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つづかぬ世界の海日陰  作者: 洋梨
3/9

第2話(2日目)

翌朝、やはり海の風が心地よかった。砂浜にはすでに少女がいた。


考えてみれば、そもそも、なぜもう一度ここを探そうと思ったのだろうか。もうすでに家に帰ってここに来ないことも容易に考えられる。しかし、

なぜか、この子はまたここに来る気がした。


「おぅ、好きだな。海」

「!!!」


少女はまた嬉しそうな笑顔で俺に近づいてくる。しかし、俺は上から話しかけたので少女の伸ばされた手は俺には届かなかった。


「!?!」

「あはは、分かったわかった。今行くって」


俺が少女の元まで着くと、少女はまた踊っていたのか、息が上がっていて砂浜も不思議な形を模していた。


「!!!」


少女はこれまた嬉しそうに俺に近づいてくる。ここまで嬉しそうにされると、正直悪い気はしない。が、俺はロリコンではない。


「???」

「?いや、なんでもない」


普段この時期、この海から聞こえる喧騒も嘘のように消え去り、ただ心地よい海の風の音のみが聞こえる。鬱陶しい声もないならないで寂しいものだ。あれがムカつくとか、これはイラつくとか、そういった感情は実は幸せの中にしかないものかもしれない。


全てを諦めなければいけない世界では、もしかしたらそれも心地よく感じるのだろうか。


そんなことを考えていると、自然と仁王立ちになる。「友達にも考え事してると腕組みながら仁王立ちになる癖どうにかしたほうがいいよ」と言われたこともあるな。まぁ、今更どうでもいい話だ。


そんな俺を見てから少女は俺の真似をして仁王立ちをしていた。少し自慢げである。


「何してんだ?」

「!!!」


ふふん、と誇らしげな顔で俺の顔を見てくる。20も超えると子どもは可愛く思えてくる。しかし、俺はロリコンでもショタコンでもない。


少女はまた海に向かって走り出す。昨日もそうだったが、海が好きそうな割には沖の方へは全く進もうとしない。ただ、くるぶしくらいが浸かる程度のところまでしか行っていなかった。


不思議な子だなと思いながらも、結局それも個人の自由だ。


風も少し止まる頃、俺は腹が減ってきた。朝何も食べずにここへ来たから、それもそのはずだと思う。


だが、少女はまだ元気に遊んでいる。時折俺の方を見てこっち来ないの?と言わんばかりの目を向けてくるが、生憎俺は海が嫌いだ。


海の風はたしかに心地よい。しかし、それでも、海は嫌いだ。


俺が海を嫌いになった理由。

思い出したくはなかったが、これも最後だと思えば、なかなかどうして、思い出すのも悪い気だけではない。むしろ、思い出してあげないといけないと言う気さえする。


とは思いつつ、腹が減ってしまったので、ご飯を食べに帰ってきた。いくらなんでも時刻的に正午なこの時間まで何も食べずにいたら、背と腹がくっつきそうだ。


流石に俺一人だけで食うのもどうかと思い、少女を誘ってみたら普通についてきた。こんな時でもなければ、誘拐犯として捕まってただろうと思いながら、少女にそうめんをご馳走する。


ツルツルと美味しそうに食べる少女はやはりかわいい。が、俺はロリコンじゃない。


けれど、こんなにかわいいと思うのは、俺の幼馴染と似ているからだろう。


この子と同じで海が大好きだった女の子。そして、ちょうどこのくらいの歳に、彼女は死んでしまった。


沖の方へ行き過ぎてしまったらしい。バカなやつだ。


俺は横になりながら、思い出したくはなかったことを少しずつ思い出す。


思い出したくない記憶ほど、蓋が開けばするすると思い出してくるものだ。


彼女との思い出はたくさんある。その中でも印象的なのは彼女がいつも被っていた麦わら帽子だ。とてもよく似合っていた。俺がそれをそのまま口にしたら「なに言ってるの、もう〜」と言いながら少し照れてもかなり嬉しそうな笑い方をした彼女ははっきりと覚えている。


だって、それを言った次の日からどんな時でも絶対に麦わら帽子を忘れることはなかったから。


思い出したくなかったのは、いい思い出がないからではない。いい思い出の方が強過ぎて、思い出す度に辛くなるからだ。だが、それももうじき終わる。さよならだ。


「??」


少女が俺のところへ一つの麦わら帽子を持ってきた。どうやら勝手に人の家を探検していたらしい。


その帽子を俺は受け取った。


「懐かしいな。この帽子も」


別に幼馴染の形見ではない。幼馴染の帽子は幼馴染の親がきちんと持っている。

これは俺の帽子だ。小さかった頃、俺と幼馴染で作った帽子だった。


「昼は暑いぞ、これはやるからこれを被って遊べ。熱中症は怖いからな」


少女はこれまた嬉しそうに帽子を被る。


長いこと使われず、本来の役目を果たせずにいた帽子が最後に役目を果たせることを嬉しそうにしているように見えるほど、少女の笑顔は眩しかった。


この後、急に睡魔に襲われ俺は倒れるように眠ってしまった。


起きた時には少女ももういなくなっていた。

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