第4章~縁日に来たボーイスカウトの妹
教会では、1年に1回子供を対象とした縁日があるのですが、教会の方々だけでは人手が足りないので、ボーイスカウトはお手伝いのお願いのプリントを持たされました。
縁日の前日か当日のどちらか1日は、ボーイスカウトの親御さんが、準備または当日の販売のお手伝いをする事になっていました。
親御さんがお手伝いをするにあたって、何人かはボーイスカウトの子の兄弟が連れられてきます。
その中に、僕と同期で入った、ボーイスカウトの妹さんがいました。
(その妹さんを弥生ちゃんとします)
8~9才位の子で、小さいお人形を持っていました。
何人もの親御さんが、慌ただしく作業をしていたところ、弥生ちゃんは教会横の食堂に向かって走って行ったのです。
そこまでは、周りにいた方々も見掛けたのですが、それから暫く弥生ちゃんが戻ってきませんでした。
「弥生ちゃんはどこに行った?」
「皆さんどっかで見ませんでしたか?」
いなくなった弥生ちゃんを探すべく、皆さんは走り回りました。
その時、僕はピンときました。
多分、食堂の外からあの不思議な少女を見たのでしょう。
僕は迷わず食堂へ向かいました。
人を探しているという口実があれば、食堂に入ることは許されるだろうとも思いました。
食堂まであと数十メートルの所で、食堂の中から出てくる弥生ちゃんを発見しました。
ホっ…として、声を掛けようとしたら、その手元を見てびっくりしました。
あの、゛沙織ちゃんのお人形゛を抱えるようにして持っていたからです。
僕は、弥生ちゃんの近くに行って、
「ねえ、そのお人形は持ってきちゃダメなんじゃない?」
と、言うと、
「やっと、お外に出れたの…、これからみんなと遊ぶの…」
と、言って、教会前の広場に走っていったのです。
教会の前には、神父さんがいたのですが、弥生ちゃんの持っていた、あのフランス人形を見た途端、顔が真っ赤になり、鬼のような表情になったのです。
「その人形をどっから持ってきたっ!」
「すぐに戻しなさいっ!」
そう言われると、弥生ちゃんは、神父さんの前から逃げ出しました。
「おいっ、どこに行く!」
「待てっ、待つんだ!」
(神父さんは、周りにいた大人の方にも大声で喚き)
「早くそいつを捕まえろっ!」
「回り込んで挟み撃ちにしろ!」
「絶対に逃がすなっ!」
普段、至って冷静な神父さんが、相当に取り乱していました。
何人かの大人が追っていきましたが、弥生ちゃんの小回りがきく動きに翻弄され、誰も捕まえられませんでした。
弥生ちゃんは、教会前の広場から出入口の門の方に走って行きました。
すると、神父さんが今度は、
「ダ、ダメだっ!そっちに行ってはダメだっ!」
絶叫しながら、今度は恐怖の表情を浮かべました。