第4話(4日目)
第4話(4日目)
この日は雨で俺は外には行かずにテレビをつけていた。後数日で地球諸共自分の人生が終わるというのに、立派な人たちだ。
俺は朝のニュース番組に出ていた人に感心していた。やりたいこともたくさんあるだろうに、使命を全うしている。テレビのこういうところは嫌いではない。
そんな風にテレビをつけている俺の眼前には、少女がいて俺にテレビを見せないようにしていた。
見せないようにしていたというか、単に目の前に立っていただけだが。
「ややや!!!」
早く遊べと言わんばかりに俺の手を引く。だが、生憎の雨模様。海に行く気など毛頭ない。
少女が来たのはついさっきだ。いつもの時間に俺が来ないので呼びにきたってところだろう。だが、行かない。
びしょ濡れにも関わらず、人の家にズカズカと入ってきていきなり腕を引っ張るのだ。こいつは。
「あのな、今日は雨だろ?海では遊べないぞ?」
「???ややや!!!」
聞く耳持たずと言ったところか。グイグイとずっと腕を引っ張ってくる。
「はぁ…、そんなに海が好きか?」
「やー!!!」
俺も慣れてきたのか、この子の言いたいことがわかるようになってきたようだ。随分と海は好きらしい。
「けどダメだ。危ないだろ?」
「………」
随分と頬を膨らませて怒っている。そんなに海で遊びたいのだろうか。だったら一人で遊べばいいのではないだろうか。別に俺が付き合う必要はどこにもない。というか、親が付き合えばいい話だ。いくら世界が終わるからといっても、子が心配じゃない親などいないはずだ。少なくとも俺はそう思いたい。
「ダメなものはダメだ。」
「……」
いつまで膨れているつもりか気にはなったが、いつまでも膨れられているとこっちが滅入る。
「じゃあ、とりあえず服着替えて来い。そうしたらうちの中で遊ぶのは許してやる。」
そうだ。こいつは俺のお気に入りのシャツを着て帰り自分の服は置いて帰っていった。癪だったが、とりあえず少女の服を洗って乾かしておいた。セクハラだとか犯罪だとか言われてもいいことをした気しかしないので、何を言われても堂々といれる自信がある。お気に入りのシャツを着て帰られて、置いて帰られた服を洗ったのだ。感謝されこそすれ、とやかく言われる筋合いはない。
そんな言い訳を考えていると、きちんと着替えてきたようで少女は元の姿に戻っていた。
「脱いだ服はきちんとカゴに入れたか?」
「やー!!!」
すぅー、はぁー、と深呼吸。こっちの話はまるで聞いていないといった感じだ。これは入れてないな。律儀に俺の服を着て戻ってきた割にはルーズなやつだ。
少女は俺の横に座った。ウキウキしたような顔をしているが、何かを待っているのだろうか。
「ややや!!!」
「え?なんだ?おまえの言いたいことはわかるが、言ってることは俺には分からん」
言いたいことはわかる。おそらく、遊べと言っているのだろう。だが、どうやって遊ぶのか俺には分からない。
俺は頭を悩ますがいい案は出てこない。海が好きならととりあえずパズルをさせてみたが、大してよく分からなかったそうで少女は泣きべそをかいていた。
「泣くなよ、うーん、オセロでもするか。」
「???」
俺がオセロを見せると、結構興味をしてしていた。まるで今までやったことないかのような興味の見せ様だが、オセロをやったことない人はあまりいないと思う。が、おそらくやっていない。いや、絶対にやったことがない。なぜなら、コマを上に重ねてドヤ顔をしているからだ。
俺は唖然としたが、人というものは万物を全て知れるわけではない。知らないものもあって当然だ。この子の場合、それがオセロだったというだけだろう。
俺はオセロのルールを教えて一緒に遊ぶことにした。
しばらくしてやっとルールを理解したようで、時間はかかるがオセロで遊べるようにはなった。しかし、向かい合ってすれば楽なのにと、俺が移動したり、少女を移動させたりしても必ず横へ戻ってきてしまう。
こういうところも少し幼馴染に似ている。お姉さん風を吹かすところがあったが、甘えたがりだった。よく俺に引っ付いていたのだ。いや、俺が引っ張られていたの間違いか。とにかく俺の横に常にいたやつだった。
昼飯を食べ終わり、少女はまた眠ってしまった。
俺はすることがないので小説を読んでいた。特に趣味というわけではないが、俺は本が好きだ。読まなくても本というもの自体好きなので色々と集めたりしていた。読んでいないのもたくさんある。そんな本棚から一冊だけ、手に取った本。
<イルカと泣く夜の海>
いかにも感動系の物語のタイトル。俺はこういったもので泣いた試しはないが、最後だから泣けるかもしれないという理由で、読み始めた。
それがなかなかどうして、内容がグロテスクだ。思い出すのも嫌になる程。誰だ、こんなの書いたやつは。
俺が作者ならこんなこと絶対に書かない。そう思って本を閉じた。しかし、本を書くのは難しい。実際書こうとしたことがある。けれど、いい設定は浮かばないし、いい言葉も浮かばない。本を読めと言われても、気分が乗らなければ読むことはなかった。
「ややや!!!」
俺が本を読んで少し澱んでいると、少女がいきなり本を取り上げた。どうやら、この本が俺を苦しめたと思っているらしい。
「あはは、大丈夫。悪いな」
「?!!」
少女は俺の横に座る。そして本を読み始めた。文字を読めるのかと思ったが、どうやら文字は読めないらしく本の上下逆さになっている。なんともアホらしい。
どうやら本を読みたそうだったので、俺は本棚の奥の方に突っ込んであった絵本を取り出してきた。なんでもいいかと思い適当に取ったら、<みにくいアヒルの子>を選び当てた。
それを読み聞かせると、少女はすぐにうとうととし始め、ここからがいいところだというところで眠ってしまった。
あまり本には興味を示さなかったらしい。
そんな少女の横で俺はまたあのグロテスクな本を読み始めた。読み進めたが、やはり俺の肌には合わない。自分に一番合う作品を作れる人は自分ではないと常々思っているが、自分に一番合わない作品を作れる人もまた自分ではなかったわけだ。
それからしばらくは俺は違う本ではあったが、ずっと本を読み、少女は眠っていた。時折やーという声が聞こえるが、何か夢を見ているらしい。楽しそうでなによりだ。
俺は少し休憩しようと、お茶を飲みに台所へ行った。食料もそうめんくらいしか本当にないのだが、やはり最後はいいものを食べるべきかと思い、ダメ元で近くの肉屋に来てみたら、なぜか知らないが店を開けていたので驚いた。
「今、やってるんですか?」
「おぉ、やっと来たな」
店の主人は随分と強面だが、根はかなり優しいおっさんだ。
「悪いな、店閉めちまっててよ」
「いえ、開けているとは思いませんでした」
「ああ、俺もなんでか急に開けたくなったんだ。なんでかわかんねーけど!なはは!!」
「はぁ…」
「まぁ、こいつらもいくら地球が終わるからってこのまま腐るなんてやりきれねーだろ。何のために殺されたんだってな。そりゃ食べられるためだろ。ほれ」
俺はこれでもかってくらい肉を受け取らされる。俺はこんなに受け取れないというと、受け取れと笑顔で脅された。いや、おそらく親切心なんだろうけど、強面なのだ。
俺が家に帰ると、少女はまた居なくなっていて仕方がないので、肉を焼いて一人で食べた。