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「リスダイさん、どうしたんですか?」
リスダイの様子が最近おかしくて、デルハンナは不思議に思いそう問いかける。
リスダイの様子がおかしい原因は、シロノワがリスダイに対してデルハンナを娶ることを許すといった旨を伝えていたからである。
もちろん、デルハンナがそれを望まなければシロノワはリスダイ相手であろうとも、デルハンナを娶らせることはしないだろうが。
言ってしまえば、リスダイはシロノワの言葉からデルハンナのことを意識していたのだ。
尤も、デルハンナはそういう会話がシロノワとリスダイの間でなされていたことも知らないので嫌われてしまったのだろうかと少し悲しんでいた。
自分がリスダイから意識されているとは全く思っていないのだ。
庶子として周りから求められることなどなかったので、そういう風にどうしても思ってしまうのだろう。
デルハンナの自己評価はそこまで高くはない。
シロノワなんかはデルハンナのことを大好きで、特別視しているのでよく『ハナちゃん、可愛い』などと示しているが、デルハンナはそれは仲が良いお友達だからこその欲目だと思っている。
「ねぇ、シロちゃん。私、リスダイさんに嫌われてかな?」
『あいつ、私のハナちゃんを悲しませているの? ちょっと行ってくる」
「え、シロちゃん?」
シロノワはデルハンナから相談をされると、デルハンナの制止の言葉など聞かずにでリスダイの元へと向かっていってしまった。
デルハンナはそれを見て、シロちゃんに相談するのは失敗だったかなと心配そうな顔をするのだった。
その後、なぜかしばらくして戻ってきたシロノワは怒りを見せずに『ハナちゃん、リスダイはハナちゃんを嫌ってないよ。あの態度はちょっとしたらおさまるだろうから気にしないで良い』なんて言われるのである。
デルハンナはその言葉に不思議そうな顔をしながらも、シロノワが言うならとそれ以上追及しないのであった。
(それにしてもシロちゃんはリスダイさんのことを私よりもずっと分かっているんだなぁ。シロちゃんってこう、人のことをよく見ていたりするものね。シロちゃんってやっぱりすごい。私はリスダイさんと一緒に居る時間はシロちゃんよりも長いけれど……、それでも私よりもシロちゃんの方がリスダイさんのことを分かっているんだなぁ)
デルハンナは何だか少しだけ寂しい気持ちになる。
もちろん、シロノワの人間観察能力などが高いからこそだとは思うけれども、シロノワよりも自分の方がリスダイと一緒に居ることが多いのに、リスダイ自身のことを理解出来ないこと。
――仲良くなった人のことは理解したいと思うのに、様子がおかしい原因をシロノワにはいっても自分には言わないこと。
それが何だかデルハンナはショックだった。
もっと自分が周りの人のことを分かるようになればいいのに、そして悩んだ時に相談してもらえるようになれたらいいのにとデルハンナは思う。
もちろん、シロノワは聖女であるためデルハンナとはまた違う感覚を持っているだろう。聖女であるシロノワは誰よりも力が強く、特別な存在なのだから。
それでも特別じゃないからといって、自分のやりたいことを諦めるのは間違っている。
シロノワが特別だからこそ周りのことが分かるんだって思い込むのは簡単だけれども、そうは思っていない。
(シロちゃんは特別な存在だけど、私が知らない所でシロちゃんはもしかしたら苦労していたとかそういうことだってあるのかもしれない。シロちゃんは家にいた頃から私にはよく会いにきてくれていたけれど……それ以外の時間にシロちゃんが何をしていたか私は知らない。シロちゃんはその間に一生懸命だったのかもしれない。聖女がどういう風に選ばれるか分からないけれど、今までとは違い白猫の聖女が選ばれたのは多分そういうところを女神様が気に入ったからとかなのかな?)
デルハンナはただの令嬢なので、女神様が何を思ってシロノワを聖女としたのかは分からない。神の思考をただの人間が理解することなど難しいことである。
一先ずデルハンナは気持ちを切り替えて、リスダイがどうしてああいう態度なのかなと観察することにした。
しかしリスダイはデルハンナが観察すればするほど不思議な態度をしていてデルハンナにはよくわからなかった。
でもリスダイはデルハンナのことを嫌っているわけではないというのは本当のことらしい。それはリスダイ本人も言っていた。
その挙動不審は自分の問題なのだと言っていた。
しばらくしてリスダイの態度も前のように戻ったものの、やはりどこかぎこちない気がして……、デルハンナはいつかその原因を知れたらいいななどと考えているのだった。
そしてそんな日々を過ごしている中で、勇者である少年が発見された。