第3章~食堂に行かされて
和成君と一緒に、教会の横に回って食堂の側面に向かうと…、
いた!いるではありませんか!あの少女が…、
「よし!俺は食堂の入り口を見張っているから、お前は3分したら食堂の中に入れ!」
「分かったよ、食堂に行くからあのおばちゃんはしっかり見張っておいてよ」
「任せておけ!じゃあ頼んだからな!」
その時の3分が、やけに短く感じました。
「ああっ、もう3分か…」
「くそっ!どうにでもなれ!」
食堂の入り口を見張っている和成君を横目に、あの少女のいる窓際辺りへ、足音を立てずにゆっくりと進んで行きました。
食堂に入る迄はとても嫌でしたが、いざ入ってみると意外に冷静でした。
窓ガラスの後ろ側に着いたものの、そこにはあの少女の姿はなく、和成君が言っていたようにイスに腰掛けた人形がありました。
焦げ茶色の幼児用ハイチェアーに、青いドレスのフランス人形が座っていました。
そのまま帰っても良かったのですが、その人形の目を見ていたら、何故だか触れてみたくなったのです。
左手を伸ばして人形の頬に、そ―っと触れようとした時、後ろから声を掛けられました。
「ヤバい!あの怖いおばちゃんか?」
と、思って恐る恐る振りかえったら、僕のすぐ左側に5才くらいの男の子がいたのです。
そして、こう言ったのです。
「それは、沙織ちゃんのお人形だよ」
「えっ?」
「沙織ちゃんのお人形だから触っちゃダメだよ」
何だ?この男の子は…、
と、思っていると、その子は食堂の入り口の方に走っていってしまいました。
そして、その子が食堂から出る直前に…、
「沙織ちゃんのお人形に触っちゃダメだからね!」
と、言って食堂を出ていきました。
僕は、お人形に触れるのを諦めて、食堂を出ようと思いました。
そのタイミングで、あの怖いおばちゃんが、食堂の入り口にいた和成君を見つけて、
「そこで何してる!またお前か~!」
「今日は食堂に入ってないよ、かくれんぼをしてたんだよ」
「いいから、向こうの広場に行きな!」
和成君が、怖いおばちゃんと話している間、僕は食堂の奥で身を潜めていました。
おばちゃんが立ち去ったのを見計らって、急いで食堂を出ました。
そして、和成君を探しに広場に走りました。
「和成君の見張りのおかげで、見付からないで戻ってこれたよ」
「それで、あの少女はいたのか?」
「どこにもいなかったよ」
「何か、いつもと違う事はなかったのか?」
「そういえば、5才くらいの男の子が僕の近くに来て、あの人形に触るなって言ってきた」
「これは、沙織ちゃんのお人形だからって…」
「本当かよ!俺の時には、そんな子はいなかったぞ!」
「その子は、食堂の入り口に向かって走って行ったから、出て行くのを見たでしょ」
「いいや、俺が見張っている間は誰も出てこなかったぞ!」
「そんなバカな!」
「じゃあ、あの少女も?」
「いたら、ここに一緒にいるはずだろ」
「食堂のテーブルの下に隠れたって事はない?」
「それなら俺が前に食堂に行った時に、何周も見たけど誰もいなかったぞ」
「それじゃあ、今まで見たのは幽霊としか考えようがないね…」
「あ、あのさ…、この事はもう忘れようぜ!ここの7不思議みたいなものだろっ」
それ以来、半年以上あの食堂に入ろうとするボーイスカウトの子は、いませんでした。