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 女神の間と呼ばれるその場所は、美しい女神像が存在する。

 女神というのが実在することを皆が知っているが、それでも女神の姿を見たり、その声を聞けるのは特別な存在だけである。



 ――そして聖女というのは、女神の声を聞けるものである。

 その力によって、どれだけ対話が出来るかは異なる。力が強い聖女は、女神と多く言葉を交わしたとされるが、一般的な聖女は一言二言程度であると言われている。


 聖女は、女神の声を聞く時間というのを設けられているのだ。



 デルハンナは、こうして女神の間に自分が訪れていることがどうも不思議で仕方がない。

 今まで屋敷でひっそりと生きていたデルハンナは、大神殿なんて華やかな場所に自分がいることさえも夢のようだと思っている。それだけでなく、この大神殿の人たちに良くしてもらっていることも、全てなんて夢みたいだろうかと――。





 このヘイガス大神殿の奉っている神というのは、何柱か存在しているが、その中で最も信仰されているのが聖女と関わり深いとされている光の女神――アマシエラ。

 聖女は遥か昔より、この世界にいる。

 聖女というのは、女神様の遣わした特別な存在で、聖女が存在しているだけでこの世界は浄化されていくとも言われている。

 聖女の存在そのものがこの世界の宝であり、聖女とは何よりも大切にしなければならない存在である。



 デルハンナもこのヘイガス大神殿にやってきて、神殿内に保管されている本を読ませてもらったりもした。重要物とされているものらしいが、デルハンナが今の聖女であるシロノワの特別な存在だからと許可されたわけである。

 もちろん、先に口外しないような誓約魔法はかけられている。ただ不思議なことにデルハンナはその誓約魔法もききにくかったらしい。すぐに誓約魔法で縛られることになったが、あの事象がなんなのかはデルハンナには分からない。




(前の聖女様は、女神様と一言二言会話を交わしただけでも大変だったって書いてあったわよね。女神様と対話をするには大きな力がいって倒れちゃうこともあるって。シロちゃんは女神様と会話を交わす前だと言うのにいつも通りだわ。女神様と話すことに対してなんでもないことのような態度)



 シロノワは、デルハンナの目から見てもいつも通りの様子である。


 にゃぁにゃぁと愛らしい鳴き声をあげながら、歩いている。

 女神との対話を前にその調子な事を見て、神官たちはきゃあきゃあと騒いでいる。シロノワが中々今までの聖女とは違い規格外なので、とても期待しているらしい。



 女神の間にそのまま滞在できる人数は限られており、デルハンナはどうして自分が此処にいるのだろうと言う気分になりながらも、リスダイと共にその場に控える。

 ベッレードはにこにこと笑いながら、シロノワの様子を見つめている。




 美しい女神像の前にシロノワが居る。

 そして「にゃっ」と鳴いた瞬間、その場の空気が変わった。



 重圧のようなものが、その場を支配する。

 その神々しいまでの魔力に、リスダイたちが膝をつく。デルハンナは、その魔力に驚いて同じように座り込んだ。とはいえ、デルハンナはじっとシロノワを見つめている周りとは違って、立てなかったわけではない。


 ただ周りが膝をついている中でまた立つのもどうかと思い、座ったままでいる。




(これが、女神様の魔力。とっても心地よいものだわ。なんというか、凄く気持ちが良い)




 姿かたちはきちんと見えない、だけどその神々しい魔力がそこに女神の存在感を感じさせる。


 実際の女神の痕跡。

 女神が、実在すると言う証。



 その場に立ち会えることの不安は、デルハンナの中で吹き飛んでいた。

 この心地よい魔力に対する興奮と、この場にいれる嬉しさと。


 ただ、それだけを感じている。



 シロノワは、その中で流石聖女というべきか平然としている。




「にゃにゃにゃ」



 シロノワが鳴けば、空気が蠢く。

 恐らく今、シロノワは女神の声を聞いている。


 


「にゃにゃ」「にゃにゃにゃ」「にゃ!!」



 シロノワは、沢山鳴いている。

 その鳴き声の分だけ、女神と恐らく話している。



 ――それは決して、一言、二言ではすまなかった。

 長々とシロノワは、女神と会話を交わしている。




(シロちゃんは、凄いなぁ。本を見るとこれだけ多く女神様と話せる聖女は少ないように見えるのに、シロちゃんは平然と女神様と話している)


 疲れも見せないシロノワは、そのまま長々と話していた。



 そして、その神々しい気配は消える前にデルハンナの方に一瞬視線を向けていた。



(シロちゃんと私が仲良しだからかな?)


 デルハンナは呑気にそんなことを思っていた。



 そしてそうこう考えているうちに、シロノワの女神との対話が終わった。





「にゃにゃにゃ」



 対話を終えたシロノワは、迷わずデルハンナの元へとやってきた。随分ご機嫌な様子だ。女神との対話がよっぽど楽しかったのかもしれない。


 デルハンナは座り込んだまま、シロノワの頭を撫でる。




「シロちゃん、お疲れ様」

「にゃにゃにゃ」

「女神様とは仲が良いの?」

「にゃ!!」



 デルハンナが問いかければ、シロノワは嬉しそうに鳴いた。




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