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「シロノワ様は、本当に不思議な聖女様ですね。デルハンナさんに預言のようなものもしてますし」
『預言じゃない。それより、リスダイはハナちゃんの傍に行く!!』
珍しく……、その場にはデルハンナは居ない。
基本的に聖女の飼い主であるデルハンナの傍にリスダイは控えているわけだが、今はその場にはシロノワとリスダイだけである。
「デルハンナさんは今、お休み中です。他の護衛が控えているので問題ありませんよ」
『あいつら駄目。私のハナちゃんの価値分かってない』
「私も似たようなものだと思いますが?」
『リスダイは違う。ハナちゃんの護衛を進んでしてくれているから』
シロノワはそんなことを文字で伝えてくる。
聖女の飼い主令嬢などと言われていてもあくまでもデルハンナはおまけである。メインディッシュは聖女様であるシロノワであり、聖女様以上に優先されるものはないと皆が思っている。
だからこそ、デルハンナの傍にいるよりもシロノワの傍に居ようとしている者の方が多い。デルハンナ自身を心配して、デルハンナの方を優先するような人はこの大神殿にほぼいないと言える。
尤もそれは当たり前といえば当たり前の話だ。
デルハンナ自身だって、聖女様であるシロノワ以上に自分が優先されることはないとそれを知っている。
それは当然のことである。聖女というのはこの世界にとっても最も重要で特別な立場である。聖女の付き添いとして大神殿を訪れているデルハンナは、シロノワから特別視されていなければ周りから目をかけられることもなかっただろう。
――なので聖女の飼い主であるデルハンナをそれなりに特別視していても、護衛たちもデルハンナの傍にずっといるよりもシロノワの傍にいることを望む。
だけどリスダイは特にデルハンナの護衛をすることに対して不満を唱えていなかった。
まぁ、リスダイ本人としてみれば可愛いものが好きなので、デルハンナを守ることに特に不満はない。
そう言うリスダイだから、シロノワはデルハンナのことを任せているのかもしれない。
例えばの話だが、もしリスダイがシロノワのことだけを優先して、デルハンナのことを蔑ろにしていれば……シロノワは護衛としてリスダイをデルハンナの傍に置くことを許さなかっただろう。
『ハナちゃん、何よりも大事。私はハナちゃんを危険な目に遭わせる人を許さない』
シロノワはそう言い切る。
シロノワにとって、重要な人間というのは言ってしまえばデルハンナだけである。なので、デルハンナが例えば……人間の敵に回ることがあれば間違いなくシロノワも人間の敵に回るだろう。
そう言う危険性があることを、正しく理解しているものはこの大神殿の中でもあまりいない。
リスダイはシロノワとデルハンナとも関わったことがあるので、そういうシロノワの本質を何だかんだ理解している。
「シロノワ様がデルハンナさんの傍に王子殿下たちを近づけないのもそれが理由ですか? 王子殿下が危険な目に遭わせると?」
『本人は違うかも。でもハナちゃんがああいう権力者と仲良くなったら、ハナちゃんは狙われる。私はハナちゃんに王子のことも、『勇者』のことも近づけさせたくない』
「デルハンナさんに、普通の幸せを与えたいということでしょうか?」
『うん。権力者とかと関わると、ハナちゃん大変。ハナちゃんが危険な目に遭う可能性なんて、許さない。その点、リスダイは許す。そういう権力はないでしょ』
「……なんだか、そういう方々と関わったらデルハンナさんが大変な目に遭うと確信しているみたいですね」
『うん。危険になるはず。結果的に幸せになるとしても、私はその過程でハナちゃんが危険な目に遭うのを許せない』
――シロノワはそんなことを文字で示す。
聖女であるシロノワに何が見えているのかはリスダイには分からない。だけれども、権力者に近づくということはそれだけ危険も伴うということ。
シロノワは最終的に例えばハッピーエンドになったとしても、その過程で何かがあるのも嫌らしい。
シロノワにとってみればデルハンナは特別な少女で、そういう権力者たちもデルハンナに惹かれることもあるかもしれないと思っているのかもしれない。
『ハナちゃんには幸せになってほしいから。リスダイはハナちゃんのこと、好き?』
「え? いや、嫌いではないですよ。可愛いとは思ってますし」
『じゃあ、ハナちゃんのこと、お嫁さんにする? ハナちゃんのことを悲しませないって言うなら許すよ? どう? ハナちゃんに欲情しない? あんなに可愛いのに?』
猫であるシロノワなので、中々直接的なことを文字で示していた。
リスダイはその物言いに顔を赤くしながら、戸惑ったような表情を浮かべるのであった。