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 デルハンナはこっそりとシロノワと勇者、そして彼らとともに魔王退治に向かうために選別させた数名の者たちの訓練を見ている。

 ひっそりと見ているのは、シロノワから勇者と親しくしないようにと言われているからである。

 ちなみにこっそり見ていてもシロノワと勇者には実はそのことを悟られているが、彼らが特にそれに対して言及することはなかった。



「すごいなぁ」

「そうですね。流石聖女様と勇者様です」


 デルハンナはリスダイとそんな会話を交わしていた。

 

 聖女であるシロノワと勇者であるマテッドはそれはもう訓練からしてみてもすさまじかった。従来の聖女は、というより人々のイメージの中の聖女はどちらかというと周りを浄化というか、回復魔法を使うというかそういうイメージが多い。だけれどもシロノワは聖女であるというのに勇者であるマテッドと模擬戦をしていた。

 それも何でかは分からないが中々本気で模擬戦をしているようであった。その模擬戦は一言で熾烈といえるだろう。


  大きな音が鳴り、一部の地形が変わり――といってもその地形はシロノワが直していたが。

 それでも決して聖女と勇者の関係として正しいのだろうか……と思えるような模擬戦を彼らはしていた。


 とはいえ、彼らが仲が悪いかといえばそういうわけでもなさそうだ。

 それなりに会話を交わしているし、なんだか悪友とかそういう単語が似合いそうな関係といえるだろうか。

 


 マテッドはシロノワのことを撫でたそうにしているが、全く以て撫でさせてはもらえていない。

 デルハンナが少しぐらい撫でさせてあげれば? といってもあいつにだけは嫌だなどとシロノワは言うのである。

 嫌っているわけではなさそうだが、なんだか気に食わないことでもあるのかもしれない。

 


「それにしてもどうしてシロちゃんは勇者様にあんな態度なんだろう?」

「わかりませんが、聖女様だからこそ見れる光景があるのでしょうね」


 デルハンナは勇者であるマテッドと話したのは限られた回数である。それでも同じ大神殿にいるのでマテッドがどういう人間かという噂は入ってくる。

 マテッドはまさに勇者という名にふさわしく、大神殿の中でも立場の低い神官などにも優しいらしい。

 権力者の中には、立場が上の存在にしかそういう態度をしない人などもいるのでそのあたりが評判になっているんだとか。

 中には心優しい勇者に懸想しているものも多いと聞く。

 ただしいくら懸想したとしても、マテッドが靡く気配はなさそうだが。



 勇者に関しては魔王退治という使命があるからというのを言い訳にしているようだが、デルハンナはシロノワと勇者の会話を聞いてしまったのでそれが事実ではないことを知っている。

 どうやら勇者はそういう思いを向けられても応えるつもりは全くなさそうであった。

 興味がないというより何か決めていることがあるといった様子で、デルハンナとしてみれば将来を約束している方でもいるのだろうかと思ったぐらいである。





 デルハンナとリスダイの視界の先で、シロノワとマテッドの模擬戦が終わる。

 ちなみにあまりにもそれが本気の模擬戦なので、周りは若干引いていたりもする。シロノワたちとともに魔王退治に向かう面々もよくひきつった顔をしている。あと彼らともそこまで親しくしなくていいとシロノワには言われていた。

 王子や勇者ほどの拒絶はされていないが、シロノワがそう言うなら最低限の挨拶だけしておこうとデルハンナはそれ以上のことはしていない。


 模擬戦が終わったシロノワは、すぐにデルハンナの方へとやってきた。

 それを見てようやくデルハンナはシロノワが自分に気づいていたことに気づく。




『ハナちゃん』

「シロちゃん、お疲れ様。私がこっそり見ていてもシロちゃんは気づいちゃうんだね」

『当たり前。ハナちゃんのことはどこにいても気づけるから。だからハナちゃんが例えば何か大変な目にあって、居場所が分からないとかになっても私ならわかる』

「ふふ、面白いことを言うね。シロちゃんは。でもありがとう。シロちゃんがそんな風に言ってくれると、万が一そういうことになっても安心ね」

『そんな目にはあわせないけどね』



 そんなことをいうシロノワの身体をデルハンナは優しくなでる。

 シロノワはデルハンナに撫でられることが嬉しくて仕方がないのか、喉を鳴らしていた。




 相変わらずシロノワがこれだけ撫でさせるのはデルハンナだけである。





「シロちゃん、聖女様として頑張るシロちゃんも素敵だけどあんまり無理はしないでね?」

『うん。無理はしてない。私、やりたくないことはしない』

「うん。それでいいよ。シロちゃんが無理をしすぎて倒れたりしたら私嫌だからね」



 マテッドとの模擬戦も含めて、シロノワは聖女として沢山働いている。なのでデルハンナとしてみればシロノワが倒れたら嫌だなと思っているのだ。シロノワはそれだけ働いていても全く疲れた様子はないが、心配なものは心配である。

 心配されたシロノワは嬉しそうににゃああんと鳴いた。





 

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