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デルハンナは魔王が現れるということで、デルハンナは心配しながらも沢山のことを調べている。だけれども調べたところでデルハンナに何かが出来るわけでもない。逆に調べていく中で、余計に不安になったりもする。
そんなに調べなければいいのにと思われるかもしれないが、心配してしまうものは仕方がないものである。
「……聖女と、勇者と、魔王。私には全くかかわりのない世界だとそう思っていたんだけどなぁ」
自分とかかわりのない世界。
そう思っていた世界が、いまはずっと身近に存在している。デルハンナはそのことを思うと何だか不思議な気持ちと、シロノワのことを心配する気持ちでいっぱいになる。
そうやって過ごしている中で、シロノワに会いに訪れる高貴な人がいた。
「えぇえええ?? シロちゃんのところに王族の方が??」
デルハンナは貴族とはいえ、庶子なので王族などというものに関わったことは当然ない。今までもこれからも関わることがないと思っていた存在――それが王族である。
デルハンナはシロノワの付き添いでこの大神殿にいるわけだが、シロノワの飼い主としてその王族と関わることにもなるかもしれない。そう思うと、緊張して仕方がない。
デルハンナの腹違いの兄姉たちはさぞうらやましがることだろう。
『ハナちゃん、そんなに驚くこと?』
「だ、だって王族だよ? シロちゃんはどうして逆にそこまで落ち着いているの?」
『だって私は猫だもん。王族とか知らない』
ばっさりとシロノワは、デルハンナの膝の上でくつろいだままそんなことを言う。
シロノワは王族が相手だろうとも、全く気にした様子がなかった。デルハンナはあわあわしている。
『ハナちゃんも何も気にせずに接すればいいのよ』
「む、むりぃいい」
『大丈夫、ハナちゃんを虐める奴だったらぶっ飛ばすから』
「だ、駄目だよぉお!!」
シロノワ、猫であるというのもあり全く以て王族相手に敬意を払おうと思っていないようだ。
聖女であるシロノワが敬意を払うべき相手というのはほとんどいないわけだが。ただし今までの聖女たちは人間の少女だったので王族に敬意を抱くものばかりだった。中には王族と結婚したものもいる。なので、聖女とはいえ王族を敬う者は多かった。
やはりシロノワが白猫の聖女であるので、そういうのは関係ない。
『ハナちゃんがこうやって取り乱すの珍しいね。王族ってそんなに取り乱すもの? ハナちゃんが嫌なら来訪断る?』
「駄目だよ! シロちゃん……、私、王族の方と会うなんて考えたこともなかったから何だか不安で」
『大丈夫! 私がついていて、ハナちゃんの敵はどうにかするの』
「お、王族と敵対しないようにね。シロちゃん」
『約束は出来ないよ。だって私の気に食わないことしたらそうなるよ』
ばっさりとそう言われる。
シロノワはそこまで怒ることはない。基本的に穏やかで、聖女としての力を無暗に使うこともない。
だからよっぽどのことをしなければ、シロノワが王族と敵対することはないだろう。
「……シロちゃんが誰かと敵対するの、私は嫌だな。シロちゃんが周りから嫌な風に言われるのも嫌だもん」
『そんなに喧嘩はしない! でも私は許せないことだと、引かない』
「うん、まぁ、許さないことだと仕方がないだろうけれども……。王族の方はシロちゃんに無体な真似はしないと思うけど……」
『そんなことしたら許さない。ハナちゃんに酷い真似をする人も許さない』
デルハンナは住まう国の王族たちについての噂は少しはきいたことはある。その中で悪い噂はそこまで聞いたことはない。もちろん、悪い噂が出回らないように蓋をしている可能性もあるが、噂というのは少なからず火元があれば広がるものである。
(シロちゃんに酷いことをしたり、シロちゃんが猫だからと侮った態度をする人じゃなきゃいいなぁ。そして猫のことを好きな人だといいなぁ)
わざわざシロノワに会いに来る王族。
――これでシロノワに酷い態度をしたり、猫が苦手な人だったら困るかもしれないなどと、デルハンナは思っていた。
「猫が苦手な人だったら、ちょっと困るね。シロちゃんが猫なことには変わりがないし」
『それは別にどうでも。関わらないだけだし』
「優しい人だといいけれど……」
『別にそこまで気にしなくていいかも。だって王族だろうと私に関係ない。そんなに関わるかもわからないし』
シロノワはそんなことを言いながら、デルハンナのことをなだめるように告げる。
デルハンナも不安は残るものの、シロノワからそう言われて少しだけ落ち着きを見せていた。
とはいえも、デルハンナは王族が訪れることの緊張はなくなるわけではない。
緊張しながら過ごす中で、王族が訪れる日がやってきた。