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 デルハンナは、花や木々が好きだ。

 見ているだけでその美しい深緑は、見ているだけで心が高揚してくるものである。




「此処は……?」

「私のお気に入りの場所です。此処に来ると穏やかな気持ちになりませんか? デルハンナさんも気に入ってくれるといいのですが」

「気に入るに決まっておりますわ。とっても素敵です。何だか静かなところで、落ち着きますね」



 デルハンナは目を輝かせながら、その綺麗に咲く花々を見る。

 綺麗な花を見て、嬉しそうにしているデルハンナはかわいらしいものである。




 その様子を見て、リスダイは小さく笑った。

 目の前の光景に夢中であるデルハンナはリスダイの表情がそんな風に変化していることに気づいていない。




「デルハンナさんは、もっと気楽に考えていいと思います」

「気楽に?」

「そうです。聖女であるシロノワ様が望んで、だからこそ貴方は此処にいる。ならば、此処にいることは当然のことです。自由に、やりたいことを好きなようにやればいいんです」

「……やりたいこと」

「今までデルハンナさんは、やりたいこともやらせてもらえない暮らしをしていたのでしょう? ならばここで好きなことをすればいい」



 リスダイは好きなことをすればいいと、そんな風にデルハンナに告げる。

 デルハンナはその言葉を聞いて、不思議と何だか前向きな気持ちになる。自分が大神殿に居てもいいのだろうか、自分が聖女であるシロノワと一緒にいていいのか、そういう気持ちが真っ直ぐな視線で、真っ直ぐな言葉で言われて何も感じないわけがない。


 デルハンナは、そんな風に言ってくれる人が一人でもいてくれるというだけで大丈夫な気持ちになっている。




「リスダイさん、ありがとうございます。そうですよね……。もしかしたら私が此処にいることを気に食わないと言う人はいるのかもしれない。でもシロちゃんが私に此処にいてほしいって言ってくれているから、堂々と居ていいんですよね。でも好きなことをすればいいというのが……難しいです」

「何でもいいと思いますけどね」

「なんでも……うーん」



 デルハンナは、リスダイの言葉にどうしようかと悩んだ様子を見せる。



(好きなこと……いままでずっと屋敷で言われるがままに過ごしてきた。だから私は自分が何を好きかとか、何をしたいかって分からない。私がこんな風に自由に過ごせるとも思っていなかった。私が好きなものって……なんなんだろう?)



 自分の好きなものがなんなのか、それがデルハンナにはぴんと来ない。

 自分の時間というものも今まであまりなかった。


 庶子という立場だと、そういう風に平民達が想像する貴族のような暮らしは中々出来ないものである。特にデルハンナは家族に恵まれない暮らしをしていた。





「……リスダイさん、私は自分の好きなものが何なのか分からないんです。なので、私は何をしたいかってぴんと来ていなくて」

「それならば好きなことを先に探せばいいだろう。此処だとなんでもやりたいことが色々と挑戦が出来ると思う。何か挑戦してみて、好きなことが見つかればそれをすればいい。護衛として私もそれに付き合いますので」

「ありがとうございます。といっても……まずは何をしたいかもぴんと来ていないのですが」

「ならまずは、周りに何が好きかなどを聞いてみたらどうですか? その中で気になるものから試してみればいいと思います」


 そんな風にリスダイに言われて、それもそうだとデルハンナの目が輝く。

 



(自分の好きなものを探すだなんてそんなことを考えた事なんてなかった。だから、私はそういうことをやるんだと思うだけで、何だか嬉しい、ワクワクした気持ちになる。そういう風に出来るなんて思ってなかった。でもこれもシロちゃんのおかげ……。シロちゃんがこうして私をこの大神殿に連れて来てくれたおかげで……だからそういう好きなことを探すことだって出来るようになった)



 デルハンナは、そんなことを考えてとても嬉しそうに笑っている。

 はにかみながら微笑むデルハンナを見て、リスダイも小さく笑った。




「えっと、じゃあ、リスダイさんの趣味はなんですか?」

「私の趣味ですか?」

「はい。まずは近くにいる人から聞いてみようと思って……、なので教えてもらえたらと」

「そうですね。私は剣を振るうことが好きです。あとは乗馬も」

「そうなんですね。剣を振るうも乗馬もしたことないです」

「……剣を振るうのは流石にデルハンナさんはしない方がいいと思います。乗馬は教えられますが」

「ふふ、ならば乗馬を教えてほしいです!」

「はい」



 そうしてデルハンナとリスダイは、楽しそうに会話を交わしてそんな未来に対する希望を抱く。





(乗馬をしたら次は何をしようか……。そういうのを考えるだけで楽しみになってくる。不思議だな、さっきまで私不安がってたのに)



 デルハンナはそんなことを考えながら、小さく笑うのであった。



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