいけない。


何のために私は今まで勉強してきたのか。

言い訳を…より聞こえのいい言い訳をする為だ!


私は支度をし、ダイニングへ向かうと朝食を摂っている父に挨拶をした。


「お父様、おはようございます。」


「エリーシャ、おはよう。近頃朝は体調不良で下りて来なかったが…今日は大丈夫か?」


「はい、もう大丈夫です。お父様…お食事が終わったら、お話したいことがございます。」


「わかった。私からもお前に伝えなければならない事があるんだ。丁度いい…ゆっくりご飯を食べなさい。終わったら私の執務室に。」


「承知いたしました。」


父が私に伝えたいこと…?

嫌な予感がする。

私は朝食を摂り終わると、執務室へ向かった。


軽くノックをし、「お父様、エリーシャが参りました」と伝えると中から入室の許可が下りた。


「エリーシャ、来たか…。さて、エリーシャは何の用事があったのかな?」


「いえ、私のことは後で構いません。先にお父様のお話を聞かせて頂けますか?」


「あぁ…わかった。いやな、エリーシャ。お前ももう14歳、来年には貴族学校に入学する年になるな。」


「はい。」


我が国に属する貴族は皆、15歳より3年間王都にある貴族学校に入学し様々な知識を学ばなければならない。

私は入学を少し楽しみにしていた。

リヒテンベルク家が治めるこのフェラーメル地方は豊かな農地に溢れる穏やかな場所だ。

とてもいい所なのだが、この地には私と同い年くらいの貴族の子がいない。

領地の子達とも仲はいいが…貴族と平民として、どうしても気を使われたりする。

私は変に気を張らない友達が欲しかった。

貴族学校へ行けばそれが叶うと思っていたのだ。


「学校に入ると色んな他の家の子供達に会うだろう。その際に君がまだ婚約者のいない身だと…まぁ問題も起きるのでは?との事なのだ。」


「はぁ…問題ですか?」


「リヒテンベルク家の賢姫ーなんて父上が色んな所で吹聴してるらしくてなぁ…」


「おじい様…」

何してるんですか本当に…変な話を広めないでとあれ程お願いいたしましたのに…


「君が婚約者がいない身のまま学校にいったら…我先に仲良くなろうと他家の令息から熱烈なアプローチを受けるかもしれん。お前だって平和な学校生活を送りたいだろう?」


「それはまぁ…そうですが…」


「だから入学前に婚約者を作っておこうとそう言う事だ。釣書がなぁ…沢山来ているのだが、あんまりにも多いので私が厳選しておいた。中でもこの方はーー」


「お父様!!!!!」

私は普段出したこと無いような大声を出した。


「えっ!?どっどうしたエリーシャ…?」


「お父様、その釣書頂けないでしょうか。」


父の机の上には数冊の釣書が置いてある。


「私の未来の事ですから私自身で選びたいのです。そこにある釣書はお父様のお眼鏡に適う家の令息達なのでしょう?ならどの方を私が選んでも悲惨な事にはなりませんよね?」


「あ…あぁ…そうだな?でも中には断り辛い─」


「お父様!!」


「はっはい!」


「私は幼い頃から特に問題を起こすことなく慎ましく生きて来たと思っております。そんな娘の一生に一度のお願いです。私は自分の将来の伴侶を自分で選びたく思います。普段我儘を言わない娘の唯一のお願いだと思って許してください。断り辛いものについては私の方で対応いたします。決してお父様にご迷惑がかかる事のないようにいたしますから。どうか…どうかお願いです!」


「エリーシャ…」


私は父に深々と頭を下げた。

お父様…お願い!!


「分かったよエリーシャ。君がそこまで言うなんて、珍しい事だね。いつも聞き分けがいい君がそこまで強く願うのなら…自分で選んでみるといい。」


やっっったぁ!!!!

「ありがとうございます!あと、お父様?もう1つお願いが…調べて欲しい事がありまして……」

………

………………


私は父にちょっとした調査を依頼した後、数冊の釣書を受け取り、部屋に戻ると早速中身を確認して見ることにした。


マーサにお茶の準備をしてもらい、心を落ち着け…


まずは1冊目…

クラウス・アーデルム 侯爵家次男 14歳

アーデルム家と言えば我が家の領地と隣接している。

縁戚となれば隣合う領地同士で相乗効果もあるのだろうが…


こいつ!覚えてますよ!

最初の婚約破棄男だ。

ないない!絶対ない!

こいつを選ぶと、もれなく私は聴衆の目の中婚約破棄ですよ。

しかも愛しのマナリア嬢を虐めたとか抜かしてましたが、私の性格上、絶対そんなことしません。

マナリア嬢に虚言か妄想を吹き込まれたに違いない。

それを調べもせず、頭から信じて断罪するなんて…

頭空っぽカランコロンの証拠です。

却下却下!!


2冊目…

エドワード・サーペント 伯爵家三男 14歳

サーペント伯爵家か…確か商いが上手なお家でしたね。

縁戚になれば、農地豊かなこの地に新たな風が吹くのかも知れません…が!!


却下!コイツも覚えてますよ!


頭からっぽカランコロンの第2号です。

ナシナシ!無理無理!!


はぁ…なんだか嫌な予感がしますよ?

この並びで行くと…


3冊目……はぁ。

フィルメル・メルヒオルド第3王子殿下 14歳

はぁ…やっぱりね。

ポンコツクソ野郎じゃないですか……知ってた。

お父様の断りにくい釣書はこれだ。

これはお手紙でお断り〜は通用しないな。

なんとか…長年の培った言い訳術で回避せねば…。

まぁ、どうにかかなるでしょう。

あの頭の悪さ…おっと不敬不敬。

頭の朗らかな殿下には理詰めすればなんとかできる。

絶対私とは合わない!って思わせてやればいい。

一度会ってみて、向こうから断るよう仕向けよう…


私ならできる。


はぁ────。

私の未来を視始めて3日目。

釣書は計10冊。3名脱落…ということは私は残り7日も同じような未来を視るのだろうか…


憂鬱すぎる。。

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