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「私はリスダイさんの気持ちを受けようと思います。ふつつかものですが、よろしくお願いします」


 ――デルハンナは、シロノワと夢の中で話したことによりすっかり吹っ切れていた。


 ほかでもないシロノワが、背中を押してくれたから。

 だけれどもリスダイからしてみればデルハンナの変化は何処までも突然だったので、喜ぶと同時に驚いていたようである。



「本当ですか? 嬉しいですが、昨日まで避けられていたので驚きました」

「……シロちゃんが、夢の中に出てきたんです。私はこの大神殿での暮らしが、ただ幸福で、それ以上の幸せを自分が望んでいいのかわかりませんでした。シロちゃんが『聖女』様として引き取られたことも、私がその白猫であり『聖女』であるシロちゃんの飼い主としてここで暮らしていることも……なんだか実感のない夢みたいで。リスダイさんからの気持ちは嬉しかったけれど、私がそんな幸福を受け入れていいのかなとか、そういうことばかり考えてしまっていたんです」



 デルハンナはそう言い切りながら、もう決めたとばかりにリスダイのことをまっすぐに見つめた。



「考えてみると馬鹿みたいな話で、幸せであることを恐れることなんてなかったんです。何より、シロちゃんが背中を押してくれました。シロちゃんが背中を押してくれて、私は幸せになりたいって思いました。他でもない、リスダイさんと。私は足らないものも沢山多くて、『飼い主令嬢』みたいに言われていても結局平凡でしかない。でも……リスダイさんの横に自信をもって立てる私になりたいし、シロちゃんとお友達でいても周りから何も言われないような私になりたいって思いました」



 それまでの暮らしから自信なんてなくて、幸せを享受していいのかも分からなくて――だけど、他でもないシロノワが、背中を押してくれたから。

 だからこそ、デルハンナはそう口にする。



 リスダイはその言葉に笑った。




(デルハンナさんは、可愛い人で守ってあげたくなるような雰囲気を持っている。でもそれだけじゃなくて、芯の部分の強さというか、前を向いて歩こうとする力がある。なんて力強いんだろうか)



 ――デルハンナの知らなかった一面を知れた気持ちになって、リスダイは嬉しくなった。



 ただ守られるだけではなくて、その姿はとても輝いているように見える。

 



「私はデルハンナさんが頑張りたいというのならば、幾らでも力を貸します。ただ無理はしないでください。私は大好きな貴方の笑顔が、無理をして失われるのは嫌ですから」

「……も、もう。リスダイさんはまたそんなことを言って!」

「本心からの言葉です。照れた姿も可愛いですよ。デルハンナさんの笑みは、見ていてとてもほっとします。シロノワ様も、そんなデルハンナさんの笑みが好きなんだと思います」

「あ、ありがとうございます」



 デルハンナは先ほどまで堂々として、リスダイを見ていたのにすっかり顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。



 リスダイの気持ちを受け入れて、リスダイと共に歩むと決めたもののやはりこうやって好意を真正面から向けられると恥ずかしさが大きいのだろう。

 恥ずかしそうに顔を赤らめるデルハンナを見て、リスダイは嬉しそうに笑っている。





「デルハンナさんが笑っていられるようにしなければ、私もシロノワ様に怒られてしまいますからね。全力で幸せにすると誓います」

「……わ、私のことは、デルハンナと呼んでください。その、恋人になるんですから」

「じゃあ、私のこともリスダイと」

「は、はい。リスダイ。って……なんだか、照れますね」


 デルハンナは少しの躊躇いを感じながらも、ちゃんとリスダイのことを呼び捨てにする。とはいえ、男の人を呼び捨てにすることなんて今までなかったからか、戸惑った様子である。



 目の前で嬉しそうに笑うリスダイを見ながら、デルハンナは本当に恋人になるんだなぁなんて自覚する。





(私がリスダイさんと恋人になれるなんて……全く考えてなかった。そもそもずっとあの屋敷で、使われるだけだと思っていた。結婚するにしても何らかの政略のためだと思っていた。でも今、私は……こうしてリスダイさんの手を取れる。それがなんだか嬉しい……。未来がどうなるかなんてわからないけれど、きっと私は幸せになる)




 不思議とそんな予感がデルハンナはしている。



 未来なんてどうなるか分からないもので、人というものは変化していくものである。でも、それでもリスダイと一緒ならきっと幸せになれるだろうとそんな予感がしていた。

 きっと、自分は幸せになれる――そんな気持ちが、すとんと胸に落ちてくる。




 その日の翌日は、驚くほどに晴天で……なんだかそれも単純な話だけど、世界が自分を祝福してくれているようなそんな感覚にさえデルハンナはなった。

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