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「シロノワ様は、歴代最高とも言えるべき聖女様としての力を持ち合わせていますね」
「にゃにゃ」
当然だとでもいう風に、シロノワが鳴く。
シロノワは、水晶を通して結界を張った後も、次々と聖女としての力を披露していった。
水晶を通さなくても自分の力で結界を張る事も出来るようだった。その結界は、どんなものでもはじくらしい。それにシロノワは、とても強い戦闘力を持ち合わせているようだった。
シロノワは幾ら力を使っても元気な様子を見せている。
その様子を見る限り、シロノワはとても強い聖女としての力を持ち合わせているのだろう。
神官たちは興奮したような目で、シロノワのことを見ている。デルハンナもシロノワのことを凄いと目をキラキラさせている。
シロノワは神官たちに囲まれて賛美をされていたわけだが、遠くでシロノワのことを見守っていたデルハンナのことを見つけると、シロノワはすぐにそちらに駆け寄る。
「にゃっ」
「シロちゃん、こっちにきていいの?」
「にゃにゃ」
「ふふ、シロちゃんは聖女様になっても相変わらずだね」
シロノワは自分が聖女として受け入れられても、驕ることはない。それはシロノワが猫だからかもしれないが、今までと全く変わらない様子にデルハンナは小さく笑った。
世の中には、自分の地位が上がったからと驕る人もいる。態度がガラリと変わる人だっている。シロノワは変わらず、あくまでシロノワとしてマイペースに過ごしているだけである。
「ねぇ、シロちゃん。聖女様の役割はとっても大変だと思うの。でもね、私はシロちゃんにシロちゃんのままでいてほしいと思うの。シロちゃんは、シロちゃんらしく聖女様でいてね」
「にゃっ」
「ってごめんね、聖女になったシロちゃんにこんなこと言うなんて、何様だよって感じかもしれないけれど」
「にゃにゃにゃ!!」
デルハンナの言葉に、そんなことを言う存在が居たら許さないとでもいう風に抗議の鳴き声をあげるシロノワ。
シロノワはデルハンナのことが大好きなので、デルハンナに言われることを守るつもりである。第一シロノワにとって、聖女という地位はそこまで重要なものではないのだ。何故ならシロノワは猫だから。
シロノワがデルハンナを心から大切にしていることを大神殿のものたちもすぐに理解が出来ているのでそれを咎めることもない。
シロノワはさっさと聖女としての仕事を終え、あとはのんびり過ごすだけということになった。あくまで猫なので、自由気ままに散歩をしたいらしい。そのシロノワには、別のお付き人たちがつくらしい。
というよりシロノワはデルハンナのことが好きだけれども、あくまで気まぐれな猫なのでずっと一緒にいると言う感じでもない。
「にゃっ」
そんな風に鳴き、自分は散歩に行くから自由にしたらいいと伝えられたのだ。
なので、デルハンナはどうしようかなと悩んでしまう。
デルハンナはあくまでシロノワの付き添いとして此処に来ただけである。シロノワについていくことは、身体能力的にも無理であるし、ついてきてほしくないというのならば一人で行動したほうがいいだろうとは思った。
けれども、どうしようというのが正直な感想である。
ちなみに、リスダイはシロノワに頼まれてデルハンナにつくことになった。
そのこともデルハンナが委縮する要因である。
どうしようと困っているデルハンナ。
そんなデルハンナにリスダイが声をかける。
「デルハンナさん、何処に行きたいとかありますか?」
「……えっと、突然言われても正直分からなくて」
「どこにでも好きなところで大丈夫です」
「でも……」
この大神殿にやってきたばかりのデルハンナは、自分が此処で何が出来るか何をしていいのかといった点で戸惑っている。シロノワは猫なので、環境が変わろうとも何も変わらない。
だけどデルハンナはあくまでシロノワの付き添いとして此処にきているので、一人で行動をしていいのかという不安はあるようだ。
「大丈夫です。デルハンナさんはやりたいことをやりたいようにしたらいいです」
そう言いながらリスダイはどうしたらいいんだろうかと戸惑うデルハンナに手を差し伸べる。
「まずは落ち着ける場所に行きましょうか」
「は、はい」
デルハンナは戸惑いながら頷き、リスダイと共に歩き出す。
リスダイはもっと堂々と此処にいればいいのにとそういう気持ちでいっぱいである。とはいえ、普通の令嬢であったデルハンナがそう言う風に委縮する気持ちも分かっている。
(元々デルハンナさんは庶子だと聞いている。そういう関係で、こういう場所で堂々と居ることに委縮しているのかもしれない。もっと心を落ち着かせて、素の状態で過ごしてもらえたらいいが)
リスダイはそんなことを思いながら案内したのは、大神殿の裏庭である。
そこは人があまり訪れないエリアであるが、綺麗な木々や花々が咲き誇っている。