本当の悪女はそう...あなた
この小説を手に取ってくれてありがとう!
私の名前はしゃるる!
ぜひ最後まで楽しんでいってね!
※中3女子が必死こいて描いた作品です。誹謗中傷、無断転載などの違法行為はご遠慮ください。
ふざけんな
『ゴッ』
・
・
・
あの日屋上から飛び降りた私は、希帆にいじめられていた。
気持ちいい。ふかふかのベッド...。ベッド...。.........ベッド?
私、ベッドなんて持ってない。
むくっと起き上がると、頭がくわんくわんした。
身に余る大きさのベッドだった。5回くらい寝返っても大丈夫そうだ。
暫くゴロゴロして過ごした。多分一時間くらい。
見慣れない部屋の風景に、今さら気づき、おっかしいな?と首を傾げる。
ベッドから降り、部屋を一周しようとした。
その時、ふわふわの美しい金髪が目にかかった。
私はこの間真っ黒に髪を染めたばかりなのだ。生まれたときから身体が白かったから。
髪も唇も肌も真っ白だった。目だけは真っ赤だった。
そのせいで皆に吸血鬼ヴァンパイアの希帆ちゃん、と呼ばれてきた。
恐る恐る鏡に目を向けると、そこには、私はいなかった。
代わりにサファイアのような宝石眼を持った、金髪の少女が立っていた。
歳は.....6歳程度。
驚きのあまり、私は叫び声を上げた。
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「嘘!嘘だっ!私?私なのこれぇ!?」
私が慌てふためいていると、下から誰かがドスドスと上がってくる音がする。
「奥様っ!お待ち下さい!そんな訳ありませんよっ!奥様ぁっ!」という声もする。
次の瞬間、ドアがバァァァァンという音とともに大きく開き、きらびやかに着飾った女性がたっていた。
「ア、アリアなの?」と涙声で私に質問をした。私は本能的に感じた。
この人は母親だ。と。
アリアさんが誰かは思いつきもしなかったが、せっかく美人になれたのだ。
楽しまないと絶対損する。どうせ夢だし。と思い、「ええ...私わたくしですわ。お母様?」と言った。
おかしい。確か、今私は、「はい...わたしです。お母さん?」と言ったはずだ。
夢だからだろうか?お嬢様になったのか?「謎すぎる。」と思わず呟いた。もちろん口から出た言葉は、「謎ですわ。」
アリアの母親は死んだ子供が生き返ったような喜びようで、下の部屋に向かって叫んでいた。
その声を聞いた、多分父親と姉、妹らしき人が上ってきた。
見たことある...。と思って考えていると、思い当たることがあった。
「Dreams come trueゆめはかなう?」
突然の私の呟きに、皆が戸惑っている様子だった。順番に名前を思い出してみることにした。
「シェーン」
妹がピクリと動いた。
「カレイド」
姉がピクリと動いた。
「ヴィサード」
父がピクリと動いた。
「ベラ」
母がピクリと動いた。
皆は私がおかしくなったと思い、ブツブツ言いながら部屋を出ていった。
間違いない。ここは............。
Dreams come trueの世界だ。
そして私は...。悪役令嬢役のオモルフォス・アリアだ。
ふざけんな!なんでヒロインじゃないんだよ。
あーあ、結局夢でも邪魔者扱いかよ。
・
・
・
いや?まてよ?小さい頃から小説好きだった私は、ある回避方法に気がついた。
「未来を変えたら良いんですわ!」
未来を変えましょっ
「未来を変えるには、まず理解が必要ね。作品の流れを整理するとしましょう。」
すっかりアリアになりきった私は、作品を喜々と整理していた。
えーっと、この物語の主人公がシュヴァルス・アマンテ。
綺麗な恋人という意味だ。よく恥ずかしげもなくこんな名前になったと思う。
まあそういう私も美しい独唱歌曲だけど。羞恥死しそう。
...って話を戻して!物語が始まるのは10歳のデビュタント。
そこでアリアの婚約者であるザウバー・フィオーレ第二殿下にアマンテがダンスを要求したことから、
アリアに恨まれることになった。フィオーレ殿下は断ったのにね。断り方が素敵だったわぁ(照)
おっといけない。ン゛ン゛ッ
アマンテはシュヴァルス家の一人娘で相当甘やかされて育ったから断られるなんて考えてなくて大恥を書いたのよ。
そしてアマンテもアリアを恨むの。お互いに恨み合い、憎み合い。お互いに仕掛け合い、仕掛けられ合い。
それをよく思わないアリアがサウバー・ファンゴ第一殿下をアマンテの婚約者にと勧めるおしとおす。
しかし、ファンゴ殿下には他に好きな女性がいて、それが私の姉のオモルフォス・カレイドだった。
アマンテも本当はフィオーレ殿下が好きなのに、アリアが「第一殿下ですし、あなたには身に余る栄光ですわね。」
と冷たくいって静めた。アマンテもそれには納得せざるを得なかった。
なぜならアリアが、フィオーレ殿下との子供を授かっていたからだった。
婚姻が確実なものとなり、喜ぶアリアと、悲しむアマンテ。
そんな中、フィオーレ殿下が、アマンテがアリアを殺そうとしているという噂を聞いた。
アリアに危害を加えられる前にアマンテを殺害しなければならないと思い、
アマンテを殺害しようとし、捕らえられてしまった。婚約は白紙になった。
愛するフィオーレ殿下に殺害されかけたショックでアマンテは鬱になってしまった。
それをファンゴ殿下が慰め、君をこんな目に合わせたアリアを許さないと言った。
もうこの頃にはファンゴ殿下の気持ちがアマンテに傾いていたのだ。
その後、二人は正式に結婚をして、王位についた。
カレイドがファンゴ殿下に捨てられたと聞いて、アマンテが好きになったと聞いて、ショックを受けたアリアは、
暗殺者を雇い、二人を殺しに向かわせた。しかし、作戦が漏れ、実行する前に捕らえられた。
二人共が殺害未遂で、処刑されることになった。ファンゴ殿下は、バラバラの日に公開処刑を望んだが、
アマンテがそれは可愛そうだといって、せめて二人一緒にといって、二人一緒に処刑されることが決定した。
二人が処刑され、アマンテ王妃とファンゴ国王が、幸せに暮らす...。という話だ。
今思うと、アリアってなんて家族思いなんでしょう。ってなる。
自分がそうなる運命なのにね。.......。なんか泣けてきた。
物語が始まるのは4年後。それまでになんとか素敵な令嬢にならないと!
幸せになる、ヒロインになるために。
こんなの聞いてない!
夢を見た。
桃、水、紅葉、雪色のドレスの女の人が私の身体にスッと入ってくる夢だ。
その後のことはよく覚えていない。
次の日、。机の上で寝るなんて....素敵な令嬢じゃない。
そう思って、椅子から立つと、何かがネグリジェのポケットから転がり落ちた。
4つの石だった。花形の石と、貝殻型の石、紅葉型の石に、雪の結晶型の...石。
なんだろ。と思って、拾い上げると、宝石のような光沢を放ち始め、石に文字が浮かび上がった。
「吾を食すべし」
と書いてある。とりあえず、飴みたいに舐めれるのかなと思って口に含んでみた。
思ったとおりだった。飴のように口の中で溶けていく。とても甘い。
宝石の中にはジャムのようなものも入っていて、とても美味しかった。
私は満足して、ベッドに横になった。その後また寝てしまったみたい。
眩しくて目が覚めた。目の前には黄金の光を放つ女性がいた。
夢の中で出てきた4人の女性。その人たちは、私に気がつくと、夢と同じように、私に入ってきた。
苦痛はなく、むしろ、気持ちのいい感覚だった。でもおかしい。
これは主人公のアマンテが聖女の力をもらうときのシーンにそっくり、いや、同じだ。
私は、主人公が聖女の力をもらったあと、色々なものに生命を宿す力を使っていたことを思い出し、
アリアが大事にしていた純白のペルシャ猫のぬいぐるみに触れて、願ってみた。
すると、猫が動き出し、私に甘えてきたのだ。間違いない。私は主人公、アマンテの力を手に入れた。
こんなの聞いてない!サイコーすぎるんだけど!主人公アマンテだけの特別なスペシャルパワーだよ!
それもアマンテより強い力。アマンテはせいぜいぬいぐるみを動けるようにする程度だった。
しかし私はどうだ?本物の猫のような艶のある体毛に、私のような青く美しい目。
極めつけには、声を上げて鳴いている。生きている!私の勝ちだ!ざまあみろアマンテ!
私はヒロインになるんだ。神様がそう言ってる!
「何があっても私はヒロインになりますわよ!」
そう叫んだとき、部屋のドアがノックされて、一人の男の子が入ってきた。
「アリア!」
輝かしい笑顔で私の名前を呼ぶ男の子は、フィオーレ殿下だった。
「フィオーレ殿下!」
と言い、ドレスの裾を持ち上げ、よく見るプリンセスのお辞儀をした。
それを見たフィオーレ殿下は頬をぷくっと膨らませ、
「なんでフィオって呼んでくれなくなったの!」
と言った。美しい銀の長髪が後ろで一つに結ばれており、風に揺れていた。
私は、照れながら、「フ、フィ...........フィオ?」と言うと、そのとおりだと言わんばかりに胸を反らせた。
フィオは「アリア、猫飼い始めたの?」と、ペルシャ猫を見て、聞いた。
一瞬、私が作り出したと言おうかと思ったが、ぐっとこらえ、
「そうですわ!名前は...えーと...シャ、シャルティアナと言いますのよ。」
と言った。咄嗟にペルシャのシャから始まる名前を考えて言ったせいか、
この間読んだ没愛ストーリーの主人公の名前を言ってしまった。
なんてこった。これからこの子はシャルティアナと呼ばれるのか。
っていうか、小説で読んだ殿下のイメージと違いすぎて戸惑いつつある。
私が知ってるフィオーレ殿下は静かな人だ。
なぜこんなことに?私がアリアになった時点でシナリオが狂ったのか何なのか.......。
何故か私にさっきからずっと話しかけてくる。(なんか怖いごめん)
そんなことを思っていると、侍女らしき人が入ってきて、
「奥様がお呼びでございますよ。アリアお嬢様、フィオーレ殿下。」
と言った。すると、フィオがなんと、
「気安く話しかけないでくれる?せっかくアリアと話してたんだから。」
と......。冷たい一発。部屋の温度が2、3度ぐらい下がったんじゃないかってほど。
侍女さんは、申し訳ございません。と震えながら言って、去っていった。
フィオ変貌ぶりにあたふたしていると、彼はこちらに向かってほほえみ、
「邪魔が入っちゃったね。じゃあ、行こっか。」
と言い、私の手を取り、部屋の外へ連れて行った。
現実世界では、久しく男に触れていないので、7歳(フィオーレ殿下はアリアのいっこ上)
とはいえイケメンだし、少しドキッとしてしまった。
違う意味で......こんなの聞いてないっ
きゃぁぁぁぁ!やっばぁ!
顔をどんどん赤くしながら階段を無言で降りていく私と、
輝かしい笑顔を私に向けて、鼻歌を歌いながら階段を降りていく殿下。
下の階につく頃には、二人とも黙り込んでいた。
お母様の部屋に入ると、家族全員と、国王様、王妃様、ファンゴ殿下が座っていた。
咄嗟にお辞儀をして、真っ赤な顔のままニッコリと微笑んだ。
するとお母様が、
「こちらへいらっしゃい、アリア。フィオーレ殿下はそちらの御椅子におかけくださいませ。」
といい、私を見た。私は、王族の3人に、失礼します。と言い、椅子へと向かった。
私達が座ると、国王陛下が、ゆったりと、威厳のある声で話し始めた。
「今日はわざわざ時間を取ってくれてありがとう。本日は、カレイド嬢とファンゴ、アリア嬢とフィオーレの婚約についてをお話したい。」
その瞬間、私は、紅茶でむせた。ゴホッゴホッという大きな音を立てて咳をしている私を、
フィオがしまった!という顔で見ている。国王陛下が眉毛で埋まった眼をフィオに向けて、
何だ、まだ話してなかったのかと言っている。
私は恥ずかしさと驚きと照れで真っ赤になりながら、手で顔を覆った。
すると、フィオが立ち上がり、私の目の前にひざまずいてこう言った。
「アリア、遅れてしまって申し訳ない。僕と...婚約してくれないか?」
きゃぁぁぁぁ!やっばぁ!プ、プロポーズ受けちゃったぁ!とか思いながら返事したら
「えええもちろん当たり前ですわ!」
となった。うん。
「え」が3つとかヤギみたいでキモすぎだし...。あーあ。この夢終わったぁ...。
そんなことを思って、彼の顔を見てみると、さっきと同じ輝かしい笑顔で私を見つめてくれていた。
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
じゃなくて、
「いいんですの?こんな私で...。本当に...その、よろしいんでしょうか?」
慌てふためいて言う私に、フィオはニッコリと笑って、「当たり前だよ」と言った。その時、王妃殿下が勢いよく立ち上がって言った。
「フィオーレ!貴方...貴方笑って....!」
私は衝撃を受けた。親の前でも笑ってないのかフィオは。
私は、幸せの余韻に浸りながら毎日を過ごした。
物語が始まるんだ。
そして4年がたった今、物語が始まる。
「アリア!明日...エスコートさせてくれ!」
と、フィオーレ殿下は、私をパーティーに誘ってくださったわ。もちろん行きますわ。
かなりここの生活にも慣れました。言葉もお嬢様風に....なってるわけない。
今日のパーティーが楽しみすぎる!このパーティーで私の異能を皆に見せつけてやる。
うっかり...って感じで!アマンテに勝ってやるからな!
そもそも私は公爵令嬢でアマンテは男爵令嬢。立場的に有利なのはこの私。
勝ってみせる。シナリオにも、アマンテにも。
外へ出ると、私のドレスに散りばめられている宝石がキラキラと輝いた。
10歳でこんなドレスって派手すぎる...。もー、どうしてこんなのしかないのよ。
「アリアお嬢様、本日はこちらの馬車へ...お嬢様?どこへ行かれるんですか?」
専属侍女のリーザは私が家族と一緒に行くと思っていたのだ。私は、こう言ってやった。
「用意してくれてありがとうリーザ。だけどごめんなさいね。私は、フィオーレ殿下とご一緒しますので。」
リーザは慌てて、そうでございましたか!と言い、馬車を下げた。
そして、ちょうどそこに、フィオーレ殿下の馬車がいらした。フィオーレは私に気づくと、
「ごめん!アリア!待たせてしまったね。」
と言い、私の手を取った。そのまま馬車に乗り、パーティーへと向かった。
パーティー会場は思ったより遠くなかったが、馬車がガタガタと揺れて、体中が痛かった。
お父様たちの馬車はまだついていないようだった。
私はフィオーレ殿下の御手を借り、馬車を降りて、会場へ入っていった。
フィオーレ殿下が扉の前に立つと、会場内に、声が響いた。
「サウバー・フィオーレ殿下、オモルフォス・アリア嬢。ご入場です!」
私はフィオーレ殿下と手を繋いで会場に入った。周囲がざわついた。
『殿下とお手を繋がれるなんて...。』
『あれを見て頂戴。まるで自分が后だと言いたげな顔だわ。』
私はあれだけ楽しみだったパーティーが、少し恐ろしく思えた。
しかし、殿下がこちらを向いて微笑んでいらっしゃるから、全然平気!.....なはず。
私は、フィオーレ殿下と一緒に3曲踊り、ご飯を食べ、パーティをすっかり満喫していた。
そこへ現れたのだ。シュヴァルス・アマンテが。
そして、公爵令嬢である私をちらりとも見ずに通り過ぎ、
フィオーレ殿下にダンスを申し込んだ。シナリオの通りなら、フィオーレ殿下は断るはず。
殿下が口を開いた。
「お前は誰だ?私に婚約者がいると知っていての行動か?」
半ギレだった(笑)
「あ、あの、私は...あの...。」
アマンテはとてもショックを受けたようだ。可哀想にぃ。
「あら?貴女はシュヴァルス男爵のご息女のアマンテじゃない?」
フィオーレ殿下は、ああ!という顔をして続けた。
「ああ。シュヴァルス男爵のご息女か。安心して、アリア。僕は君以外とは一生踊らないから。」
きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!
かっこよすぎるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅう!
ふふっ。この私が断られるなんて! って顔してる。
いくら貴女が美しくても、フィオーレ殿下は私以外と踊らない。
顔が真っ赤になってるね。周りにいいイメージを与えるために慰めとかなきゃ。
「アマンテ?大丈夫ですの?その...お顔が真っ赤ですわよ?」
困り眉にして、心配してそうに顔を覗き込んだ。
しかし彼女は、そんなのノーダメージとばかりにスクッと立ち上がり、
私に向かって笑顔で手のひらを向けた。次の瞬間、般若のような恐ろしい顔立ちになり、
『奪え!!』
という大きな叫び声とともに、黒い塊が襲ってきた。
私があっけにとられていると、フィオーレ殿下が前に立ちはだかっていた。
黒い塊に襲われたフィオーレ殿下は血の気が失せ、ピクリとも動かなかった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!」
恐ろしさのあまり、私の声ではないような悲鳴が出た。
「殿下!?フィオーレ殿下っ!?そんなっ!?」
アマンテは、これで良かったのよ。と言って、去ろうとした。
もちろん、そこを衛兵に捕まって行った。
その時私はアマンテどころではなかった。恐ろしくて恐ろしくてただ叫ぶことしかできなかった。
そのまま....フィオーレ殿下は死んだ。
私の愛する王子様
彼のお葬式の時、私はとても虚ろな表情だったと思う。
アマンテがまさかあんなやつだとは思わなかった。
彼を殺しておいて、笑って去っていこうとするなんて。
私は最後のあいさつに。と彼の胸に触れた。
まだ小さかった彼は、まるで氷のように冷たかった。
その時、私の涙が彼の上にこぼれ落ちた。
私が...泣いているの?
もう彼とは過ごせないのだ。この夢を。
そう思うと涙が止めどなく出てきて、彼を涙びたしにしてしまった。
その時、殿下が動いたのだ。微かに。
「フィオーレ殿下?」
彼はゆっくりと私の手を握り返した。しかし少しずつまた冷たくなってゆく。
「殿下......置いて行かないで....お願いだから....」
私は、また冷たくなりかけている殿下の手をギュッと握り、
額の近くに持って行って祈った。お願い.....生き返って....
『Venez en vie !生き返れ!』
私はそう叫んだ。私の異能が出てくれれば良い。もう一度...生き返らせたい。
そんな願いが届いたのか、殿下は金色に輝き、息を吹き返した。
ゆっくりと起き上がった彼は、やつれて見えたが、いつもの輝かしい笑顔で、
「アリア...!」
と言ってくれた。力が....私の力が彼を生き返らせたんだ。
嬉しくて、私は彼の胸に顔を埋めて大泣きした。
その流れを見ていた他の貴族たちも、安心して泣いていた。
皆が笑顔で、そして死んだはずのフィオーレ殿下と歩いて出てきたのを皆が不思議そうに見ていた。
そして、次の日。
私は聖女になった。
私が聖女になったという噂は、ほんの2日で国中の知るところとなった。
アマンテは未成年で、結果的に殿下も生き返ったから、観察処分となった。
部屋で鎖に繋がれているそうだ。もちろん殺人未遂の前科はつく。
これのおかげで暫くはアマンテに異能を使われずに済みそうだ。
なんでこんなことに...?(アマンテ)
なんでこんな事になったのよ。せっかくヒロインに転生できたのに。
なんで悪女であるはずのアリアがあたしの能力を持ってるのよ。
なんであたしがあいつアリアの能力を持ってるのよ。命を奪う力なんてアマンテには似合わない。
悪役令嬢にこそ似合う力なのに。ヒロインには似合うわけないのに。
.........と思っていた。上手く利用すればあいつから全てを奪える。地位も、異能も、命さえも。
そう思った私は、自信たっぷりにデビュタントへ向かった。
..............................................のに。
『サウバー・フィオーレ殿下、オモルフォス・アリア嬢。ご入場です!』
何なの?何故なの?何故あいつがフィオーレ殿下と一緒に入ってきたの?
何故踊っているの?そいつオモルフォス・アリアは悪役令嬢なのよ?
イケメンはあたしに群がるんでしょ?それがヒロイン。
なのに。あたしより爵位が上で、ちょっと美人だからっていい気になって。
その気になればあたしだってフィオーレ殿下とイチャイチャできるんだから!
あたしは、アリアを無視して通り過ぎ、殿下にご挨拶をした。
「フィオーレ殿下、ごきげんよう。私とダ.....」
言い終わらないうちに、殿下は私に軽蔑したような眼差しを向け、
「お前は誰だ?私に婚約者がいると知っていての行動か?」
名前も呼んでくれない。アリアのことは名前で呼ぶのに。
「あ、あの、私は...あの...。」
冷たい一言を浴びせられた私はうまく声が出ず、言いたいことも言えなかった。
その時だった。アリアが口を挟んだのである。
「あら?貴女はシュヴァルス男爵のご息女のアマンテじゃない?」
何よ。私があんたより下だって言いたかったわけ?
何だと!?と言おうと思ったところで、フィオーレ殿下が...殿下が...
「ああ。シュヴァルス男爵のご息女か。安心して、アリア。僕は君以外とは一生踊らないから。」
シンジラレナイ。嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!
こんなの耐えられない。主人公じゃない女がいい男とイチャイチャと。
神様はなんでいつも私をいじめるの?学校で希帆にいじめられてたときもそう。
あたしがアルビノの希帆に向かってヴァンパイアみたいねって言っただけじゃない。
なのに、それなのに皆は希帆に味方して、皆でいじめにかかる。信じられない。
あーもう。アリアが希帆に見えてきた。
「アマンテ?大丈夫ですの?その...お顔が真っ赤ですわよ?」
この上辺だけの心配も希帆にそっくり。良いわ。もう少しあとにしてやろうと思っていたけど。
今、奪ってあげる。貴女の人生全てを。地位も、異能も、命もよ。
大丈夫。貴女がいなくなっても、フィオーレ殿下にはこの私がいるわ。
貴女が居ないなら、心置きなくこの新しい人生を楽しめる。
ありがとう
笑顔をアリアに向けた。アリアも笑い返してきた。そういうところがうぜぇんだよ!!!
『奪え!!』
黒い塊が彼女を襲う。あっけにとられて動けないのねぇ。可哀想に。そのまま死になさい。
「ぐっ」
フィオーレ殿下が倒れた。
は?
なんで殿下が?まさか呪いをかける相手を間違えっ!?
そんな.......。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!」
アリアが叫んだ。
「殿下!?フィオーレ殿下っ!?そんなっ!?」
これで良かったのよ。そう思った。口にも出てたと思うけど。
皆が注目してる。皆あたしの能力に感心しているのね。
優越感に浸りながら会場を出ていこうとすると、
衛兵が来て、私の腕を掴んだ。
「ちょっと!?何をなさるの!?いやっ!離しなさいよ!!」
萌は何も悪くない!
・
・
・
今に至るわけだ。
アリアは聖女になり、あたしは悪女になる。
そんなの嫌だ。悪役令嬢が聖女になるなんてありえない。
部屋に閉じ込められて異能が使えなくする鎖に繋がれてたくさんの大男に一日中みはられていて。
あれだけ私を慕ってくれていた下級貴族たちもいなくなって。
そんな中一つの招待状が届いた。あのアリアからだ。
しかもシナリオの婚約お披露目パーティと同じ日にち。
あたしをわざわざ招待するなんて。殺してくれと言っているようなものじゃない。
良いわ。行ってあげる。
婚約パーティー
パーティーが始まった。
今日のパーティーはいよいよ私とフィオーレ殿下の婚約発表の日。
アマンテにも招待状を送り付けてやったけど今頃どんな顔してるのかしら?
っていうか来るかしら?大好きなフィオーレ殿下が婚約発表するんだから。
きっと来るよね。
『シュヴァルス・アマンテ嬢、ご入場です。』
ホールに声が響く。来たか。
黒い服を身にまとった監視役を両脇に連れて現れた彼女は、私の知るアマンテではなかった。
やつれた顔を隠すために分厚く塗られたファンデーションに、
血の気の失せた顔を明るく見せるための濃い化粧。
挨拶をしにこちらに歩いてくる時に、何度もつまずき、転びかけていた。
天井から下がっている婚約発表の旗を見て、歯ぎしりをしていた。
ボソボソっと私に挨拶をして、ここぞとばかりにご飯を貪った。
私は美しい聖女。彼女は汚らしい悪女。
完璧に形勢逆転だ。ざまあみろ。
そもそも私がこの力を手に入れた時点で私の勝ち確定だったが。
わざわざ殺人未遂で成り下がってくれてよかった。
じゃないと王室と付き合える、結婚できる身分のままだからね。
これでアマンテがフィオーレ殿下を横どることは確実になくなった。
勝ち誇った笑顔で、私は婚約の発表を行った。
「皆様、今宵は私とフィオーレ殿下の婚約発表パーティーに集まってくださって、ありがとうございます。」
ゆっくりして行ってくださいね。とアマンテの方を見た。
アマンテは歯を食いしばって怒りに耐えている様子だった。
アマンテは、異能封じの鎖をつけられているから異能は使えない。
だから殺しにかかるなら素手しかないのだ。
私の周りにはSPさん達がいるし、アマンテの周りにも護衛と称した監視がいるし。
そう簡単に殺しにはかかれないわ。だからって油断は禁物。
アマンテを孤立させるためにこのパーティを招待制にしたのよ。
アマンテ以外は私の味方になるように.......。
ふふっ。私ってなかなかの策士ね。
ほら、ささやき声が聞こえるでしょう、アマンテ。
耐えきれないでしょう、アマンテ。
耐えて耐えて耐えるのよ。さもないと処刑台行きなんだから♡
あぁ。思い出すな。私のことをヴァンパイアと呼んでた子の事。
確か北橋 萌。もえキュンって呼んでたんだ。萌のこと。
毎日友達と私の悪口を言ってた。だから私もはじめは耐えてた。
はじめだけ。
しばらくして爆発したわ。それからは毎日どつき回した。
私は一人だったけど、他にも悪口を言われていた子がいっぱい居たから。
その子達に力をもらって、自分が正しいって思い込んでた。
すごいね。私って本当は悪役令嬢ぴったりじゃん。
でもね。悪役令嬢が幸せになる物語だってあって良いと思うの。
そもそも悪役令嬢が幸せになれないなんてルール、誰か作った?
そんなルールなんてない。あったとしても、私がそれを破る。破れる力を私が持っているのだ。
むしろ破れる力は私しか持っていない。だったら私が破るしかないじゃん?
そゆこと。私が悪役令嬢からヒロインになる様子をじっと見てると良いわ。アマンテ。
どうしたらいい
私はどうしたらいいの?
フィオーレ殿下と婚約したアリアはその後アマンテをいじめまくるのだ。
殺人犯にわざわざ会いたくないし。危ないじゃん?
私、聖女だし。皆を守らなきゃじゃん?死んだらだめじゃん?
何すればいいのよぉ。フィオーレ殿下には2日に一回しか会えないし。
もうイヤだよぉ。アマンテは何してるんだろ。
原作シナリオ通りに進まないから何していいかわからないじゃん。
あーもう、疲れた。言葉は自動的に修正されても行動は修正されないから大変なんだよね。
小説内に転生するのもなかなか大変だね。バラ色の人生の幕開けって思ったのに。
恨めしい(ファンゴ殿下)
何故いつもフィオーレばかりが優遇されるのだ。
王太子は私なのに。結局顔か?
片目がないからだめなのか?
この片目はお前たち国民を守るためになくした目だぞ。
この私を心から愛してくれているのはカレイドだけだ。
不満をつのらせながら、父上の部屋へ行く。
父上は、私が隣の国の王女と結婚することを望んでいる。
誰があんなブサイクと付き合うか。
私はカレイドと結婚する。カレイドの両親もそれは了承済みだしな。
フィオーレがカレイドの妹、オモルフォス・アリアと結婚すると言って父上は許した。
聖女だからか?何故あいつにだけいつも美しい女が寄り付く?
王太子は私だぞ!?本来なら皆王太子の私に寄り付くだろう?
何故フィオーレなんだ?この間も男爵令嬢のアマンテにダンスを迫られていた。
殺されかけたいとは思わぬが。
何故フィオーレだけがいつも優遇される?
私のことが気に入らぬのか?
フィオーレはいつ何時も笑ったことがないのに。
私はいつも笑顔で振る舞っていたのに。
フィオーレは生まれたときからドライアイスのように冷たかった、感情がなかったのに。
私は生まれたときから優しく、思いやりを持って周りに接してきたのに。
フィオーレは勉強なんて一時もしないのに賢くて。
私は一日8時間も勉強しているのに馬鹿で。
なんてことだ。恨めしい。
フィオーレがあの時死んでくれていたらどんなに良かっただろうか。
兄としての、王太子としての威厳や誇りをあいつに全て奪われたんだ。
恨んで当然だろう。
最近は2日に1回もアリア嬢に会いに行っている。
その度に私はあいつの惚気話を聞かねばならん。
腹立つ。本当にあの時死ねばよかったのだ。
カレイドと幸せな日々を過ごすのにあいつフィオーレは邪魔でならん。
どこかで上手く消えてもらわねばならんな。
しかし殺してもまたカレイドの妹に生き返されるだけ。
確かアマンテ嬢はフィオーレが好きなのだったな。
上手くそそのかせば良いだろう。
カレイドには悪いが、アリア嬢とフィオーレには消えてもらおう。
2人の会合
あのパーティから6年後、いよいよ成人式間近となった今、
ファンゴ殿下はアマンテを部屋へと案内した。
そこで秘密の会合が行われるそう。
有能なスパイを二人につけておいて正解だったわ。
作中には書いていなかったけど、フィオーレ殿下を見る目が恨みこもった目だった。
なにか相当な恨みがあるのだろう。そう思い、二人のスパイを雇った。
こっそりと2人の日記を持ってきてもらったの。それが大正解。
すごい恨みの言葉が書き込まれていた。
その日記に今日のことが書かれていたからまさかと思ったけど、そのまさかだったわ。
あの2人が集まった理由としては、もちろん私の殺害。
二人は私を殺害するのにどのような手段を使うのかしら。
スパイが会話を録音してくれると言ってはいたけど...。
そもそも信用できるかもわからないしね。
と思って変装して彼らの席の近くに来てみたけど...。
馬鹿にもほどがあるんじゃないかしら。
盗み聞いた会話がこれだ。
アマンテ「ファンゴ殿下はアリアを消したいのですね?だったらもちろんご協力します。もうすぐ異能封じの呪縛も溶けますし。」
ファンゴ「ああ。助かるな。だが、異能は必要ない。お前がやったとバレてしまうだろうからな。」
ア「あら。アリアを消すのに異能は必要なのではありませんか?」
ファ「物理的に消す必要はないぞ?アマンテ。」
ア「?」
ファ「まあ良い。とりあえずこれを明日家に来る黒服の女に渡せ。合言葉はハムスターだ。」
ア「了承いたしましたわ殿下。お任せくださいまし。」
合言葉ハムスターって...。
もういいわ。明日の朝早くにスパイを送ってあの書類を奪ってやろう。
そうしたらできないよね?暗殺。
彼らには楽しく牢獄人生を送ってもらわなくてはならないわね。
スパイからの知らせ
スパイ「アマンテ様にファンゴ殿下が告発されました。」
次の日、今か今かと報告を待ちわびていた私に、スパイがものすごいことを言った。
は?としか感じなかった。二人は仲間なんでしょう?なんでお互いを告発...?
スパイの話によると、彼女が封筒を受け取りに行った時、うっかり中身を落としてしまったそう。
それを見たアマンテが信じられないと言い、保安衛兵部を呼びつけたと。
スパイ「ちらりとしか内容は見ておりませんが、こういうものでした。」
『一週間後、オモルフォス・アリア嬢・サウバー・フィオーレ第2殿下・シュヴァルス・アマンテ嬢の毒殺を命ず。』
スパイ「毒も同封されておりました。こちらが解毒剤の作り方と、毒の種類です。」
と渡されたものは、鈴蘭の毒だった。
それ以上は報告はございませんと言い、足早に部屋を去ろうとするスパイに、
ちょっとお待ちになって。と言い、これをフィオーレ殿下へ。と一通の手紙を手渡した。
ついでに明日会うから渡してなかったらわかるわよ。と付け加えて。
私の異能でフィオーレ殿下以外には封が切れないようになっている。
アマンテは別に知ってるからいいけど、フィオーレ殿下は暗殺のことを知らないから知らせないといけない。
それに幸せになるにはフィオーレ殿下が必要だしね。
明日は殿下が会いに来るから殿下がくれたドレスを着なくちゃね。
ピンクでふわふわのバラ柄ドレス。
ちょっと派手な気がするけど、そんなものなのかしらね。
スパイの人は明日にはファンゴ殿下を捕らえに行くようだ。
とっても仕事が早いのね。
さあ、明後日は成人式だし、早く寝ようかな。
忌々しいファンゴ殿下.....♡(アマンテ)
あぁ。本当に忌々しい。脇役の分際であたしを利用しようとするなんて。
あぁ。本当に腹立たしい。悪役令嬢の分際で聖女になりやがって。
あぁ。本当にお美しい。銀の髪を風になびかせて。
あぁ。本当に可愛そう。ヒロインなのに悪女にされちゃって。
ファンゴ殿下もちょっとはかっこいいと思ったのに。
悪役令嬢アリアには消えてほしいけどフィオーレ殿下まで、
そしてこのあたしまで消そうとするなんて。
信じられないわ。ほんっと信じられないわ。
せっかく告発したのに証拠がないから無罪になりかけている。
くそ。あの手紙を怒りでゴミ箱に捨てなければよかった。
さっさと罪人に成り下がんなさいよ。
そうだ。一緒に内容を見た女。あの女、結局殺し屋じゃなかった。
何だったの?まさかアリアやフィオーレ殿下のスパイじゃないでしょうね?
計画がアリアにバレたり、フィオーレ殿下を殺そうとしたと知ったら...。
たっっだじゃおかないわよあの男め。
これでフィオーレ殿下に嫌われたら...たら....。
嫌だ!そんなの耐えられない。だめ。だめよ。
あたしが嫌われたらこの物語が崩壊しちゃうわ。
根っからの令嬢になろうと頑張っているのに。
なのに.....。あの事件が恋路の邪魔をして彼と引き離してしまう。
やっぱりアリアがいるからあたしの新しい人生が狂うんだ。
前世だってそうだった。希帆に人生を全て狂わされた。
万引きしたって嘘を言われて退学が決まったその日に私は死んだ。
希帆も道連れにしたわ。睡眠薬を飲ませてやってね、屋上から突き落としてやった。
やっぱりアリアは希帆なんじゃないの?同じタイミングで死んだから同じ世界に転生して?
アリアは幸せな人生を歩んでて?あたしは奈落に落とされるの?
おかしいでしょ?100%おかしいでしょ?
あたし....この世界でもいじめられて幸せになれずに終わるの?
また?罰せられるべきは希帆でしょ?
いや。まだ希帆と決まったわけじゃない。
決定打を得るには、なにかかまをかける材料が必要ね。
前世で彼女が好きだった人を言ってやろうかしら?それとも手紙で?
ふふふ。良いわ。良いじゃない。暴いてやるわ。悪役令嬢の事情を。
あたしは、早速準備に取り掛かった。
お茶会を開き、それの招待状を送り付けた。
一人で来れるように一人分だけのチケットを。
それから、私を取り巻く女の子たちもね。
歩く噂スピーカーになってもらわなくちゃならないわ。
あぁ。今から楽しみだわぁ。あの女の正体は何なんでしょう。
早くこないかしら?お茶会の日が。
何なの?
はぁ?何なのこれ。
いきなりお茶会の招待状送ってきてくれちゃって。
公爵令嬢の私と仲を深めたいってわけ?
今更?本当に何なの?
私の正体に気づいたとか?でもそれって私の性格を知ってる人しかわからないよね。
ってことは萌?萌キュンがアマンテなの?
どうしてまた....?
復讐?だとしたら殺す方が手っ取り早くない?
じわじわと痛めつけるため?
ううん。萌キュンは頭悪いからそんな事考えもつかない。
もし、萌キュンが私の正体を暴こうとするなら、
私だけが知っていることを話しかけてくるだろう。
反応しなければいいだけだ。せっかくこの世界を楽しんでるのに邪魔されてたまるか。
お茶会は成人式の3日後。それまでにしっかりと準備してあげる。
待ってなさい。アマンテ。今度こそ最後までいじめ通してあげるから。
そう思いながら眠りについた。明日は成人式。楽しみだわ。
今日はいよいよ成人式だ。
私は成人式の日、お母様が特注で仕立ててくれた薄浅葱色のレースのドレスを着た。
そのドレスは、誰が見ても息を呑む美しさだった。
金のウェーブがかった髪を編み込みお団子ハーフアップにして、ドレスに合う美しい髪飾りをつけた。
セットをしてくれたメイドさんが目をキラキラさせて、美しい美しいと褒めてくれた。
仕上げにこの国にしかないジュエリーミストをかけた。
ドレスがよりキラキラと輝き、メイドさんは気絶しそうです〜。だそう。
私は、成人式の会場である王宮へと向かった。
王宮につくと、アマンテはもう来ていた。
フィオーレ殿下の隣に腰掛けている。反対側には、その取り巻きがいた。
そんなアマンテたちの隣でフィオーレ殿下は小刻みに震えていた。
婚約者なんだから挨拶くらい...と思い、彼に近づくと、彼は勢いよく立ち上がり、私の隣に来て、待ってたよと言わんばかりに私の腕を取った。
私は、悔しがるアマンテにニッコリと笑い、遠く離れた真ん中の一番前の席へ座った。
アマンテがスクっと立ち上がり、フィオーレ殿下の隣にドカッと座った。
アマンテ「フィオーレ殿下っ、ご存知でしょうか?アリアって好きな男の人がいるのですよ?」
急激にに顔を近づけ、ドン引きするフィオーレ殿下に、甘ったる〜い声で話しかけている。
萌キュンの得意技だ。これでクラスの3人くらい堕ちた。大体は私に恋してたらしいけど。
フィオーレ殿下は、咳払いをして、アマンテを現実に引き戻す、冷たい一言を放った。
「それは私のことだろう?そんな事百も承知だ。わざわざありがとう。より、愛を深めることができそうだ。なぁ、アリア。」
きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
格好良すぎる!アマンテのことも忘れて彼とお話をしていると、アマンテが怒ったように強い口調で話した。
「最近ファンゴ殿下はカレイド様よりも私に興味を持たれてるって噂。ご存知?昨日だって朝までずっと一緒にいたのよ?」
私がカレイドお姉様はファンゴ殿下に昨日も会いに行って、今日のお昼に帰ってくる予定なのですが?
と言うと、アマンテは、ゆでダコのように真っ赤っ赤になり、前を向いて黙って座っていた。
まだそこに居座るつもりなのねアマンテ。なんて根性。
アマンテったら並じゃないわね。
普通の令嬢ならこんな事されたら恥ずかしくて帰ってしまうけれど...。
アマンテはやっぱり萌なのかしらね。それだといいな。
アマンテを踏み台にして私が上に上がる。
あぁ。アマンテ、貴女を立派な悪女に仕立ててあげるわ。
もう準備はほぼ整っている。後は、仕掛けるだけ。
さあ、仕掛けるのはこの後のパーティー。
底なし沼の始まりよ。
パーティーで
成人式が終わり、今回成人した貴族の娘や息子が参加するパーティーへ。
小説のとおりに進めたいアマンテならここで私を突き落としに来るはず。
そこを狙って逆に突き落としてやる。ほら、きたきた。呑気なアマンテ。
手には赤ワイン...ではなくぶどうジュース。でももう片方はワインね。
私がまだ成人していないアマンテに飲ませたとでも言うつもりなのかしら?
そんなわけ無いか。だとしたら馬鹿すぎる。
「こんばんは、アリア様。」
アマンテに声をかけられた私はニッコリと笑って振り返った。
ワインを私に渡し、さっきは申し訳ありませんでした。と言った。
私は、しっかりと反省してくれているんだ。意外だな。と思い、ワインを口に運んだ。
ワインを飲んだ瞬間だった。頭がクラクラとしだし、その後のことはよく覚えていない。
次の日、ベッドの上で目が覚めた。
メイドたちが部屋を掃除している。何故か床に水とガラスと花が飛び散っている。
「何が起こったの?」とメイドに聞くと、酷く怯えながら、
「申し訳ございません。どうかお許しを....!」
と土下座をしてくる。なんで?どうしたの?と聞こうとした時、一人の執事が入ってきて、
「お、お嬢様...公爵閣下が御呼びでございます。」
私はドレスに着替えると、公爵の部屋へと進んだ。
「お待たせいたしました、お父様。」
そう言って部屋に入ると、公爵がこちらを向き、ため息を付きながらこう言った。
「どうやら正気に戻ったようだな。」
正気とは?と首を傾げると、覚えていないのか?というように公爵が私を見た。
「アリア、お前は昨日のパーティで暴れたのを覚えていないのか?」
暴れた....!?私が!?
何故暴れたのか思い出せない。一体何故...?
これはお叱りということなの?
今まで積み上げてきたイメージヒロインらしさ(大したことなかったけど)が一気に崩れ落ちた気がする。
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ......。
これはバッドエンド確定だ。終わったんだ。
これから衛兵が来て私の両腕をガッチリと掴み部屋から引きずり出して牢屋にポイ....と。
「........のか?聞いているのか!?アリア!!」
お父様の声ではっと我に返った。
「あ......申し訳ありませんお父様。ちょっと考え事をしておりましたの。」
うつむいて震える私を見て、お父様が大きくため息を付き、もう一度言うぞ。もう聞き逃すな。と言った。
「最近大人しく過ごせていたお前が暴れるなんて、と思って精神科医を呼んだんだ。ワインを飲んだ後暴れ出したと聞いたが?」
精神科医ぃぃぃぃぃぃぃ...酒癖が悪かっただけなのきっと!
精神科医を呼んじゃったの!?うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
精神異常者みたいになっちゃうじゃん。もう泣いちゃうよ?
嘆いていると、お父様が話を聞けとでも言うように睨めつけてきた。
「あのワインは誰からもらったものなのだ?」
ほんっとに蛇に睨まれた蛙状態。怖くて、動けなくて、嘘もつけない状態。
「あ...あの...私...えっとぉ...」
ちょちょちょちょちょ!?何いってんの私!『えっとぉ』って......。
もうここで殺されるのかな...私。幸せな人生ではなかったけど、まあまあ楽しかったよ。
ありがとう神様。
え?私じゃ...ない?
「早く言え。誰がワインをお前に渡したんだ?」
「ア...アマ...アマンテ...が...」
はっと気づいた。もしも根っからのヒロインならば、ここで彼女は悪くないと言うはず。
きっとワインの中になにか危険なものでも入っていたのだろう。
「お父様っ!」
私はニセの涙をポロポロとこぼしながら精一杯の声で叫んだ。
「アマンテが私わたくしに何かやったわけがありませんわ。アマンテは何も悪くないはずです!」
ニヤけをこらえるのが大変だぜ全く。お父様になんとかいい子イメージをすり込まないと。
「だいたい察しはついているのです。私のワインになにか入っていたのでしょう?お父様。でも、もし本当に彼女なら毒物を入れずに、異能で私の命を奪いに来るはずなのです。彼女の異能である奪う能力を使えば私のすべてを奪うことさえできるのです。それなのにわざわざ毒で殺そうとするなんてとても考えられません。」
笑いを堪えるために早口で一気に喋り終えると、苦しくて涙が出てきた。息がうまく吸えなかったのだろう。
「気づいていたんだな?だが...ワインに入っていたのは毒ではなかった。」
お父様が頭を抱えこんでいる。
「あの日お前のワインに入っていたのは.......」
「ナツメグだ。」
ナツ...メグ...。
お父様が言うには、症状は、動悸、顔面の紅潮、場合によっては吐き気を催す。
そして、最も特徴的なのが精神的な症状。 幻覚や、得体の知れない不安感......。
あんれ...まあ...。
ナツメグさんが犯人だったの?いいえ!犯人ではないはず。
誰かが入れないと......っていうかワインにナツメグって相性悪すぎ。
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあん?
もう私の中ではアマンテ確定だけど。
仕方無しに黙っておいてやろう。いつか証拠を掴んで皆の前にさらけ出してやるから問題なーい!
それまでせいぜい逃げ隠れなさい!この私から......ね。
まさかそんなわけがない(アマンテ)
今朝あたしらの屋敷に衛兵が来て、色々な部屋を漁っていった。
まさか...もうナツメグがバレた?フィオーレ殿下と一緒になるためには仕方ないことなのよ。
でも、もう大丈夫。ナツメグの量はもとに戻したし、元から民衆や貴族にアリアを怖がらせるためだったし。
瓶は料理長の部屋に返しておいたし。見つかったとしてもただの香辛料。
きっとバレることはないわ。念入りに指紋は消したけど、もし残っていても特定はできない。証拠がないから。
昨日、たくさんのメイドたちの前でハンバーグを作ったし。メイドの証言さえあればあたしは無罪放免。
我ながらいい感じ。
「ヴェリティ、例の鏡を持ってきて頂戴。」
あたしはメイドのヴェリティアンヌ(ヴェリティ)に魔法の鏡を持ってくるように頼んだ。
白○姫に出てくる鏡よりも高性能。追跡に録画、編集もできる。
ちょうど気に入らなかった生意気な料理長が宮廷にいるから、そいつをあたしの姿に合成した。
「いい感じね。うまく合成できた。ふふふっ、今に見ていなさいアリア嬢!!!」
「あの...お嬢様?アリア嬢って公爵令嬢のアリア様のことでしょうか...?その...合成ってまさかお嬢様なにかしたんじゃ...!」
気持ちよく叫んだところでメイドのヴェリティがドアから顔をのぞかせていった。
ヴェリティ、気に入ってたんだけどなぁ。聞かれちゃったら処分しないと。
「ねえ、ヴェリティ?ちょっとこちらへいらして下さる?」
殺意むき出しの私に気づいたのか、震えながらうつむいてやってきた。
「も...申し訳...あ...ありません....お...お嬢様。」
あたしはヴェリティの頭に指を突きつけ、奪え。といった。
記憶をなくした気分はどうかしら?ヴェリティ。
「どう?すっきりしたといいんだけど。」
「おじょーさまぁ、ありがとおございますぅ」
記憶を奪った後の症状が出てしまった。出ない人もいるけど、ヴェリティは出るタイプなのね。
「さあさあ、私にお茶を運んでいらっしゃいヴェリティ。」
「はぁーい、おじょーさまぁ」
はぁ〜。彼女が部屋を出ていったあとに出るため息は、これまでついた中でも一番大きいものだった。
「なんであたしがあんなメイドの世話なんか...。」
『ガタンッ』
「!?」
外で大きな音がなった。まずい。いまのを聞かれてはいけない!
バーンという大きな音を立て、部屋の戸を開けると、ちょうど曲がり角のあたりで水色の長髪が見えた。
ふふふっ、覚悟しなさい。この屋敷で水色の髪のメイドは一人しかいないっ!
ニィっと口が歪むのが自分でもわかった。きっと興奮してるんだわ。
バッと振り返ってメイドの部屋へ行き、ドアをバーン!と開けた。
......いない。ここの角を曲がると後は...5年前に行方不明になった妹の部屋だけ。
まさか...と思ってドアを開けると、そこにはお母様と、ドレスを身にまとった女がいた。
「お母様?その...その女...。」
あたしはあっけにとられて動けなかった。
そこにいる女は、ついさっきまであたしのメイドだったヴェリティアンヌだったのだ。
「お姉様...!」
女はあたしをお姉様と呼び、こちらへ歩み寄ってきた。
「私、お姉様のおかげでヴェリテを思い出しましたの。」
あたしの...おかげで?信じられないわ。
まさかそんなわけがないわ。あたしに妹が戻ってくるのはファンゴ殿下と結婚した後のはずよ。
まさか記憶を奪う時に...何か他のことを...?
まずい。"外伝"に繋がってしまう!
外伝ではファンゴ殿下と結婚した後の物語が描かれている。
簡単に説明すると、アマンテの妹が返ってくるのだ。
その後、妹である...名前が思い出せない。ヴェリテ?だっけ。フランス語で真実という意味よ。
まさか...ヴェリティアンヌは偽名?じゃあ...今までの行いも全部...?
完全に妹に対するいじめじゃない。完全に悪女の道程を歩んじゃってるわ。
クッソが公爵令嬢め。私の能力を返しやがれ。
あんな事件を起こした後だから暫くは大人しく過ごしてくれるはずよね。
お茶会まで後3日。絶対にお前の正体を暴いてやるからな。
お茶会で
今日はいよいよお茶会だ。
きっと噂好きの下級貴族でも連れてきて、私の嘘でも皆に広めるつもりだろう。
はぁ、ムリだって。アマンテには。
用意は終わったし、行ってやるか。こちらもアマンテを陥れる方法と相手の陥れを逃れる方法を考えなくちゃ。
今日のお茶会では回避に専念しましょう。
今回はどんな手で来るかな?足踏まれたフリでもする?
だとしたら可愛いもんね。
「お嬢様、馬車の用意ができました。」
メイドがわざわざ私を呼びに来てくれるようなこの生活...。
逃す訳にはいかないわ
『ガタガタ...ガッタンガタガタ...』
「うぅ...いつになったら着くのよ」
「お嬢様、馬車酔いですか?会場までは後10分ほどですが...酔い止めの薬はいかがでしょう?」
「いただくわ。」
相変わらず馬車って激しい。小石を踏むたびにガッタンガッタンと大きく揺れる。
「どうぞ、お嬢様。」
メイドが私に酔い止めをくれたが、とても落ち着きそうにない。
『ガン!』
「キャッ...!」
大きい石を踏んでしまったらしい。大きく馬車が揺れた。
メイドが私を心配そうに見ている。本人も気持ち悪いだろうに。
ありがとうね、メイドさん。お茶会が終わったらドレス買ってあげる。
「あっ...お嬢様!着きましたよ!ここがシュヴァルス男爵邸です!」
「ふ〜ん...」
うちの2分の1ぐらいの大きさ。公爵と男爵の大きな違いね。
私は馬車が止まったのを確認して立ち上がり、馬車から降りた。
「いらっしゃいませ、公女様。今回ご招待させて頂いたシュヴァルス・アマンテにございます。こちらへどうぞ。」
礼儀正しく挨拶ができるようになったのね。感心しちゃう(笑)
私が閉じた扇子を口元に当て、お辞儀するアマンテを見下ろすと、アマンテと目があった。
唇をギュッと結んで、私を睨めつけた後、すぐにさっきの笑顔に戻り、こちらへどうぞ。と案内した。
お茶会はもう始まっていた。その時アマンテが口を開いてこう言った。
「...お茶会は...お茶会は1時間ほど前から開会しておりましたの。なかなか公女様がいらっしゃらなくて...とても心配したのです!」
涙が少し出ていた。震えてもいる。フッと笑みがこぼれた。そういうこと...ね?
「心配してくださって...本当にありがとうございます。ですが...その...私のお茶会の招待状に、お茶会の開始は...10時から、と記載されていたのですが...」
「─っ!」
アマンテの顔に苛立ちが見えた。いい子ぶってると思っているのだろう。
「こちらが私に届いた招待状ですの」
私は貴族令嬢の方々に招待状をお見せした.........!
「あら?本当ですわ。10時からになってますね。」
一人の令嬢の言葉に少し眉間にしわを寄せたアマンテ。止めを刺すときだ。
「もしかして...アマンテが...?来てほしくなかったなら招待状を送らなければよかったのに...。」
アマンテは苛立ちに震えていた。そして口を開いて叫んだ。
「ちっ...違いますわ!あぁっ!公女様は私のことを陥れようとしているのですか!?だからこんなことを...それとも遅れた言い訳ってわけですか?修正ペンでも使ったんでしょどうせ!私はそんなこ...と...。皆様...どうされましたの?そんな目で私を見て...まさか皆さんも私が悪いとお思いに...!あぁっ!何たること!」
ついに狂ったようだった。そこまで酷いこと言ってないけど。元々精神は弱い方だったからなぁ。注意しなくちゃ。これからは。
「あの..修正ペンとは...?」
一人の令嬢が申し訳無さそうに聞いた。やったわ。私が先に証拠を掴んだ。
あんたはアマンテではなく萌
お茶会で(アマンテ)
あの女が到着する時間はそろそろなはずだ。
10時と招待状に書いてやったからね。
あ...ほら来た。あはっ、無様ね。
あんたにそんなドレスは似合わないって。ましてやフィオーレ殿下の隣に座る者にはね。
それに比べてあたしのドレスは...あぁ、なんて素晴らしいんでしょう!
お父様に無理いってダイヤモンドが散りばめられているドレスを買ってもらったのよ。
私の勝ちね。
あたしはお辞儀をした。
本当はこんな女のためにお辞儀なんてしたくなかったけど、お母様の目もあるしね。
「こちらへどうぞ。公女様」
あたしはアリアをお茶会会場へと案内した。
さあ、ショータイムの始まりよ!
「...お茶会は...お茶会は1時間ほど前から開会しておりましたの。なかなか公女様がいらっしゃらなくて...とても心配したのです!」
目をウルウルとさせながら、震えてもいる。最高に可哀想でしょ?
そう思ったのに。あの女ったら小さく笑ってやがる。
「心配してくださって...本当にありがとうございます。ですが...その...私のお茶会の招待状に、お茶会の開始は...10時から、と記載されていたのですが...」
「─っ!」
なんですって!?そんなこと今言うの!?はぁ!?
イライラする!せっかくいい子ぶれてたのに!
「こちらが私に届いた招待状ですの」
は、はぁ!?今見せるの!?ちょっと待ってよ!そんなの...だめ...。
「あら?本当ですわ。10時からになってますね。」
一人の令嬢がそう言った。まずい。こんなことでこの人生終わりにしたくない。
いや...いやだ...絶対にいや。嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌何があってもいや!
「もしかして...アマンテが...?来てほしくなかったなら招待状を送らなければよかったのに...。」
あたしは苛立ちに震え、もはや涙も悔し涙へと変わっていった。そして堪えきれなくなってしまった思いを口を開いて叫んだ。
「ちっ...違いますわ!あぁっ!公女様は私のことを陥れようとしているのですか!?だからこんなことを...それとも遅れた言い訳ってわけですか?修正ペンでも使ったんでしょどうせ!私はそんなこ...と...。」
皆があたしを軽蔑の目で見ている。皆あたしが悪いってわけ?アリアは聖女ってわけ?ねえ、答えなさいよ。主人公は幸せになるっていうのが小説の掟でしょう?
「皆様...どうされましたの?そんな目で私を見て...まさか皆さんも私が悪いとお思いに...!あぁっ!何たること!」
なんでっ!なんでいつもあたしばっかりこんな目に合わないといけないのよ。
ねえ、ねえ、ねえ、ねえ!ふっざけんなよ作者、あたしは主人公じゃねぇっていうのかよ。
あいつが主人公だっていうのかよ。悪女のくせにぃぃぃぃぃぃぃ。
「あの..修正ペンとは...?」
一人の令嬢が申し訳無さそうに聞いた。
あ。やっちゃった。
「これはもう、暗殺するしかないか☆」
フィオーレ殿下からの便り
お茶会を終えて、部屋に戻った私は、ベッドにもたれかかり、一息ついていた。
「ひとまず証拠ゲットね」
喜びに満ちた表情で横たわる私にメイドがやってきた。せっかく休んでたのに。いい度胸ね。
「お嬢様、お手紙が届いております。ご確認ください。」
「はぁ、見てほしいなら早くここまで持ってきて頂戴。」
ムカつく...でも当たり散らすと評判が落ちるよね。我慢しなきゃ。
「ごめんなさい。ちょっと疲れていて当たり散らしてしまったわ。」
「言えっ!そんな事ありません!私は全然平気ですよ。」
「ありがとう。」
自然と気持ちも落ち着いてきた。よかった。
安堵のため息を漏らしながら、手紙を開けた。差出人は...フィオーレ殿下!
あぁ、最近会えてなかったもんね。寂しいな。
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オモルフォス・アリア嬢へ
愛しいアリア、先日はありがとう。
父上に報告させてもらったよ、毒見係がついてくれるようだ。
恐ろしいこともあるものだ。兄上とアマンテ嬢がこんな事をしようとは...。
父上は兄上と隣国の王女の婚約を取り消し、私と婚約させるつもりのようだ。
だが安心してくれ。あの女と婚約だなんて死んでもお断りだ。
私にとって隣国の王女はヨモツシコメ。
私にとってアリアは女神アフロディテ。
何があっても君を愛すると誓おう。
話は変わるが、シュヴァルス家の次女であるヴェリテ嬢が戻ったようだ。
これで少しは状況が落ち着いてくれると良いと思ったが、どうやら外れのようだ。
アマンテ嬢がヴェリテ嬢に対して強い憎しみを抱いているそうだ。
いじめられてる、と先日救いを求めて神殿にやってきた。
だが、彼女の目には深い闇を感じる。十分に気をつけてくれ。
最後に、愛してるよ、アリア。今度ヴィサリアーテ(避暑地)にも一緒に行こう。
素晴らしい宮殿があるんだ。君のために予約もしたんだ。
絶対に行くからな。今度迎えに行く。
それまで楽しみに待っていてくれ。
ザウバー・フィオーレ
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きゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ!女神アフロディテだって!
世界一美しい女神の名よ!そして「何があっても君を愛すると誓おう」ですって!
ふふっ、恥ずかしげもなくこんなことを仰るなんて...もう!殿下ったら。
嬉しくてニヤけちゃうじゃない。ふふふっ、殿下ったら。
今度プレゼント送ろっと。何がいいかしら。
やっぱりブローチ?うちの家紋を入れて渡そうかな。
っていうか、妹?アマンテに妹なんかいたっけ?
ヴェリテって真実って意味だよね...。
何の真実?まさか...本当の主人公だったりして。そんなわけ無いか。
どっちにしろ一度会ってみたいわね。
招待状を送りましょう。初めだから大規模なパーティーがいいかしら。
そこでさり気なく会話に誘う?それがいいかな、初対面だし。
となると...一番近いパーティーは、建国祭になる。
全貴族が招待の対象になるからヴェリテも来るはず。
仮面舞踏会だから詳しい顔は見られないけど、収穫は十分にあるはずだ。
よし、準備に取り掛かろう。まずはドレスだ。
この国一番の有名なドレスブランドは「Belle」ね。
色は...ピンクかな。薔薇の飾りをつけたいな。
あぁ〜!ワクワクする!どんな子なのかしら?
私と同じ策士かしら?アマンテと同じ考えなのかしら?
早く会いたいな。今から楽しみ。うまく利用できそうなら、そうさせてもらうわ。
ついに...!建国祭がきた!
「よし、準備は完璧よ。さあ、行きましょう。」
金とダイヤの散りばめられた仮面とピンクのバラ付きふわふわドレスを身にまとい、ヴェリテの待つ会場へと出発した。
・
・
・
相変わらず馬車酔いは激しかった。
おぇぇぇぇっ、きっもちわるぅ見てよあれ!
アマンテがこっちに走ってきてるんだけど。まさか!私と一緒の馬車に乗っているフィオーレ殿下の元へ来た!?
「殿k...」
「殿下ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
アマンテがフィオーレ殿下の胸元に飛び込んだ。...と思ったら次の瞬間弾き飛ばされた。
フィオーレ殿下は道端に落ちている食べかけのバナナでも見るような目をしてアマンテを見た。
キッと顔をしかめてアマンテが彼を見た。そして私に気が付きこちらを見た。
「あら?公女様ですか?ピンクの紳士服なんて彼には似合いませんわ。サファイアブルーが良かったのでは?」
そう言ってくるっと回り、風に髪をなびかせた。上目遣いにこちらを見るそばかす顔は、綺麗とは言えなかったが、愛らしいものがあった。
だが、私達二人には、嫌悪感しかなかった。
「何だと?私のために用意してくれたものにそんな事を言うのか?私にはピンクが一番似合うのだぞ!」
「殿下、そんな事を仰らないで下さいな。私に洋服のセンスが無いのは本当です。確かに...サファイアブルーのほうが...っ。」
悔しいけどこれは本当だ。私に服を選ぶセンスはない。しかし、このチャンスを利用して私を聖女っぽく見せたほうが、怒るよりもずっといい。
「良かったな、シュヴァルス嬢。私一人だったら剣で切り裂いていたかもしれぬ。貴様のドレスをな。」
「ちっ、違います殿下っ!違うんです!ただ...ただ私は貴方様に似合う色を...」
「私に似合うのはピンクだ。」
ちょっ、そんな自慢げに私を見ないでくれる!?キラキラしてるんだけど!
「アリア!私はピンクが似合うしピンクが好きだぞ!この女のことは気にするな!」
そんな顔でピンクピンク言わないでよぉ〜
「ありがとうございます。殿下」
赤く染まった私の頬に、フィオーレ殿下がキスをした。
「でっ...殿下ぁっ!?」
「な、なんでもない...行くぞ!」
照れてる〜。しかもツンデレ系のイケメン!最高すぎて鼻血ブーなんだけど!
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!かわいぃ〜!
んん〜!イケメンってさ、大変だよね。ちょっと照れるだけでも皆にキャーキャー言われちゃうんだもん。
照れた殿下に手首を強く引いていかれながら私はパーティー会場に入っていった。
「父上!母上!兄上!見てください、私の婚約者です!また一段と美しい。」
こんなにはしゃいでる姿は久しぶりに見た。
7歳のときにゴキブリを見つけて新種発見!なんて言ってはしゃいでいた時以来ね。
それはゴキブリだとメイドが言ったらすっごく落ち込んでたっけ。
「ふふふっ」
「?」
「...。失礼。ごきげんよう、皆様。今宵はお招き頂き、ありがとうございます。」
そう言って片足を後ろに引き、お辞儀をした。
そして、お辞儀をし終わり、前を向いた私を見てから、フィオーレ殿下がこう言った。
「父上!もう成人したのですし、よろしいでしょうか?きっとアリアの美しい姿を見れるでしょうし。」
陛下は うーん... と言ってからこっくりとうなずいた。私は、それが何を意味するかいまいち分からなかった。
うなずいたのを見て、彼の表情はパァッと明るくなり、私の方を見てほほえみ、ひざまずいた。
この流れはぁ〜、前にもぉ〜、見たんですけどぉ〜。
もしかしてぇ〜、プロポーズだったりぃ〜、しますかねぇ〜。
「オモルフォス・アリア公爵令嬢、どうか...どうか私と...婚約破棄してください。」
.........は?
「オモルフォス・アリア公爵令嬢、どうか...どうか私と...婚約破棄してください。」
.........は?え?なんで?
「申し訳ありません。言っている意味が...」
「ーっ、アリア!違うっ婚約破棄なんかするな!いいか!そんなこと私は望んでないっ....俺はアマンテ男爵令嬢に心奪われた。婚約破棄を考えておくがいい。悪女、アリアよ。」
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なになになになに?今何が起こってる感じ?
私と婚約破棄する?嘘だ。それに...悪女ですって?おかしい。この世界に来てから私が悪女のように誰かをいじめたことなんて一度もなかった。
しかもできるだけ可哀想な子を振る舞っていた。それに彼は俺なんて言わない。
陛下だってこんなに慌てている。
「あ〜ら、可愛そ〜にぃ〜。フィオーレ殿下に嫌われてしまったのね。悪女・・さん♪」
「ーっ!」
アマンテだ。明らかに嘲っている。ここはやっぱり可愛そうと思わせてから、本物を出しましょうか。
私は口元を隠してしゃがみ込み、精一杯あくびをして、涙を流した。
「あらぁ?泣いちゃったのぉ?ねえ、ねえ、ふふふっ。悔しいでしょう?希帆ちゃんヴァンパイアさん、あたしなんかに愛しの殿下が取られちゃったよ?いいの?」
そう、耳元で囁いた。
「そんなわけ無いわ。いつもそばにいた私だからこそわかるのよ。フィオーレ殿下は『俺』なんて言わないわっ!」
ホール内に長い長い沈黙が続いた。そして、私は涙ぐみながら言った。
「...じない..。信じないわ!彼の気持ちを奪ったって無駄なのよ。わかるでしょう?」
そういいながら立ち上がり、涙を拭いた。
「私に対する彼の気持ちを貴女が奪っても、彼は...彼は私に婚約破棄を望まなかった!」
アマンテに数歩近づく。
「貴女もお気づきでしょう...!?さっきの言葉。『違う。婚約破棄なんかするな。そんなこと私は望んでない。俺はアマンテ男爵令嬢に心奪われた。婚約破棄を考えておくがいい。悪女、アリアよ。』と。今までで私を悪女だと罵ったのは、アマンテ、貴女しかいなかったわ。」
アマンテがたじろぎ、数歩後ろに下がる。
「貴女は成人の日、私から何かを奪おうとして『奪え』と叫んだのよね?そしてフィオーレ殿下の命を奪ったのよね?あれ、本当は私を狙ったんでしょう?」
アマンテはギュッと目をつぶった。私が手を上に振り上げたからだろう。
「アマンテ、今なら遅くないわ。」
「うっ...五月蝿いわよ!いい子ぶってるってわけね!?お茶会のときも私をハメようとわざと遅れてきたでしょ!」
私は殴りたいのをグッと我慢して、アマンテを抱きしめた。何が起こっているのかわからないという様子だ。
「私が怒る前に彼を返しなさい、萌。さもないと、地獄を『与える』わよ。」
今度は私が耳元で囁いた。震えている。
「申し訳ありません。公女様......。」
「謝罪はいいから早く彼を元に戻して頂戴。直ちに...よ。」
アマンテは震える手で彼に心臓のあたりに手を当て、「帰れ。」と、静かに言った。なるほど、返せるのか。
「...っうーん...ア、アリア?」
「フィオーレ殿下!」
私は彼に喜びのダイブをした。そういえばハグするの...初めてだったかも...。
「アリア、どうか...私と結婚してくれ。もう...君なしじゃ生きていられない。」
「ふぇっ!?」
勢いで抱きついて、プロポーズされて、そのまま離れづらくて真っ赤になってる私に、ある一人の女が言った。
「きゃぁ〜!ほんっと素敵!あたしね、こういうラブストーリーだぁ〜い好きなの!マジ尊いっ!」
「...。」
何なのこの子。そう思って振り返ると、憧れの表情に満ちたアマンテ2号が立っていた。
「アリア様ですよね!?あっ、握手!握手お願いします!」
水色の美しい髪をなびかせているアマンテに似た少女。きっとこの子が...。
「貴女は...シュヴァルス・ヴェリテ嬢?」
「いいえ〜。私は綾子ですよ〜。松浦綾子、16歳で〜す!どうぞあやたんって呼んでくださ〜い!」
あや...綾..子...か。妙に日本人じみた名前ね。
「貴女...もしかして日本人だったりする?」
まさか...彼女も転生者なんじゃ...?だとしたら...味方につけておかないと。アマンテ信者だとこっちに被害が及ぶ可能性もある。
「!...よくご存知なんですね!そうですよ!日本が誇る、大和撫子やまとなでしこです!アリア様に出会えて幸運の極みです〜」
あ〜...ゴリゴリのアリア信者ね。この子は。
「あら...そう...。奇遇ね。私も貴女に会えて幸運だわ。」
だったら...味方につける以外ないわね。
「私の部屋にいらっしゃい。握手もその時に...ね。」
「〜っ!マジサイコーっす!ありゃたーっす!」
ガチで何なのこの子。調子狂うんだけど。っていうか、あの子には修正機能ないのかしら。言葉の。
「失礼、えーっと...あやたんさん?」
「はいは〜い☆」
本当に呆れるわ。私を誰だと思ってるの?オモルフォス・アリアよ?もうちょっと...はぁ。
「返事は一回で結構よ。」
「はいっ!アリア様!」
「行きましょうか。フィオーレ殿下、申し訳ありません。少しお待ちいただいても?」
フィオーレ殿下にも一応聞いた。
「ダメだ。まだ私のプロポーズの返事を聞いていない。」
ふふっ。確かにそうだわ。返事しなきゃね。もちろん...
「もちろん...受けさせていただきますわ。殿下。愛してます!」
顔を赤くしながらそう言って、私は綾子の腕を引っ張り、急いで部屋に向かった。
「ここよ。どうぞお入りになって。」
「ここがアリア様のお部屋ですか!すっご〜い!きれ〜い!」
静かにできないの?この子
「お静かになさってくださる?私、五月蝿いのは嫌いですの。」
「あぁっ!そうなんですね!気をつけさせていただきます!」
黙れや...。なんか懐かしいわ。前にもこんな人と会ったことある気がする。
「まあいいでしょう。それで?あやたんさんは日本から来たのね?」
「はい!ここがどこかは存じ上げませんが、車に轢かれて、気付いたら美少女になっていました!これって今流行りの転生モノでしょうか?」
そうだね。転生したんだね。なんだか5才児と話している気分だわ。
「そうだとしたらここはどこなんですか?あきらかに日本じゃないし、公爵〜とか男爵〜とかって今の時代ないと思うんですよね〜。周りの皆は日本のこと知らないって言うのに貴女だけは知ってるみたいで。貴女は誰なんですか?私と同じ転生者ですか?」
きっとそう。私も薄々気づいていた。あの時目覚めた時点で私は死んでたのだろう。
「どうかしら...?貴女の想像におまかせするわ。」
でも...何故死んだのかはわからない。私は持病持ちでも、酷いアレルギー持ちでもない。恨みを買った人物がいるとすれば萌一人。
「えぇ〜。教えてくださらないんですかぁ〜?希帆ちゃん♡」
「教える訳にはいかないのよ。」
たとえ誰であろうと私の正体は明かせない...
「引っかかったぁ〜!やっぱり希帆ちゃん!」
「え?」
どういう事?何で...。
「気づいてなかったの?昔っからそういうとこあるもんね〜、希帆ちゃん。」
さっきの...!『希帆ちゃん♡』!しくじった。正体がバレた。もう終わり。
「いいんだよ、希帆ちゃん!ってか...私のこと覚えてる?中学と小学一緒だった...2コ上の...綾子だよ?」
「綾子...!あやたん先輩!」
綾子は小学校に入って最初にできた友達だった。皆が私を避けていく中、彼女だけが私に『綺麗だね。』と言ってくれた。
高校は別になっちゃったけど、いつも好きな小説の話とかして盛り上がってたっけ。
そういえば...この小説も...あやたん先輩...貴女に教えてもらった小説...。
5歳児とか思って申し訳ありませんでした。
「先輩...死んでしまったのですか...?」
「まあね、半分自殺みたいなもんよ。」
「自殺ですって!?なんてことをなさるの!?」
「希帆ちゃんはさ〜、その喋り方どうにかならんの?」
私も先輩とは普通に話したいわ。
「どうにもなりませんわ。」
先輩が言うには、私は殺されたらしい。萌によって。
「睡眠薬が食事に混入してたらしいの。その後屋上からぽ〜いだって。本人から聞いたのよ?間違いないわ。」
「本人ですって!?どうやって...」
「まあまあ、それは置いといて、私はしばらく悲しくて泣いてばっかりいたのよ。希帆ちゃんとの思い出の本は全て捨てた。」
「捨てたですって!?勿体ないじゃない!」
「んもう!聞いてよね!そしたら、あの本。そう、ドリカムがね!机の上に乗ってたのよ。その本を開いてみると、なんと跡形もなく原作が消えてるわけ。アリアが希帆に似てるな〜なんてね!」
「なんで...。」
気づいたら水色の長髪美女になってたってわけよ!そう言うと、自慢げに笑って言った。
「希帆ちゃんには負けるわ〜。前世では儚さ、今世では美しさ、更に地位もね。」
「そんな...」
「それじゃ、行こっか。アリア公女様!」
そう言い、席を立って扉に向かった。
「こっからはアリアなんだから!貴族の威厳を保って頂戴!」
「パーティー、楽しかったですわ。ありがとうございます、フィオーレ殿下。」
「すまない...その...こんな事になってしまって...」
さっきからずぅ〜っとこの調子だ。いい加減戻ってくれないと狂いそう。
「仕方ないですよ、殿下。それに悪いのはアマンテ嬢ですわ!殿下はこれっぽっちも悪くありません。次誤ったら殿下の腰についている剣で刻みますわよ!」
はぁ〜...。まさかここまであの子が邪魔してくるとは思わなかったなぁ〜。
それに...ヴェリテ。いいのかしら。信頼の置ける先輩だからって連絡取り合ったりして。
ヴェリテって誰よ、そもそも。妹って言ってたけどそんな子、原作に出てこなかったし。
誰なんだろうか...一体...誰...?
「公女様。お客様が来られています。」
「誰?」
「シュヴァルス嬢でございます。」
先輩かな。萌はわざわざここになんて来ないでしょうし。
「お通しして差し上げて」
私はそう言い、立ってソファーへ移動した。先輩はソファーに座って本を読むのが好きだったはずだから。
『コンコン』
「どうぞ、入って頂戴。」
入ってきたのは、ヴェリテじゃなかった。アマンテだ。
「...オベリアの未来の月へご挨拶申し上げます。」
そう、私は未来の月。公爵家の跡取りは皆そう呼ばれる。理由は家紋にあるそうだ。皇室は太陽なのよ?
2つの家紋が国を支えてきた証拠...。
「公女様、この度はお騒がせしてしまい、誠に申し訳ありませんでした。今回は公女様に折り入ってお願いがあるのです。」
「なんなの...?」
嫌な予感しかしないわ。
「私を救ってください。公女様。もう限界なのです。もう公女様の恋路の邪魔はいたしません。どうかお願いします!」
「はぁ。貴女は私に敵を救え、とおっしゃるの?」
「その件は本当にごめんなさい。...でも、公女様の役に立つ情報を持ってきたんです。お代として。」
「ふぅん。何を持ってきたの?私にとって都合のいい情報を自ら持ってくるなんて。よっぽどのことがあったのね。」
私は彼女の差し出した封筒を受け取り、中身を見た。そこには信じられないものが会った。
外伝だ。
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最後までご愛読いただき、誠にありがとうございました。
次回作にもご期待ください。