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 デルハンナは、シロノワと共にヘイガス大神殿に向かうことになった。

 デルハンナの実家であるハラワド伯爵家は、それをどうにかしようとしていた。デルハンナよりも、他の子供たちの方が聖女の傍に居るのがいいのではないかと推薦したり……とされたわけだが、もちろん、シロノワが望んでいるのはデルハンナなのでそれが通るわけがなかった。



 デルハンナの兄姉たちは悔しそうにしていたものの、権力を持つ神殿と敵対することは得策と思わなかったのだろう。結局のところ、デルハンナが大神殿に行くことは認められた。


 デルハンナは荷造りをして、シロノワと共にすぐに大神殿に向かうことになった。



 そのデルハンナの荷物は伯爵令嬢にしては本当に少なかった。それはデルハンナが伯爵家の庶子として慎ましく生きていたからと言えるだろう。自分のものというものはそこまでない。その小さな荷物を見て、神官が眉をひそめていた。




 馬車の中へと乗り込んだデルハンナは、落ち着かない様子できょろきょろとしていた。

 というのも、デルハンナはこうして馬車に乗ったことはなかった。馬車に乗る家族たちを見守るだけだったのだ。



「わぁ……馬車に私が乗れるなんて」

「にゃぁああん」

「あら、シロちゃん、神官様の隣に居なくてもいいの?」

「にゃぁにゃあああん」



 デルハンナの膝の上に乗り、ご機嫌そうな様子のシロノワ。

 シロノワからしてみたら、デルハンナと一緒に神殿に入れることが嬉しくて仕方がない様子である。





 その向かいに居るのは、神官の男性――ベッレードである。

 彼は、デルハンナとシロノワが仲よさそうな様子に嬉しそうである。



「聖女様は本当に貴方が大好きなのですね。聖女様が嬉しそうで私も喜ばしいです」

「にゃっ!」

「聖女様はデルハンナさんの膝の上が気に入っているのですね」

「にゃぁにゃああああん」



 ベッレードの言葉に、嬉しそうにシロノワは鳴く。

 自分のことが好きだとシロノワが示しているのを見て、デルハンナも嬉しそうに笑う。

 そしてにこにこと笑いながら、シロノワの頭を撫でた。



 デルハンナは大神殿まで向かうまでの間、視線を外へと向ける。あまり見た事のない光景で、全てが楽しいと思って仕方がなかった。




(私が、シロちゃんと一緒に外に出るなんて……。それにこうして新しい場所に、行けるなんて。不思議な気持ち。それにしても何て綺麗なんだろう)



 自分がこうして神殿へと馬車で向かっていることを不思議に思いながらも、外の光景に嬉しそうに目をキラキラさせる。

 狭い世界でずっと生きていたデルハンナにとって、外の世界は新しい刺激ばかりだ。





「にゃぁにゃああ」

「シロちゃんも、嬉しい?」

「にゃっ! にゃにゃああ?」

「ふふ、私もとっても嬉しい」

「にゃにゃにゃあああああん」

「シロちゃんもご機嫌だね。シロちゃんは大神殿に着いたら聖女様として仕事をするんだよね?」

「にゃ!!」

「シロちゃんが聖女様って、とっても素敵だと思うの。でも無理はしないでね、シロちゃん」

「にゃ!!」

「何だか自信満々だね、シロちゃんは。シロちゃんは、もしかして前々から自分が聖女様だって知っていたの?」

「にゃ」

「ならどうして、お嬢様たちにされるがままだったの?」

「にゃにゃにゃああああん」

「お嬢様たちにそういう力を使えなかったの?」

「にゃ!?」

「違う? んー。使ったら大変だと思った?」

「にゃ!」

「でも聖女様の力だったらおめでたいことだよね?」

「にゃにゃにゃ!」

「違うの?」



 

 デルハンナとシロノワは、楽しそうに会話をしている。シロノワは人の言葉を喋れるわけではないが、それでも鳴き声のニュアンスで何となく会話が通じている。



 その様子を見て、ベッレードが微笑ましそうに口を開く。





「聖女様の力というのは、知らない人からしてみれば迫害されることもあるのですよ」

「え? そんなことが?」

「はい。私たちは聖女様の力が女神様より与えられたものだと分かっていますが、人は未知の存在に恐怖を抱くものです。今回の聖女様は猫ですから、特にそういう力が露見すれば、排除しようと動くものがいたでしょう。あくまで私たちが迎えに行ったからこそ、聖女様が本当の聖女様と周りに周知されるのであって、そうでなければ恐ろしい事態になっていたかもしれません」

「……でもシロちゃんは猫だから、人の事情は関係ないですよね?」

「その通りです。でも聖女様が大人しくしていたのは、貴方と一緒に居たかったからだと思いますよ。迫害されるではなく、聖女様として受け入れられて、行くことで貴方のためになると思ったのではないでしょうか」



 ベッレードとデルハンナがそんな会話を交わす。

 ベッレードがシロノワの方を見れば、肯定するように「にゃあん」と鳴いた。



 そんなシロノワに、デルハンナは嬉しくなって笑みをこぼす。




 大神殿へと道のりは数日かかったが、その間、シロノワはデルハンナにべったりとしていた。

 そして、大神殿へと到着する。




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