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シロノワの乗馬能力を見せつけられた後、持ってきたお弁当を食べることにする。
このお弁当はわざわざデルハンナが厨房を借りて作ったものである。実家では使用人のように扱われていたデルハンナだが、料理というものが嫌いではなかった。
ここでの穏やかでやることを強制されない日々もいいけれども、料理もしたいと思っていたのでお弁当を作成したのだ。ちなみにシロノワにいつも食べさせていたものも作っている。
デルハンナはハラワドにいた頃、当然の話だが、シロノワが聖女だなんて思っても居なくて、ただの白猫として接していた。その時にシロノワに食べてもらってものである。
「にゃにゃにゃ~」
ちなみに、シロノワはデルハンナの作成した猫ごはんがとても好きなようでごきげんように鳴き声をあげている。
ついてきている神官たちが「可愛い!」「ご機嫌だわっ」「俺たちもあの猫ごはんを学ばなければ」などと声をあげている。
大神殿のものたちはすっかりシロノワに夢中である。
「シロちゃん、美味しい?」
「にゃ!」
「良かった。シロちゃんが気に入ってくれて、私も嬉しい」
シロノワが嬉しそうに食事をとっているのを見て、デルハンナも嬉しそうに笑っている。
一人と一匹がとても穏やかな雰囲気を生み出していて、その様子を見ていたリスダイは可愛いなと内心楽しそうにしている。表情を変えることがあまりないため、表情には出ていないだけだが、デルハンナとシロノワの様子を見ていると幸せなようだ。
「お口にあうかはわかりませんがリスダイさんも、そちらの神官様たちもどうぞ」
デルハンナはそう言いながらリスダイや神官たちにも自分の作ったものを振る舞う。
シロノワも一緒に乗馬に来ることが決まり、何人かの神官が一緒に付きそうことを知ってデルハンナは準備をしていたらしい。
リスダイも神官たちも「美味しい」といって笑っている。
デルハンナは自分の作ったもので美味しいといってもらえるのは嬉しいなと思った。
(……やりたいことが分からないっていっていたけれど、私、料理は結構したいかも)
今までは絶対にしなければならないことに含まれていたこと。だけど、今は絶対にする必要はないけれど、やりたいこと。
(うん、でももっと他にもやりたいこと見つけたい。乗馬ももっとうまくなりたいし、もっと好きなことも見つけたいもの)
そんなことを思いながらデルハンナは嬉しそうに笑った。
食事を食べた後、また少しだけ乗馬をした。シロノワはすっかり馬を乗りこなしていたが、デルハンナの乗馬の訓練に付き合いたいのか、側にいてくれた。
デルハンナの側で「にゃにゃにゃ!」と激励の鳴き声を発しているシロノワは本当にデルハンナのことが大好きなことが見て取れる。
その後、デルハンナの体力が流石に限界になったので乗馬初体験は終了となった。
「はぁ、結構色々痛くなるね」
「にゃっ!」
身体の痛みを感じたデルハンナを見て、シロノワが鳴く。
そうすれば不思議な光がデルハンナを包み込み、痛みが引いた。
「え、シロちゃん、何かしたの?」
「にゃっ」
「聖女の力を使ったの? ありがとう。でも、毎回はしなくてもいいからね? 私、シロちゃんに甘えてばかりではいたくないから」
「にゃにゃ」
デルハンナの言葉に、シロノワは分かったとでもいう風に鳴く。
乗馬を終えた後、デルハンナはシロノワの付き添いとして聖女としての仕事についていくことにした。
とはいえ、デルハンナに出来ることはないので後ろに控えているだけである。
今日は神官たちの力ではどうにもならない怪我や病気の治療をするとのことだった。噂にはきいていても、白猫が聖女というのを見て本当に治してもらえるのだろうか? と思っているものも、シロノワが「にゃ」と鳴き力を行使すればすぐにその考えを覆していた。
聖女様聖女様、ありがたい、素晴らしい聖女様。
そんな風に彼らはシロノワを賛美していた。
ちなみにこういう治療はただというわけではない。何事も只よりも高いものはなく、最低限対価はもらってのものになる。また本当に払う対価がないものは治癒後に後払いで払うことも可能である。
にゃっ。
そう一声鳴くだけで、神聖なる聖女の力を使う。
その穏やかな光は、傷ついた人々を癒していく。
その様子を後ろで見ていたデルハンナは、シロノワの凄さを実感する。
(やっぱりシロちゃんってとっても凄い。それにシロちゃんは可愛くて、慢心もしていなくて、優しい。聖女って言葉はシロちゃんに似合ってる。皆がシロちゃんのこと、好きになってくれてて嬉しいなぁ)
シロノワの凄さを感じ、自分の大好きなシロノワが周りから好かれていることを嬉しいと思う。
時折治療の合間で疲れたらシロノワは、デルハンナに撫でてと「にゃ」と鳴く。部外者がいる中で、聖女を撫でることは少しためらわれたが、シロノワが催促するので、デルハンナはシロノワを撫でたり、シロノワを抱っこしたりと望まれるがままに行動していた。
その様子を見た者たちは、聖女様にはお気に入りの侍女がいるらしいと噂する。
――そしてそれが聖女様として引き取られる前からの知り合いだと知ると、聖女様の飼い主だと噂した。