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大神殿へと到着し、デルハンナは緊張した面立ちである。
自分のようなものが聖女であるシロノワと一緒に、馬車から降りていいものだろうか……、自分が大神殿になんて行ってもいいのだろうか……など今更ながら考えてしまったりもする。
しかしシロノワは、そういうデルハンナの気持ちを知ってか知らずか、「にゃっ」と鳴いて降りようと誘う。
しかも聖女であるシロノワのことを抱っこして降りてほしいというような仕草をする。
デルハンナは良いのだろうかと思いつつ、ベッレードのことを見る。
ベッレードは嬉しそうに笑みを溢して頷いている。
デルハンナはシロノワのことを抱きかかえて、恐る恐るといった様子で馬車から降りる。
聖女がやってくることを今か今かと待ち構えていたらしい大神殿のものたちは、事前に説明を受けているからかデルハンナのことを受け入れている様子である。ただ視線はもちろん、デルハンナの腕の中にいるシロノワである。
周りから視線を受けてデルハンナは落ち着かない様子だが、腕の中のシロノワは「にゃにゃぁ」とデルハンナに抱っこされているからかご機嫌そうな様子だ。何処までもマイペースな様子のシロノワに、デルハンナの緊張も徐々にほぐれていく。
ベッレードに声をかけられ、デルハンナは頭を下げる。
「せ、聖女様であるシロちゃ、シロノワ……」
「にゃっ!!」
「えっとシロちゃんと一緒にこちらでお世話になることになりました。デ、デルハンナと申します。よろしくお願いします」
挨拶のためにシロノワのことを様付けにしようとしたら、シロノワ本人に抗議されたためシロちゃん呼びに戻す。そしてシロノワのことを抱きかかえたまま、挨拶をする。ちなみにシロノワに関しては「にゃっ」と鳴くだけの挨拶である。
でも大神殿の者たちにとっては、待望の聖女であるシロノワが鳴いただけでも感動的なのだろう。
「今回の聖女様はなんてかわいらしいのかしら」
「鳴かれたわっ!」
「素敵だわ」
とシロノワのことをキラキラした目で見ている。
デルハンナに対しても、彼らは嫌な視線を向けることはない。シロノワが大切にしているデルハンナのことを、彼らも大切にしようと思っているのだろう。とはいえ、この大神殿のものたちはそうでもそれ以外はどうかは分からないものだが。
大神殿の中にシロノワを抱きかかえたままデルハンナは足を踏み入れる。ベッレードに案内されながら進むわけだが、相変わらずデルハンナは落ち着かない様子である。
「聖女様はデルハンナさんと同じ場所で過ごしたいですか?」
「にゃ!!」
「では隣の部屋にしましょうか。ちょうど聖女様の隣の部屋も空いてますから」
「にゃにゃっ!」
ベッレードの言葉にシロノワはご機嫌そうに鳴いてるが、デルハンナは驚いた。
「わ、私がシロちゃんの隣の部屋ですか? よろしいのでしょうか?」
「もちろんですよ。聖女様が望んでいる通りに、聖女様が過ごしやすい環境を作るのが私たちの務めですから」
はっきりとそう言い切る様子に聖女に対して、心酔している様子がうかがえる。
「にゃにゃにゃあああ」
シロノワも当然だと言う風に頷いている。寧ろ、デルハンナをシロノワの周りから排除しようという動きがあればシロノワは聖女としての力を行使してでもどうにかすることだろう。
「……ベッレード様、私は此処でどういう立場でいればいいのでしょうか?」
「何もせずに聖女様の隣にいていただければいいですが……それはデルハンナさんは落ち着かなさそうですね。聖女様の侍女という立場にしましょうか。聖女様もデルハンナさんと一緒に居たいということですので」
「にゃ!!」
ベッレードの提案に、シロノワも肯定の鳴き声を発したため、デルハンナはシロノワの侍女という名目のもと大神殿に留まることが決まった。とはいえ、聖女であるシロノワが望んで此処にいるただ一人の存在がデルハンナである。
なので、デルハンナはただの侍女という立場ではないが。
その後、デルハンナは与えられた部屋にシロノワと、神官たちと一緒に訪れた。
「……わぁ、こんな素敵な部屋をもらえるなんて」
「にゃにゃああ」
「シロちゃんも嬉しそうね。自分の部屋に居なくていいの?」
「にゃっ!」
「私と一緒にいる? シロちゃん、ありがとう」
目をキラキラさせて喜んでいるデルハンナを見て、シロノワも嬉しそうに笑っている。シロノワの聖女としての部屋は隣室である。その部屋はデルハンナに与えられた部屋よりもずっと豪勢だが、シロノワはデルハンナと一緒に居たい様子である。
少しずつデルハンナは隣にシロノワがいるのもあり、普段の様子を見せている。神官たちの視線には気にしている様子だが、それでもシロノワといつも通りの会話を交わしている。
白猫と少女が仲がよさそうな様子を見せているのは、中々ほのぼのとした光景である。見ている神官たちもにこにことしながらシロノワとデルハンナの事を見ていた。