第1話(1日目)
この辺では見ない顔だ。どうせあと1週間だから好きな海でも見ておこうと言ったところか。
その少女の横を通ると、少女は俺に気がついたようで俺のそばに近寄ってきた。
「?どうした?」
「……」
少女はとびきりの笑顔を見せた後、俺の腕を引っ張り、海に行こうとする。しかし、俺はそれを止めた。海沿いと言ってもここはきちんと整備された海沿いだ。砂浜には段差があり直接行けないし、遠くだがたしかに階段も見える。けど、こいつはそのまま砂浜に飛び降りようとした。
「???」
「そんな顔してもダメだ。怪我したらどうするんだ?」
後一週間で終わるのだが、その一週間をそんな形で台無しにするのも酷な話だ。
「!!!」
少女は何かに気がついたように、うんうんと首を縦に振り、そのまま砂浜に飛び降りた。
「あ!なにやってんだ!?」
俺は慌てて少女を見るが、少女は不思議なことになんの怪我もしていないようだ。
早くこっちへおいでと手を招く。仕方なく俺は階段から砂浜に降りて少女のところへ向かう。
後一週間しかないのに、なにをやってんだろ。
少女は俺が着くまでどうやら踊っていたようで、結構息が上がっている。砂浜も踊った後が見える。
「なぁ、おまえ、お母さんやお父さんはどうした?」
俺はしゃがんで少女に話しかける。そんな俺の真似をしたかったのか、少女はさらに俺のしたから顔を覗かせる。
「あのなぁ…親はどこ行ったんだ?」
「???」
「まさか、一人か?」
俺が人差し指を上げて見せると、少女は嬉しそうに俺の指を握る。
「いや、この指とーまれ、じゃないからな?」
「???」
きょとんとした顔だ。ここまではっきりしたものを見るのはいつぶりだろうか。
「仕方ないな。少しだけ遊ぶか。どうせ、何も言わずにきたんだろ。どこから来たのかは知らないけどな」
少女はゆらゆら揺れている。そんな少女の頭を掴み俺はゆらゆらを止める。手を離すと、またゆらゆら揺れる。また止める。また離す。
「あはは、起き上がりこぼしみたいだな」
これが結構楽しい。
少女は、そんな俺の様子を不思議に思ったようで、ふんすと言わんばかりの顔で両手を差し出してくる。
「?どうした?」
「!!!」
少女は俺の両手を掴みその場をくるくる回る。あんまりくるくるしたくはなかったが、起き上がりこぼしをした手前、付き合う他なかった。
ひとしきり回り終えた後、少女は満足そうに海へと走り出した。
俺は結構回されてしまったので少し酔ってしまった。酔い覚ましのためにその場に座り込む。
気持ちの良い風が少し弱くなってくる。そんなことも気にせず、少女はバシャバシャと水を跳ねらせて楽しそうに遊んでいた。
そんな様子を見ていると、後一週間で地球が終わるとは到底思えない。残された時は否が応でも後わずか、それを全力で楽しむのも悪くはないのかもしれない。
そんなことを思い、俺は海へ走り出そうとしたが砂浜に足を取られてその場で派手に転けてしまった。幸い怪我はしなかったが、少女はクスクスと肩を揺らしていた。
それからかなり時間が経ち、時間的には正午が過ぎてから1時間以上経つ、いくら海沿いといえどやはり暑い。
しかし、少女は海でもずっと遊んでいたからか、全然元気だった。汗か水飛沫でかは分からないが、頭から足までぐっしょり濡れてはいたけど。
家に帰りたかったが、このまま少女を放っておいて海に攫われるなんてしても目覚めが悪い。しばらく遊んだら気が済むだろうと思い、少女が遊んでいるところを眺めていたが、結局少女は風がなくなる時間まで遊んでいた。
満足し終えたのか急に少女はどこかへ走り去っていった。俺はまずいと思いながら必死に探したが、結局少女は見つからず家に戻ってきてしまった。
我ながら情けない。大学生のくせして、おおよそ10歳前後くらいの少女に足で勝てないなんて。普段から運動するべきだったと思う。今になって後悔した。
少女が走る時、海の方へ走って行ってはいなかったから大丈夫だとは思うが、それでも心残りだ。明日もう一度探してみて、見つからなければ探してもらおう。どの道こんな暗いと探してはくれないだろう。