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「貴方が聖女様の飼い主と呼ばれている令嬢か。シャバランだ。よろしく」
「は、はい。デルハンナです。よろしくお願いいます」
「にゃあああああああ」
……シャバランとデルハンナが挨拶を交わしていると、シロノワは何が不満なのか割り込んできて威嚇している。
シロノワはシャバランの何が気に食わないのだろうか。
デルハンナは困った顔をしている。
「シロちゃん、どうしたの?」
『ハナちゃんはね、こういう人と仲よくしたら駄目なの』
「どうして?」
『どうしてもなの!』
デルハンナはシロノワがこういう態度をしているのが珍しくて、不思議そうな顔をしている。
シロノワは理由もなしにこんな風に言うことはない。だと言うのにこんな風に言うのは何か理由があるのだろう。
「聖女様、私は聖女様に警戒されるようなことはしないのだが」
『それでも駄目。私のハナちゃんに、王族は近づかないでいいの』
シロノワは中々不敬な言葉を口にしているが、まぁ、そのあたりはシロノワが聖女なので特に問題がないことであると言えるだろう。
デルハンナはハラハラした様子を見せているが、シロノワは気にした様子はない。
『いい? ハナちゃん。ハナちゃんはね、王族と仲よくしなくてもいいの。ほら、向こういってて』
「え、でも」
『不敬罪とか気にしなくていいの。私がいいって言っているんだから。ね!』
「う、うん」
デルハンナはシロノワの勢いに頷き、シロノワの後ろへと控える。
シャバランは何か言いたそうにしているが、シロノワが完全に拒否しているのでデルハンナに話しかけることを諦めたようだ。
聖女の飼い主であるデルハンナのことを気にしているものの、聖女であるシロノワの機嫌を損ねないようにしたいと思っているのだろう。
シャバランにとってみたら、デルハンナよりもシロノワの方が重要なのだ。
(どうしてシロちゃんは私のことを近づけさせないようにしているのだろうか。私が王族の方に無礼をするからとかではなさそうだし……。ならどうしてだろう。シロちゃんが理由もなく何かを駄目なんて今まで言ってこなかったのに。でもシロちゃんがそんな風に言うなんてきっと理由があるんだよね。私はシロちゃんのことを信頼しているから、シロちゃんが言うなら挨拶をする程度にしておこう。シロちゃんは挨拶もしてほしくなさそうだけど……)
シロノワがどうしてそんな風に近づいたら駄目というのかは分からないけれども、デルハンナはシロノワの言うことを聞こうと思った。
シロノワはそれからシャバランと少し会話を交わしていた。どちらかというと一方的にシャバランが話し、それにシロノワが答えている形のようだ。
シャバランはシロノワにそういう態度をされても全く気にした様子はなさそうである。
シャバランはしばらくシロノワと話した後、「王城に案内したい」と口にしていたが、シロノワにすぐに拒否されていた。
断られることが分かっていたからだろうか、シャバランは笑って去っていった。
『疲れたわ。ハナちゃん、撫でて』
シャバランが去っていった後、シロノワはそう言いながらデルハンナの側へとやってきた。
デルハンナはシロノワを抱きかかえて身体を撫でる。そうすれば嬉しそうにごろごろとシロノワは声をあげる。
「シロちゃん、お疲れ様。やっぱりシロちゃんも王族の相手は疲れるのね」
『ううん。王族だからっていうか、どうでもいい人間の相手は疲れるの』
「……どうでもいいって、シロちゃんははっきりしているね」
『私にとって一番特別なのはハナちゃんだもん』
「そういってもらえるのは嬉しいけれど……対応はちゃんとしようね」
『それはちゃんとするよ。ハナちゃんのために!』
デルハンナは人のために動くのが聖女としての正しい姿だと思っているが、シロノワが真面目に聖女としての仕事はしているのでいいかとそれ以上何も言わなかった。
「そっか。ねぇ、シロちゃん。私は王族の方に近づかない方がシロちゃんは嬉しいの?」
『うん』
「なら、私はそうするようにするね。他に近づいて欲しくない人はいるの?」
『『勇者』も駄目』
「そうなの? じゃあ、近づかないようにするね。でもシロちゃんと一緒にいると『勇者』様とは少しは関わらなきゃになるかもだけど……」
『ちょっとはいいの。でも仲良くなっちゃ駄目』
シロノワはそんな風にデルハンナに言い放つ。
理由はどうしてだか言えないようだが、それでもシロノワが望んでいるならその通りにしようとデルハンナは思った。
デルハンナが頷けば、シロノワは嬉しそうににゃぁあと鳴くのだった。