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「貴方の趣味は何ですか?」
デルハンナは、大神殿にいる人々に趣味に関して聞いて回っていた。自分のやりたいことが何なのかを探すのに一生懸命である。
大神殿で暮らす人々も最初は、何を聞いて回っているんだろう? という態度のものもいたが、デルハンナが無垢な瞳で聞いて回っていると次第に答えてくれるようになった。
デルハンナがシロノワと親しいからというのもあるだろうが、デルハンナ自身の気性をまわりの人々が受け入れたからというのもあるだろう。
(皆、色んな趣味を持っているんだなぁ)
デルハンナには趣味というものがなかった。
自由に使える時間もなかった。だからこそ、こうして好きなことを語る大神殿の人たちを見ると何だか自分の世界が広がったようなそんな感覚になっていた。
そのことが嬉しくて、デルハンナは小さく笑ってしまう。
シロノワの傍に控えている時も、そんな調子である。
シロノワはデルハンナが嬉しそうにしているのが嬉しいのか、ご機嫌そうだ。
「シロちゃん、私ね、自分の趣味を見つけようって思うの楽しいの」
「にゃぁにゃあ」
「シロちゃんも喜んでくれているの? ありがとう。ふふ、シロちゃんが大神殿に私のことを連れて来てくれたから……だからこうして趣味を探すことも出来ているんだよ。本当にありがとね、シロちゃん」
「にゃっ」
シロノワはデルハンナの言葉に、気にする必要もないとでもいう風に鳴き声をあげる。
「シロちゃんの趣味は何かな? お散歩とか、日光浴?」
「にゃっ!」
「ふふ、大神殿の敷地内でお気に入りのお昼寝スポット見つけたんだよね。私も一緒に今度お昼寝してもいい?」
「にゃっ!」
「ありがとう」
シロノワは大神殿を探索する中で、既にお気に入りのスポットというものを見つけている。あくまでシロノワは猫なので、自由気ままである。おつきのものたちなど放っておいて自由気ままに動き回るようなそういうものである。
なので、シロノワの後ろをついていくものたちは結構大変らしい。
ただシロノワは、聖女として絶大な力を持っており、一匹でうろうろしていても問題はないようだが……それでも大事な聖女様なので、一匹にしないように気を付けてはいるらしい。
「今度ね、リスダイさんに乗馬を教えてもらうの。お馬さんの上に乗れるの楽しみだなぁって思うけれど、私に出来るかなって少しドキドキしちゃう」
「にゃにゃにゃ!」
「シロちゃんも行きたいの?」
「にゃっ!」
「じゃあ、リスダイさんに言って一緒にやろうか。でも聖女様なシロちゃんが乗馬に付き添いするってなると、ベッレード様たちにも言っておかなきゃね。でも付き添いなだけならいいのかな?」
「にゃにゃにゃ!」
「え? シロちゃんも乗馬する? シロちゃんは猫だから難しいんじゃないかな……。あ、でも聖女様だから出来るってこと?」
「にゃっ!」
デルハンナは白猫であるシロノワが馬の上に乗るのを想像して何とも言えない気持ちになった。
そもそも猫が乗馬など出来るのか? という話になるが、シロノワは普通の猫ではない。やっぱり聖女様なので乗馬だって簡単に出来てしまうのだろうかなどと考える。
「シロちゃんが、お馬さんの上に乗ったらきっと楽しいと思うわ」
「にゃにゃ」
「何だかシロちゃんを見ていると乗馬ぐらい簡単に出来そうな気がするわ」
そんな会話を交わしながら、シロノワとデルハンナは楽しそうだ。
その後、ベッレードたちにシロノワも乗馬に行くことを告げれば不思議そうな顔をされた。それはそうだろう。白猫が乗馬……? となるのは当然である。しかしそこは聖女であるシロノワの言うことなので、許可された。
リスダイは聖女であるシロノワも一緒に乗馬をするということで、何かあったら大変だと身を引き締めるのであった。
(シロちゃんとリスダイさんと一緒に乗馬かぁ。どんなことになるかな? でもシロちゃんが一緒ならなんだって上手くいく気がする。私が乗馬を出来るようになれるのかな……っていう不安も当然あるけれど、シロちゃんとリスダイさんが一緒なら何かあってもきっと大丈夫だよね)
乗馬の日程が組まれ、それまでの間、デルハンナはふわふわとした気持ちになっている。
初めて行うこと、それも必要に応じてやることではなく、ただ好きなようにやろうとしていること。
デルハンナはそれを行うことが何だか不思議な気持ちで、それでいてどうしようもなく楽しみだった。
まるでお出かけ前の子供のように、与えられた部屋のベッドで中々寝付けなかったりする。
ちなみにデルハンナの部屋はシロノワの部屋の隣なので、夜にシロノワがデルハンナのベッドにもぐりこんでくることはよくある。
その日もシロノワはデルハンナのベッドにやってきていた。
「にゃにゃ?」
まだ寝てないのかと、シロノワは鳴く。
「ふふ、シロちゃん、乗馬楽しみだなって中々寝付けなくて」
「にゃっ!」
まだ先なのだから寝るようにと、シロノワが鳴く。
そして中々寝付けないデルハンナに、シロノワが子守歌のようなものを「にゃにゃにゃ~」と歌い始めた。それを聞きながらデルハンナはようやく眠りに付くのであった。